522話 ハナちゃんの希望は叶うのかな~?

 ハイブリッジ杯の表彰式を行っている。

 次はベスト8に残った者たちだ。


「お疲れ様だ。ニム」


「は、はい。体調不良気味だったミティさんに負けたのは情けないですが……」


「あの試合の時点では元気だったし、ニムが特別に有利だったわけではないだろう。一回戦ではヒナを寄せ付けなかったし、ニムの強さは十分にわかっているぞ」


「あ、ありがとうございます。しかし、私もまだまだ修行が足りません」


「ああ。これからも精進してくれ」


 現時点でも十分な戦闘能力を持つが、上を目指すのはいいことだ。


「そ、それで、タカシさんに1つお願いがあるのですが……」


 ニムがおずおずと切り出す。

 願い事を叶えられるのは、優勝者の特権だ。

 しかし、多少の願いなら随時叶えてやるのもやぶさかではない。


「何だ?」


「……い、いえ。やっぱり後で言います」


「ふむ? わかった」


 まあ俺とニムは日頃からよくいっしょに行動しているし、俺に頼み事を行う機会などいくらでもある。

 この表彰式という公の場で伝えてもらう必要はないだろう。

 彼女が後方へと下がる。




「次は蓮華だな」


「うむ。拙者はこの大会で、己の未熟さを改めて痛感したでござる。今後、さらなる研鑽を積むことにするでござるよ」


 蓮華がそう言う。

 加護を付与していないキリヤに負けてしまったのは、彼女としても不本意だったはずだ。


「そうか。励んでくれ」


「たかし殿にも、時間があれば拙者と手合わせしてほしいでござる」


「ああ。俺にとっても有意義なことだし、積極的に鍛錬を行っていこう」


 蓮華の剣術は、ミリオンズの中でも俺に次ぐレベルだ。

 彼女から学ぶことは多い。


「それに……。いや、これは後で言うでござる」


 蓮華は何かを言い残しつつ、後ろに下がっていった。

 ニムといい彼女といい、後で何を言ってくるのだろうか。

 少し不安だが、あまりムチャなことも言わないだろう。




「えへへ~。ハナちゃんは結構がんばったよね~。褒めて~」


「そうだな。トミーを打ち破ったのは見事だった」


 今回の大会の開始時点で、ハイブリッジ家の関係者ではなかったのは5人。

 雪月花の3人に、トミーとナオンだ。

 その内のツキ、トミー、ユキは一回戦負けを喫した。

 一回戦で勝ちを収めたハナは、比較的健闘した方だと言えるだろう。


「それでそれで~? ハナちゃんの希望は叶うのかな~?」


 ハナがニコニコしながら尋ねてくる。

 健闘をたたえて、多少の望みくらいは叶えてやってもいいが……。


「ハナは何を望むんだ?」


「言ってなかったっけ~? ハナちゃんを妾にして、何不自由なく過ごせるように養ってくれるって~」


「おお? 聞いていたような、聞いていないような……」


 妾云々は少し記憶にあるが、具体的なところはよく覚えていない。

 あまり本気にしていなかった。


「じゃあ、もう一回言うね~。ハナちゃんをお妾さんにして、のんびりさせてほしいな~」


「…………」


 俺は沈黙する。

 その言葉の意味するところを、頭の中で反すうしてみる。


「……それはつまり、側室として迎えてほしいということか?」


「そこまで大げさに考えなくていいけど~。生活費や子どもの養育費はほしいな~」


 側室と妾の違いは何か。

 ほぼ同じような意味だった気がするが……。

 細かな定義までは覚えていない。


 婚姻関係を結ぶか否か。

 貴族として王や他家と接する際に、紹介するか否か。

 そのあたりで線引される感じだろうか。

 婚姻関係を結ばず生活費等を援助するだけで済むのであれば、女好きの俺におって都合のいい関係ではある。


「しかし、ハナはそれでいいのか? 俺の愛をほしくはないのか?」


「安全とお金があればそれでいいかな~」


 彼女は俺の地位や金銭にしか興味がないようだ。

 まあ、以前からそんな雰囲気は出していたし、今さらか。


「わかった。前向きに検討しておく」


 地位や金銭だけが目当ての者をほいほい囲っていくのは、普通に考えれば危険だ。

 身の破滅に繋がる。

 しかし、俺には加護付与というチートスキルがある。

 その副次的な効果により、各人の忠義度を測ることができる。


 ハナの忠義度は30台だ。

 決して低くない。

 口では金金と言っているが、実際のところ俺に対して多少の好感を抱いてはいるのだろう。

 少なくとも俺に害意はないはずだ。


 妾としてでも長く付き合っていけば、いずれ加護(小)の条件を満たすこともあるかもしれない。

 そもそも俺自身が、美少女に囲まれて暮らすことを心の底から望んでいるのだ。

 世界滅亡の危機に立ち向かうという使命のためにも、俺自身の欲望のためにも、断わる手はない。


「ありがとう~。期待してるね~」


 ハナはそう言って下がっていった。

 ベスト8止まりの者は、次で最後だ。



「はっ。あたいにも聞こえていたぜ。ずいぶんとモテモテじゃねえか、ご主人」


 そう言うのは、猫獣人の奴隷クリスティだ。


「うむ。俺のような強者には、人が寄ってくるのだ。クリスティもどうだ?」


「あん? ご主人の強さは申し分ねえが、あいにくあたいは色恋沙汰に興味がねえ。他を当たってくれ」


「ふむ。残念だ」


 クリスティはまだ結婚などに興味を持っていないようだ。

 この手の話題に興味のない者まで引き入れると、ハーレムの収拾がつかなくなる。

 今は諦めるしかないだろう。


 クリスティの忠義度は30台中盤だ。

 以前俺の実力を見せつけた後に30台に乗り、その後も少しずつ上がってきている。

 好感度は十分だと思うのだが、忠義度は必ずしも恋愛に繋がるわけではない。


 クリスティを俺のハーレムに加えるには、また別のアプローチが必要かもしれないな。

 ハーレム云々は置いておくとしても、あと一歩で加護(小)の条件を満たす。

 彼女の困りごとなどがあれば、積極的に手伝ってあげたいところである。

 俺はそんなことを考えつつ、観客席に向き直る。


「ニム、蓮華、ハナ、クリスティ。以上の4名は、見事ベスト8まで残った! その優れた戦闘能力で、この街、そして我がハイブリッジ騎士爵領の発展に貢献してくれるはずだ! 惜しみない拍手を!!」


 俺は高らかにそう宣言する。


「「うおおおおぉっ!」」


 パチパチパチパチ!!

 観客席から歓声と拍手が巻き起こった。


 さて。

 続いては、ベスト4に残った者たちへの表彰だな。

 しっかりと労ってやることにしよう。

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