615話 通路を塞ぐアダマンタイトの巨石

 採掘場にやって来た。

 順調に採掘や開発が進んでいるようだ。

 ただ、ブギー頭領から何やら報告があるらしい。


「それで、何か問題でもあったのか?」


 俺はそう問う。


「差し迫った問題というわけではないのだが……。見た方が早いだろう。付いてきてくれ」


 ブギー頭領がそう言って、歩き出す。

 俺やマリアは、彼に付いていく。


「この中だ」


 案内されたのは、森林や採掘場ではなく、古代遺跡の入口だ。

 一部が風化しているものの、大きな扉があり迫力がある。

 ブギー頭領が中に入り、俺やマリアもそれに続く。


「うわぁ~! すごいね!」


「これはまた……壮観ですわね……」


 マリアやリーゼロッテが思わず見入ってしまうほどの光景が広がっている。

 天井は高く、広さもある。

 壁には無数の壁画が描かれている。

 中には魔法陣や、剣を持った人間のようなものなどが描かれたものもある。


「浅層までは、かつて俺たちが探索を済ませていた。さらにこの1年で、新たにかなりの部分を調査した。だが、まだまだ奥には道が続いているようなのだ」


「ただ、罠が仕掛けられていて危険な箇所も多く、探索は慎重に進めています。それに、採掘や木々の伐採作業もありますので」


 ブギー頭領とジョー副頭領が説明してくれる。


「そうだな。この古代遺跡が何を目的に建立されたものなのかは解らないが、油断は禁物だ。ケガくらいならともかく、即死級の罠に掛かってしまったら取り返しがつかない」


 もちろん四肢欠損レベルのケガもそれはそれで取り返しがつかない。

 しかし、例えば目が見えなかったり右手が使えなかったとしても、人生において他に楽しいことはたくさんある。

 死だけは、そういった未来の可能性を全て潰してしまう最悪の結果だと俺は考えている。

 俺の言葉を聞いて、みんな真剣な表情をしている。


「今後もその調子で探索を進めてくれればいい。ブギー頭領やジョー副頭領には感謝しているぞ」


「ハッハ!  まぁ、この程度は当然のことよ! タカシの坊主の役に立てて嬉しいぜ!」


 ブギー頭領は、そう言うと豪快に笑う。


「それで、肝心の問題とやらは?」


「あれだよ。あそこの巨石だ」


 ブギー頭領が部屋の隅を指さす。

 そこには、確かに大きな岩があった。


「あれがどうかしたのか? なんの変哲もない普通の巨岩にしか見えないが……」


「いや、この巨石はアダマンタイトでできている。非常に硬い上、重い」


「ほう。アダマンタイトか」


 ファンタジーで鉄板の謎鉱石だ。

 こんなところでお目にかかれるとは。


「希少な鉱石だから売却したいのだが、ツルハシでは全く歯が立たず……。しかも重いから、運ぶことすら難しい」


「なるほど……」


 鍛冶師の工房には、硬い鉱石を加工するための施設が用意されていることが多い。

 一度運べれば、加工はできる。

 だが、そもそも運ぶことが難しいと。


「まあ、専用の工具を使えば少しずつ切断することは可能なのだがな。いくつかに分ければ、運ぶことが可能になるはずだ」


「そうか。ハイブリッジ騎士爵領やサザリアナ王国王家にとって、ありがたい収穫になるな」


 アダマンタイトの有用性について具体的には知らない。

 だが、オリハルコンに引けを取らない性能を持つということぐらいは知っている。

 ミリオンズの装備に使用すれば大きな戦闘能力の向上に繋がる。

 王家に献上すれば、覚えが良くなるだろう。

 あるいは、市場に売却して領の運営費の足しにするのもいい。

 これを発見してくれたブギー頭領やジョー副頭領、その他の作業員たちには、ボーナスを上げないとな。


「さらに気になる点がある。実はな、あの岩石の奥は空洞になっているようだ。しかも、かなり深い。あそこに何かが隠されているのかもしれん!」


 ブギー頭領は興奮気味に語る。


「へえ~! 宝物があるのかな?」


「もしくは、隠し通路かもしれませんわね。この遺跡の秘密の部屋に繋がっているとか……」


 マリアやリーゼロッテの言うような可能性はある。


「なるほどな。では、壊すか運ぶかしてみるか。試してみたのか?」


 俺はブギー頭領に問う。


「それがだな……。ちょっと見ていてくれ。おい、ジョー!」


 ブギー頭領の呼びかけに応じて、ジョー副頭領が動く。


「はい。実際にやってみせますか?」


「おう! いくぜ!!」


 2人が闘気を開放する。


「おお!?」


 なかなかの闘気量だ。

 俺たちミリオンズとかつて敵対していた頃よりも、出力が上がっている。

 日々の採掘作業やその合間の鍛錬で、力を伸ばしているようだな。

 加護(微)の影響もあるかもしれない。


「「ぬおおおおぉっ!!」」


 2人がアダマンタイトに手を当て、力を込める。

 しかし、ピクリとも動かない。

 2人が息を荒げながらこちらを見る。


「はぁ……はぁ……。こういうことだ」


「俺たちの力を結集してもビクともしないのです……」


「ふうむ。かなりの重量ということか」


 ならばもっと人数を増やせばとも思うが、そういうわけにはいかない。

 このアダマンタイトの巨石は大きいが、人間が同時に押せるスペースは限られている。

 2人ぐらいが適切だろう。

 さて。

 どうしたものか。

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