523話 末永く安定と繁栄がもたされるだろう!!

 ハイブリッジ杯の表彰式を行っている。

 次はベスト4に残った者たちだ。


「ミティ。よくがんばったな」


「はい。タカシ様の御威光を少しでも高めるため、第一夫人として全力を出しました!」


「ありがとう。俺が騎士爵として何とかやってこれているのは、ミティが支えてくれているからだ。感謝している」


「いえ、そんな……。私の力など微々たるものです」


 ミティがそう謙遜する。

 しかし実際のところ、彼女の戦闘能力には何度も助けられてきた。

 鍛冶による高性能な装備も役立っているし、彼女の豪腕は日常生活や土地の開発等においても重宝している。

 その上、この異世界で身寄りのない俺の精神的支柱としても頼りになる存在だ。


「いや、ミティがいなければ俺はとっくに野垂れ死んでいたよ。これからもよろしく頼むぞ」


「はい。こちらこそ末永くお願いしますね」


 俺とミティは笑い合う。


「さて……。さっきも相談したが、この場で”あのこと”を発表するぞ。いいな?」


「はい。もちろん構いません!」


 ミティがそう了承する。


「おーい! アイリスとモニカもステージに上がってくれ!」


「はいよー」


「わかった」


 2人が俺とミティの近くまでやってくる。

 俺は彼女たちと頷き合う。


「皆のもの! 今日はハイブリッジ家にとって吉報がある!!」


 俺は観客席に向けてそう叫ぶ。


「お? 何だ何だ?」


「何かあったのか?」


「一体どんなニュースだ?」


 観客たちがざわめく。


「実は……俺に子どもができたんだ!」


「「「おおおおおぉっ!?」」」


「こちらの第一夫人ミティ、第二夫人アイリス、第三夫人モニカ。それぞれが懐妊した!」


「「うおおぉっ!!!」」


 大歓声が湧き上がる。


「俺たちは子どもを立派に育て上げるつもりだ! ハイブリッジ騎士爵領には末永く安定と繁栄がもたされるだろう!!」


 自分の遺伝子を引き継いだ命が生まれるのか……。

 とても感慨深い。

 気になるのは、忠義度がどのような数値になっているかだ。

 今までに検証してきたように、幼い子どもの方が忠義度は上がりやすい。

 生まれた瞬間の我が子であれば、既に忠義度50以上でも不思議ではない。


 しかし逆に、さほど高くない可能性もある。

 子どもが親に忠義を感じるというのも、少しだけ違和感があるし。

 それに、そもそも生まれた直後は自我が確立していないだろう。

 お腹の中に嬰児として存在する現時点では加護付与スキルの対象になっていない。

 スキルの対象者になるためには、一定程度の自我が必要な可能性はある。


 ま、このあたりは生まれてから考えてもいいだろう。

 加護云々は置いておくとしても、愛する妻たちとの子どもが生まれるということだけで喜ばしいことだからな。


「おおおおっ!」


「期待してるぞーっ!」


「ハイブリッジ騎士爵様バンザイ!!」


 さらに大きな拍手喝采が起こる。

 こうして、俺の新たな家族の誕生予定は、領民たちにも広く認知されることとなったのであった。


 そしてしばらくして、拍手が落ち着いてきた。

 ミティはステージの後方へ向かう。

 アイリスとモニカはステージから下りた。

 次は……。



「ナオン。ベスト4入りおめでとう。確かな実力を見せてもらったぞ」


「おお。お褒めの言葉を賜り、恐悦至極に存じます」


 彼女が、恭しく頭を下げる。

 オリビアやクリスティを破るほどの戦闘能力を持つ。

 王都騎士団の元小隊長というのは伊達ではなかった。


「そこで相談なんだが、お前さえ良ければこのままうちで働いてみないか?」


「ぜひお願いします! 先日もお伝えしました通り、私の能力をこの領地の発展に活かしてくださいませ!」


「うむ」


 俺は満足げに微笑む。


「しかし一つだけ、要望があるのですが……」


「なんだ?」


「私の部下たちも同じく登用していただけないでしょうか? 皆、実力と向上心は十分です。必ずやハイブリッジ騎士爵様のお役に立てるはずです!」


「おう、そのつもりだ。この場で発表しよう」


 俺はそう答える。


「ははっ! ありがたき幸せ! ……おい、お前たち! 今すぐステージへ上がれ!」


「「「「「はいっ!」」」」」


 5人の男女がステージに上がる。

 そして、ナオンを先頭に合計6人の騎士が俺の前にひざまづく。

 俺はその様子を確認した後、観客席の方に向き直り叫ぶ。


「騎士ナオンは、今回の大会で確かな実力を示してくれた! よって、彼女とその部下5名を俺の配下として迎え入れることにした!」


「「おおぉっ!」」


「彼らは俺の忠実な家臣となるだろう! ハイブリッジ騎士爵領の未来は明るいぞ!!」


「「わああぁっ!!!」」


 またもや歓声が巻き起こった。

 俺は懐の剣を抜き、剣先をナオンの肩に置く。

 この国における一般的な儀礼作法だ。

 あらかじめサリエやリーゼロッテに聞いておいたものである。


「騎士ナオンを我が剣、我が盾として迎える。忠誠を誓え」


「はっ! 謹んで拝命致します!!」


「よろしい」


 俺はそう言う。

 その後、彼女の部下とも誓いの儀式を行っておく。

 この通過儀礼に意味はあったようで、それぞれの忠義度が一回り上昇している。


 特にナオンは、30台後半に達した。

 加護(小)を付与できる日もそう遠くないだろう。

 期待したいところだ。

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