595話 クリスティと雪月花
冒険者ギルドに、クリスティの同行パーティを探しに来ている。
チンピラ風のイキリDランクに好き放題言われ、それを笑ってやり過ごしたところだ。
「何で笑ってんだよ、ご主人! あんなに好き放題やられて、なんとも思わないのかよ!?」
クリスティがそう詰め寄ってくる。
「いや、特には……。ああいう輩はどこにでも現れるからな……」
それに、実を言えば忠義度の面でもスルーでいいと思う。
さっきの奴の忠義度は、なぜか20を超えていたのだ。
彼が呟いた言葉の中にも、『ハイブリッジ騎士爵に感謝の念を抱いている』という主旨のものがあったし。
おそらくだが、俺がそのハイブリッジ騎士爵本人だということに気付いていなかったのだろう。
こういうパターンもあるんだなあ。
彼に俺の身分を明かしたときの反応が楽しみである。
「そういう問題じゃねえだろ! あんなに舐められて、悔しくないのかって聞いてるんだよ!」
「まぁ、多少は腹も立つが……。だからと言って、無闇に争いごとを起こすのもな。俺がやられたことと言えば、頭を水浸しにされたくらいだし」
「それが問題なんだろうが! もういい! あたいがあの野郎をぶっ殺してやる!!」
クリスティが怒りながら冒険者ギルドの出口に向かう。
俺はそれを慌てて止める。
「いやいやいや、落ち着けよ。そんなことでいちいち殺し合いとかしていたら、きりがないぞ?」
「だけどよぉ……」
俺の言葉に納得できないようだ。
彼女は強さを第一に考える戦闘種族の者だからな。
争いごとを避けるために下手に出た俺の態度は、彼女にとって許せないものなのだろう。
俺たちがそんなことを話しているとき……。
「あら? ハイブリッジ騎士爵じゃない」
「奇遇だね~」
「……クリスティさんもいっしょか。何をしているの……?」
月、花、雪が冒険者ギルドに入ってきた。
「クリスティが西の森で魔物狩りを行うことになってな。同行パーティを探しているんだが、なかなか見つからなくて困っていたんだよ」
俺は3人に事情を説明した。
イキリ冒険者のことはとりあえず置いておこう。
「へぇ~。それは大変そうだね~」
「私たちでよければ協力しましょうか?」
「……クリスティさんの強さは知ってる。心強い戦力になる……」
花、月、雪がそう言う。
クリスティと雪は、ハイブリッジ杯の1回戦で戦ったことがある。
接戦の末、クリスティが勝ったが、実力はほぼ互角だった。
「おお! そりゃ助かるぜ! ありがとよ!」
クリスティは嬉しそうに礼を言う。
さっきの怒りは収まってくれたか?
「決まりだな。クリスティをよろしく頼むぞ」
ちょうどいいパーティが見つかってよかった。
雪月花は、クリスティと年代が近い女性3人組のパーティだ。
戦闘能力も似たようなものだろう。
「ええ。任せてちょうだい」
「花ちゃんがしっかりとサポートするからね~」
「……今日はもう遅い。明日、連携の確認をしておこう。同行は明後日から……」
月、花、雪がそう言う。
こうして、クリスティの同行パーティは無事に決まったのだった。
●●●
翌日。
タカシが諸用を済ませる一方で、クリスティは冒険者ギルドに来ていた。
雪月花と打ち合わせをするためだ。
クリスティは戦闘能力だけならCランク冒険者並みだが、経験は浅い。
そのため、仲間との連携もうまく取れるかどうか不安がある。
事前の擦り合わせは必要だ。
「よう。待たせたな」
「おはよう、クリスティさん。時間通りね」
「感心感心~」
月と花がクリスティを歓迎する。
「……さっそく情報を共有していこう。まずは、西の森に出現する魔物について……」
雪が説明を始めた。
ゴブリン、ポイズンコブラ、ハウンドウルフなど……。
ひと通りの魔物の説明を行っていく。
「……なるほど。結構厄介そうな魔物もいるんだな」
クリスティが相槌を打つ。
「中でも注意すべきは、クレイジーラビットね」
「……単体で見れば雑魚。でも、群れに攻撃を加えた者を集団で襲ってくるから注意が必要……」
「純粋な戦闘能力で厄介なのは、リトルベアかな~。落ち着いて戦えば3人でも倒せるけど、少しリスクがある相手だね~」
月、雪、花が説明を続けていく。
「わかったわかった。口で言われても、いまいちピンと来ねえよ。実際に戦いながら慣れていくぜ!」
クリスティは聞いているのかいないのか、そんな返事をした。
「まあ、それも一理あるわね」
「でも、慣れるまではくれぐれも慎重にね~」
「……それほど危険は大きくない狩場だけど、油断は禁物……」
Cランクパーティの雪月花にとって、西の森は高難易度の狩場というわけではない。
しかし、それでも油断すれば万が一ということがある。
彼女たちがそんな感じで打ち合わせを進めているとき……。
バーン!!
冒険者ギルドの扉が勢いよく開け放たれた。
そして……。
「へへへ。今日はあの優男はいねえみたいだな。静かでいい……」
チンピラ風の冒険者たちが入ってきた。
リーダー格は、昨日タカシに絡んでいた男だ。
彼らがドサッと椅子に腰掛ける。
そして、受付嬢のネリーに視線を向ける。
「おい! 何をボーッと突っ立ってやがる! 酒を持って来い!!」
彼はそう怒鳴り声を張り上げた。
「す、すぐに持ってきます!」
彼女は慌てて厨房の方へと駆けていった。
「おう、待ってるぜ」
その様子を見届けると、彼らはゲラゲラと下卑た笑いを浮かべ始める。
「くそったれが……。何て態度の悪い奴らなんだ」
クリスティが毒づく。
冒険者ギルド内の緊張は高まりつつあった。
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