535話 農業改革の進展

 蓮華やキリヤとの鍛錬を終えた。

 俺は汗を拭きつつ、屋敷内の庭に佇む。

 ふと、ニムが畑仕事をしているのが目に入った。


「よっ。畑仕事は順調か?」


「じゅ、順調ですよ。たくさん実っています。それに、品種改良の方も進めています。こちらのハンナさんやニルスさんも手伝ってくれていますし」


 そう言ってニムは隣にいる2人を見る。

 2人は俺に頭を下げた。


 俺の配下の中でも、ハンナとニルスは農業関係の仕事を重点的に振っている。

 彼女たちはもともとは遠方の農村出身であり、そこそこ詳しいのだ。

 ニム、ハンナ、ニルス、そして文官トリスタの協力のもと、栽培する作物を増やしたり、収穫量を増やす研究をしているというわけである。


 ラーグの街近郊の収穫量は増加傾向にある。

 また、ハイブリッジ騎士爵領全体としても微増傾向だ。

 この調子でいけば、領民たちの生活水準を上げることができるだろう。

 とはいえ、まだまだ先は長いのだがな……。

 そんなことを考えていると……


「あ、あの! お館様!」


 ハンナが話しかけてきた。


「ん? どうしたんだ?」


「たくさん収穫できたら……その……」


 何か言いづらそうだ。


「ハンナ! それは……」


 ニルスが止めようとするが、ハンナは止まらない。


「私たちの村に……少し持って行きたいのです!」


「ん? 収穫物の一部を、お前たちの故郷に無償で援助するという話か?」


「は、はい! そうしたいと思っています」


 ハンナがそう言って頭を下げる。


「ご、ご許可をいただけないでしょうか?」


 ニルスがハンナを援護するかのように、続けて頭を下げてくる。

 2人の故郷は、少し遠方の村だ。

 ハイブリッジ騎士爵領内ではない。

 商売ならともかく、無償の援助を行う義理はない。


「ふむ。そうだな……」


 彼女たちの村は、貧しいと聞いている。

 とある不作の年に、彼女たちが口減らしとして売られてしまったほどだ。


「わかった。だが、無事に収穫できてからの話だな。たくさん収穫できるよう、今後も励んでくれ」


 その時々の収穫量にもよるが、温暖なハイブリッジ騎士爵領において農作物は特別に高価というわけではない。

 どちらかと言えば運送費が高くつく。

 馬車代や、道中の護衛を雇う費用が発生するからな。


 だが、俺たちミリオンズの中の数人が出れば、さほど困難な任務でもない。

 ニルスとハンナの忠義度を稼ぐために、ここは許可してやる方針がいいだろう。


「は、はい!」


「ありがとうございます!」


 ハンナとニルスが嬉しそうな顔になる。

 この許可により、若干忠義度が上昇している。

 日々少しずつ上がってきたこともあり、今や30台中盤だ。


 もうひと押しで加護(小)が付与できるな。

 実際に豊作となり2人の故郷に援助する話がまとまれば、さらなる忠義度も見込めるだろう。

 豊作に期待したいところだ。



●●●



「ふう。今日もよく働いたな。今日の夜は……無しの日だな」


 俺の夜の運動会のスケジュールは、少し前よりも充実している。

 ユナとリーゼロッテの2人体制だったところに、ニムとサリエが参戦したからだ。

 とはいえ、ニムはまだ不慣れであるため、あまりヘビーローテションを組むわけにはいかない。

 サリエについても、まだハルク男爵へ正式に報告していないので、ハメを外しすぎるわけのはマズい。


 というわけで、まだまだ夜のスケジュールに空きはあるのだ。

 今日は、一人で寝る日である。


「一発抜いてから……。いや、やめておこう。おとなしく早めに寝るか」


 この世界に来て、可愛く魅力的な女性たちと関係を持つようになってから、自家発電の回数は極端に減った。

 それをしなくても欲求を満たせるようになったからだ。

 しかし、今の俺は精力強化のスキルを取得済みである。

 そのため、ここ最近は自家発電をしたくなる日も多い。


「無駄撃ちしている余裕はない。みんなと幸せな家庭を築くためにはな」


 ミティ、アイリス、モニカは無事に妊娠したが、他の者はまだである。

 無駄撃ちはしない方がいいだろう。

 まあ、結婚前の今の時期に妊娠すると少し問題になるので、それほど焦る必要もないのかもしれないが……。


「とりあえず、3人との子どもが楽しみだ。可愛い子が生まれるだろう。それに、加護の件も気になる」


 我が子に加護を付与できれば、百人力だ。

 世界滅亡の危機に立ち向かうための強力な戦力となる。

 実際に戦力になるまで最低5年、できれば10年は必要だろうが、世界滅亡の危機までまだ28年ほどある。

 長い目で見て、我が子への加護付与は取り組むべき課題だろう。

 まあ、加護の件云々は抜きにしても、自分と愛する女性との間に子どもができるのは非常に喜ばしいことだしな。


「みんなとの間に、できれば2人以上……。最低1人ずつは欲しいな……」


 子どもを生まないという選択をしている夫婦を否定するつもりはない。

 しかし、俺個人の嗜好としてはやはり子どもは欲しい。

 ミティ、アイリス、モニカ、ニム、ユナ、マリア、サリエ、リーゼロッテとの間にそれぞれの子どもが欲しい。


 ええと……。

 2人ずつ生んでくれたとして、合計16人か。

 大家族になりそうだ。

 生まれたての子どもは当然稼ぐ力などないし、妊娠中の妻たちも本来の力は発揮できない。

 ここは、一家の大黒柱である俺が率先してガンガン稼いでいく必要があるだろうな。


「そのためにも、明日からまた仕事をがんばるぞっ!」


 俺はそう意気込む。

 トリスタやキリヤほどではないが、実は俺も結構な労働嫌いだったのだが……。

 やはり、守るべき者や愛する者がいると、意欲も湧いてくるな。

 トリスタやキリヤも、最近は以前より精力的に活動しているようだし。

 そんなことを考えながら、俺の意識は薄れていったのだった。

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