644話 紅剣アヴァロン

 食事会も終盤だ。

 今回の合同結婚式は第四夫人から第八夫人のためのものだが、せっかくなので第一夫人から第三夫人も紹介しておこう。


「まずは、第一夫人のミティです。おいで、ミティ」


「はい!」


 俺は彼女の手を優しく握り、壇上へと導く。

 そして、彼女の紹介を始める。


「ミティは鍛冶の達人です。そして、ハンマーの取り扱いに関しては私など足元にも及びません。この可愛らしい容姿からは想像できないほど、豪快で力持ちです」


「あれが有名な”百人力”のミティ殿か……」


「あんなに華奢なのに、どうして……」


「いやいや、見た目に騙されてはいけない。ドワーフ族は筋力特化なのだ」


「服に隠されてはいるが、圧縮された筋肉があるはず」


「なるほど……。納得できる話だ」


「でも、あんなに可愛いのに、筋肉ムキムキは嫌だな」


「何を言う! それがいいのだろうが!」


 観客たちが口々に感想を言い合っている。

 可愛いのは事実だが、ミティは俺のだ。

 やらんぞ。


「それでは、次に第二夫人のアイリスを紹介します。来てくれ、アイリス」


「うん」


 アイリスが俺の横に立つ。


「アイリスは、私が知る限り最も強い武闘家です。ここ最近は武闘大会に出場していませんが、今の彼女の実力であれば以前よりもいい結果を残すことができるでしょう。さらには聖魔法や治療魔法の達人でもあります」


「おお……。彼女が中央大陸出身の武闘神官か」


「”武闘聖女”のアイリス殿……」


「あれが、あの有名な……。まだ若いのに凄いな……」


「聖ミリアリア統一教の聖女か。相当な権限を持つらしいが……」


 参加者たちの反応を見る限りでは、概ね好評のようだ。

 1つだけ誤解があるとすれば、彼女は聖ミリアリア統一教から聖女認定を受けたわけではないということだ。

 あくまで冒険者ギルドが設定した二つ名に聖女の言葉が含まれているだけである。


「最後に、第三夫人のモニカをご紹介したいと思います。こっちだ、モニカ」


「はーい」


 モニカが俺の隣に並ぶ。


「モニカは料理名人です。各地の名物料理をその舌で味わい、会得してきました。本日の料理にも、彼女が腕を振るった逸品が数多く並んでいます。そんな彼女ですが、戦闘時には雷魔法を利用した超速移動で敵を圧倒してくれます。様々な面で頼りになる妻ですよ」


「なるほど……」


「”雷脚”の二つ名は伊達ではないということか」


「戦闘も結構だが、私としてはやはり料理に注目したい」


「確かに……。このマヨネーズとやらは食の都で開発された調味料らしいが、ずいぶんと美味いな」


「私も一度食べたことがある。見事な再現度だ。むしろ、本場よりも旨いかも知れん」


「確かに。これなら毎日食べても飽きないだろう」


 参加者たちの感想を聞く限り、概ね好評だった。

 これでみんなの紹介が終わったな。


「見ての通り、3人共が妊娠しています。もちろん俺の子どもです。ハイブリッジ騎士爵領、そしてサザリアナ王国に貢献できる人材に育てていきます」


 俺はそう言う。

 ひと呼吸を置いて、話を続ける。


「そして、俺自身はさらに上を目指します。この新たな紅剣『アヴァロン』と共に!」


 俺は大剣を高々と掲げ、力強くそう宣言する。

 これは、アヴァロン迷宮から持ち帰った錆びた剣だ。

 ミティによって修繕されたものである。

 彼女の父ダディや、魔導技師ジェイネフェリアからの助力もあり、無事にその本来の性能を取り戻したのだ。


「「「「「おぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」」」


「あの魔剣は……まさかロストアイテムでは!?」


「凄まじい波動を感じる……」


「素晴らしい! 流石はハイブリッジ騎士爵だ!」


「まだ上を目指すとは……。男爵か、子爵か……。一代でそこまで上り詰めた者など、そうはいないはずだが……」


「彼ならその可能性はあるだろう。むしろ現時点でも、農業改革を始め数々の功績を上げているのだ。そういう話があってもおかしくはない」


「上を目指すのは、爵位だけの話ではなかろう。彼は冒険者でもあるのだ」


「Bの次は、Aランクか……。叙爵された冒険者は、活動を縮小する傾向にある。彼も最近は政策の推進ばかりに注力していたようだが……」


「先ほど紹介されたように、優秀な配下が揃っている。領地のことは部下に任せても問題ないと考えているのかもしれんな」


「確かに、彼の戦闘能力を寝かしておくのは惜しいところだ」


 参加している王侯貴族から、口々に声が上がる。

 やはり好意的な意見が多いな。

 今後の方針として、旅に出る方向性は正解だろう。

 それで調整していこう。


 いや、その前に出産があるか。

 男か女か。

 加護付与スキルの適用が可能かどうか。

 魔法や闘気の適性が引き継がれているか。

 ドワーフや兎獣人としての特性が受け継がれているか。

 気になるところである。


 もちろん気になるだけで、それらに違いによって俺からの愛情が増減することはない。

 大切な妻たちとの子どもだ。

 たくさんの愛を注いで育てよう。


 それに、今日結婚した5人との間にもいずれは子どもができる可能性が高い。

 賑やかな大家族になりそうだ。

 俺は満足感に浸りつつ、食事会の終了を見届けたのだった。

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