608話 加護(微)の開放

 数日が経過した。

 俺は今日も、屋敷の庭でくつろいでいる。

 何だか毎日のようにぐうたらしているようにも思えるが、気のせいだ。

 ちゃんと働くべきときは働いている。


「ミッションは無事に達成できたし……。順調だな」


 俺はそう呟く。

 1週間ほど前にクリスティへ加護(小)を付与したことにより、ミッションを達成できたのだ。



ミッション

加護(小)を新たに5人へ付与せよ。

報酬:加護(微)の開放、スキルポイント20



 これが達成済みとなっている。

 もちろん、報酬も受領済みだ。

 スキルポイント20は大きいし、近いうちにミリオンズのみんなと情報共有して、スキルを強化しておこう。

 とりあえず今は加護(微)の件だ。


 通常の加護や加護(小)は、俺のステータス画面から加護を付与するための画面を開くことで付与を試みることができる。

 条件を満たしていない場合、例えば『忠義度が22ポイント足りません。現在の忠義度:28ポイント』というように表示される。


 通常の加護は忠義度50ポイントが必要で、その恩恵は『全ステータスの3割上昇』と『スキルポイントを消費することによってほぼ自由にスキルの取得及び強化が可能となる』というものだ。

 また、該当者のステータスやスキルを詳細に把握できるようになるという副次的な恩恵もある。


 現在の対象者は、俺、ミティ、アイリス、モニカ、ニム。

 ユナ、マリア、サリエ、リーゼロッテ、蓮華。

 合計10名だ。

 それぞれ、かなりの戦闘能力や生産系技術を持つ。

 累計のスキルポイント量や強化方針にもよるが、通常の加護はかなりのチートだと言っていいだろう。


 加護(小)は忠義度40ポイントが必要で、その恩恵は『全ステータスの2割上昇』と『所持スキルの内の最大3つのスキルレベルをそれぞれ1ずつ上昇』だ。

 また、該当者のステータスやスキルを大雑把にではあるが把握できるようになるという副次的な恩恵がある。


 現在の対象者は、リンとロロ。

 トリスタ、ヒナ、セバス、キリヤ、ヴィルナ。

 バルダイン、レイン、ニルス、ハンナ、クリスティ。

 合計12名だ。


 かつては、サリエ、リーゼロッテ、蓮華も加護(小)の対象者だった時期がある。

 加護(小)を経由して通常の加護を付与した場合、『全ステータスの2割上昇』は一度リセットされ、新たに『全ステータスの3割向上』が適応される。

 一方で、『所持スキルの内の最大3つのスキルレベルをそれぞれ1ずつ上昇』により一度強化されたスキルはリセットされない。

 サリエの治療魔法、リーゼロッテの水魔法、蓮華の剣術などはスキルレベルが強化されたままだった。

 加護(小)を付与できるのであれば、付与しておいた方が間違いなく効率的だ。


 そして、今回追加された加護(微)はどうか。

 今までの流れからすると、付与の条件が『忠義度30』に緩和される代わりに、恩恵が『全ステータスの1割上昇』などに留められるのだと思っていた。

 それは概ね合っていたのだが、誤算が1つあった。


「加護(微)の付与が任意ではなく、自動発動だったとはな……」


 まず最初に試したのは、適当な通行人を相手にした付与だった。

 しかしこれは失敗に終わった。

 忠義度が足りなかったわけではなく、そもそもステータス上に何の表示もされなかったのだ。


 次に試したのは、オリビアと花。

 忠義度が30代後半で、最も加護(小)に近い者たちである。

 だが、彼女たちへの加護(微)の付与も、思っていたようにはならなかった。

 加護(微)の項目を脳内で選択して実行してみても、ステータス上に変化が訪れなかったのだ。


 この世界に来てからの俺は、『ステータス操作』『加護付与』『異世界言語』というチートを活かして無双してきた。

 しかし、別に丁寧なチュートリアルや説明書があったわけではない。

 いろいろと手探りで試行錯誤しながらここまで来た。


 ステータス操作で取得できるスキルは無制限ではなく、例えば闘気術や獣化術は自力で取得する必要があること。

 剣術というスキルはあるが、それらが細分化された短剣術や双剣術というようなスキルはおそらくないということ。

 スキルの取得や強化に必要なスキルポイント。

 加護を付与するために必要な忠義度。

 異世界言語の効能が、オーガやハーピィ、さらには一部の竜種にまで及ぶこと。

 これらは全て、各種チートを実際に運用していく上で分かったことだ。

 まだまだ、把握し切れていない仕様もあるかもしれない。


「オリビアや花への加護(微)の付与に失敗したときは、結構焦ったなあ……」


 いろいろとステータス画面を触っていく内に、再度加護(小)の付与を試してみることを思いついた。

 忠義度はまだ足りないので加護(小)の付与自体には失敗したのだが、そこで思わぬ表記を発見した。

 付与対象の候補者として表示されている名前の隣に、『加護(微)を付与済み:全ステータスが1割向上』と表示されていたのだ。

 続けてトミー、月、雪の同じ欄を確認してみたが、今度は加護(小)の付与を試す前から加護(微)が付与されていることを確認できた。


 つまり、加護(微)の付与は自動で行われると考えていいだろう。

 さらに念を押して、クルミナ、ネスター、シェリー、ナオン、ジェイネフェリア、ネリーにも加護(微)が付与されていることを確認した。

 また、冒険者の先輩であるディッダやウェイク、モニカやニムの両親であるナーティア、ダリウス、マム、パームスにも付与されている。


 しかし一方で、ナオンの部下である騎士やその辺の一般市民には加護(微)が付与されていなかった。

 その境目は、ちょうど忠義度30となる。


 加護(微)の付与条件は30で、その執行は自動。

 そして恩恵は『全ステータスの1割上昇』。

 そう考えて間違いないだろう。

 想像していた仕様とは少し違うとはいえ、大きな問題はない。


 むしろ、自動で付与してくれるのは快適なぐらいだ。

 Bランク冒険者にして騎士爵を持つ俺に対して、忠義度30を超える者は今後どんどん増えていくだろう。

 さすがにその全てを逐次把握するのは大変だと考えていた。

 ちょうどいい。


 ラーグの街の在住者で、現時点で忠義30を超えていそうな者は、全員が加護(微)を付与されたことだろう。

 俺に対して忠義心を抱いている者ばかりを優遇して強化できると考えれば、かなり安心感のある有用なスキルだ。

 一歩間違えれば独裁領主へ一直線なので、注意は必要だが。


「……ん?」


 忠義度30を超えている冒険者が、あと1人ぐらいいたような……。

 誰だったか……。

 最近知り合ったばかりの……。

 思い出せそうで思い出せない。

 自分の記憶力が情けないな。


 ま、そのうち思い出すだろう。

 俺はそんなことを考えつつ、引き続きくつろぐことにしたのだった。

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