596話 謝れ! ちくしょう!!

 クリスティと雪月花が冒険者ギルド内にて打ち合わせをしていたところ、チンピラ風のイキリ冒険者たちが入ってきた。

 リーダーは、昨日タカシの頭に水をぶっかけた男である。

 月たちが彼らに視線を向ける。


「見ない顔ね。ハイブリッジ騎士爵のお膝元であるこの街で、あんな態度を取るなんて……。バカなのかしら?」


「あんまり強そうには見えないね~。花ちゃんたちが成敗しちゃう~?」


「……でも、態度が横暴というぐらいで手を出したら、罪に問われるのはこっち。ここは様子を見た方がいい……」


 月、花、雪がそう言う。

 彼女たちなら、彼ら『紅蓮の刃』を無力化することは可能だ。

 『雪月花』はCランクパーティ。

 Dランクパーティである『紅蓮の刃』よりも格上の存在である。


 しかし、彼らはこの場で明確な犯罪行為をしたわけではない。

 下手に手を出せば、雪月花の方が咎められる。

 ハイブリッジ騎士爵に迷惑をかけることになるかもしれない。

 それを避けるためにも、今は様子見をするべきだろうというのが、3人の考えだった。


 しばらくして、ネリーによって酒が男たちに供給された。

 彼らはそれを飲み進めつつ、くだらない話を続ける。


「へへへ。しかし、昨日の優男は傑作だったな。頭から水を掛けられて、何も言い返して来ねえなんてよ!」


「おそらくEランクだろうな。手作りっぽい上着を着ていたし、さぞかし金がないのだろう」


「「「ギャハハハハ!!!」」」


 彼らの話は、タカシに対する悪口のオンパレードになっていた。


「……許せねぇ。あたいのご主人が、あんなヤツらに馬鹿にされる筋合いはねえ」


 クリスティは怒りに震えている。

 そして、彼女はとうとう立ち上がった。


「クリスティさん!?」


 月が慌てて声を掛ける。


「決まってんだろ? あいつらをぶっ飛ばしてくるんだよ!」


 クリスティは振り向きもせず、そのまま歩き出す。


「……ちょっと待って……!」


「ダメだよ、クリスティちゃん!」


 雪と花も止めに入る。

 しかし間に合わない。

 クリスティは男の元へとたどり着いた。


「おい! お前!!」


「あん? 何だてめえは?」


 仲間との雑談を中断され、男がクリスティを睨みつける。


「あたいと勝負しろ!」


 クリスティがそう叫ぶ。


「あぁん? いきなりやって来て、何言ってんだてめえ。……って、よく見りゃ昨日の女じゃねえか。へへへ。昨日の優男に見切りを付けて、俺たちに乗り換えようってか?」


 男はニヤリと笑う。


「うるせえ! 早く表に出やがれ!」


 クリスティは強引に男の胸ぐらを掴む。


「お、おい。何をする気だ。ギルド内での暴力沙汰はご法度だぜ」


「黙れ!」


 クリスティが男を突き飛ばす。


「ぐはっ!!」


「このアマ、やりやがった!」


「舐めやがって!!」


 他の男の仲間が騒ぎ立てる。


「ま、待ってください!」


 受付嬢のネリーが駆け寄ってくる。


「何があったんですか!? ギルド内での暴力行為は見過ごせません!」


「うるせぇ!! あたいはこいつに用があるんだ。邪魔すんじゃねえよ!」


 クリスティがネリーを威嚇する。


「ちょ、ちょっと、落ち着いて下さいよ……。明確な理由もなく危害を加えれば、罪に問われるのはあなたですよ……?」


 ネリーがそう注意をする。

 彼女とクリスティは、一応面識がある。

 ネリーはハイブリッジ杯で実況と司会進行を務めており、クリスティは出場選手だったからだ。

 タカシの配下というのももちろん知っており、彼女からクリスティに対する信頼度は一定以上あった。

 しかし、ギルド内で無闇な暴力沙汰を起こされて黙っているわけにはいかない。


「そうだぜ。俺らはただ酒を飲んでいるだけだぜ」


 男はヘラヘラとした表情を浮かべる。


「リーダーの言う通りだぜ。何も悪いことはしてない」


「そうだ、そうだ!」


 男たちが同調し始める。


「ぐぬぬっ! お前ら、ご主人の悪口を言っていたじゃねえか! 謝れ! ちくしょう!!」


 クリスティが叫ぶ。


「へへへ。何の話だよ? お前のご主人の話なんて、俺たちはしてねえぜ」


「とぼけんな! クソ野郎共!!」


 クリスティが拳を振り上げる。


「や、やめて下さいよ……。本当に困ります……」


 ネリーがオロオロとするばかり。

 喧騒に包まれた冒険者ギルド内での会話内容を立証する手段はあまりない。

 そもそも、雑談の内容程度に立腹して暴力を振るえば、暴力を振るった側に罰が下るものである。


 ネリーとしても、横暴な男たちに対する心象は良くなかったが、それはそれとしてギルド内に秩序は適切に保たなくてはならない。

 例外的な処置を行うわけにはいかないのだ。


「……分かりました。それでは、ここは穏便に狩り勝負という形にしませんか?」


 ネリーがそう提案をする。


「何だと?」


 クリスティが眉をひそめる。


「狩り勝負というのは、冒険者同士の争いごとを比較的穏便に解決する手段です。特定地域内において一定期間での狩りの成果を比較し、勝敗を決します」


「……なるほどな。なら、それであたいが勝ったらご主人に土下座で謝罪してもらうぜ!!」


 クリスティがそう叫ぶ。


「へへへ。なら、俺たちが勝ったら金貨10枚を払ってもらうか」


 男がそう返す。

 冒険者ギルドにおける狩り勝負は、それなりに有名は調停手段である。

 あまりの無理難題や法外な額を提示しても、後出しで冒険者ギルド側から無効にされる可能性が高い。

 チンピラ風のイキリ冒険者ではあるが、適度に額を抑えて提示する程度の頭はあった。


「……いいだろう。その条件で受けてやる!!」


 クリスティが腕まくりする。


「何だか勝手に決められたわね……」


「別にいいんじゃないかな~。狩り勝負なら、負けないと思うし~」


「……クリスティさんの活躍にも期待したいね……」


 月、花、雪がそう言う。

 こうして、クリスティ及び雪月花の合同パーティ対、チンピラ風のイキリ冒険者パーティ『紅蓮の刃』の狩り勝負が決定したのだった。

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