495話 わ、私は15歳です! つまり……?

 夜にリンが襲撃してきた。

 しかし、さすがに7歳の幼女に手を出すわけにはいかない。


「リン。今は気持ちだけ受け取っておこう。10年後に気持ちが変わっていなければ、改めて言ってくれ」


 10年後には、リンは17歳になっている。

 日本の感覚ではそれでもまだ早い気がするが、この世界なら十分に大人扱いされる。

 妥当なところだろう。


「10年後ですかぁ……。でも、ニム様やマリア様はわたしより少し年上なだけですが……」


「うむ……」


 俺と婚約済みのニムは12歳。

 そしてマリアは、確か11歳だったはずだ。


「なら、せめて5年後だな」


 5年後には、リンは12歳になる。

 この国における婚姻可能年齢に達する。

 俺の感覚ではそれでもまだ早いが、この国において合法となっている以上は強く拒絶はしにくい。


「わ、わかりましたぁ。じゃあ、今日は帰りますね……」


 トテトテ……。

 リンが部屋の出口に向かう。

 心なしか、ションボリしている気がするな。


 なんだか悪いことをしてしまったような気分になる。

 リンも勇気を出して行動したのだろう。

 それを頭ごなしに否定してしまったのはマズかったかもしれない。


「待て、リン」


 俺の言葉を受けて、彼女が足を止める。


「気が変わられましたかぁ? せいいっぱい奉仕させていただきますね」


「いや、そういう意味じゃない。せめて隣で寝るのはどうかと思ってな」


 俺はそう言う。


「え……?」


 彼女はキョトンとした表情を浮かべる。


「嫌なら無理強いはしないが……」


「いえ!」


 リンがブンブンと首を横に振る。


「そ、そうだよな。俺なんかの隣で眠るなんて、お断りだよな……」


「違いますぅ!!」


 リンが大声で叫ぶ。


「え? 違うのか? だって、さっき……」


「ほ、本当に許してもらえるとは思っていませんでした。奴隷のわたしなんかが、いっしょにいてもいいのでしょうかぁ……?」


 リンの目尻に涙が溜まっていく。


「もちろんだとも。リンはうちの家族みたいなものだ。遠慮することなど何もない」


 俺はそう言って、彼女を抱きしめた。


「あ、ありがとうございます……。嬉しいですぅ……」


 リンがそう呟く。

 そして、しばらくして。

 彼女はいつの間にか俺の腕の中で眠りについていた。




 翌朝。

 俺はいつも通りの時間に目を覚ました。

 ベッドの上ではリンが眠っている。

 昨晩は仲良く隣で寝た。

 もちろん、過度の肉体的な接触はしていない。


「zzz……。ご主人さま、わたしはがんばりますぅ……」


 どんな夢を見ているのだろうか。

 リンがそんなことを口にしていた。

 俺は、彼女の頭を撫でる。

 まだ幼いが、将来は美人になりそうな顔立ちだ。

 なかなか美しい。


 俺が思わず見惚れているとき……

 ガチャリ。

 部屋の扉が開いた。


「お館様。本日のお召し物のご用意を……っ!?!?」


 現れたのは、メイドのレインだった。


「おはよう、レイン」


 俺はそう挨拶をする。


「オハヨウゴザイマス……。これは失礼しました。今すぐ出て行きますので!」


「ん? 別に出ていく必要はないが……」


 どうしたのだろう?

 何だかレインが挙動不審である。


「わ、わかりました。……それにしても、リンちゃんとそのような関係になられていたのですね。驚きました……」


「え?」


 どういうことだろう?


「お二人の様子を見ればわかります。おめでとうございます」


「お、おい! 勘違いするな! 俺とリンはまだそういった関係ではないぞ」


 俺は慌ててそう答える。

 7歳の幼女とやったと誤解されると、俺の社会的評価が失墜する。


「なるほど。まだ、と……」


「いや、そういう意味で言ったわけでは……。リン、起きて説明してくれ」


「ふぁ……。はいぃ……。申し訳ありませぇ~ん……。むにゃむにゃ……」


 リンが寝ぼけた様子で返事をした。

 どうやら起きる気配はないようだ。

 ええい。

 ここは自分で自分を弁護するしかない。


「俺は至ってノーマルだぞ。具体的には15歳から35歳ぐらいがベストだな!」


 疑惑を晴らすため、俺は力強くそう言う。


「ええっ!? わ、私は15歳です! つまり……?」


 レインが自分の身を守るかのように、体に腕を回す。

 これはこれで、俺がレインを狙っているかのように捉えられてしまったか。


「いやいやいや。そういう意味ではなく……。頼むから誤解しないでくれ」


 7歳のリンと比べるとレインがストライクゾーンなのは間違いない。

 しかし彼女は、我が家の執事セバスから紹介してもらったメイドさんだ。

 俺と雇用被雇用の関係にあるものの、クリスティ、ロロ、リンあたりとは異なり、完全な俺の配下というわけでもない。

 おいそれと好き勝手に手を出すわけにはいかない。


「そ、そうですか……。よかったです」


 レインがホッと胸を撫で下ろす。

 彼女の中で、俺の評価はどうなっているんだ。

 忠義度は20台なので、嫌われているわけではないはずだが……。

 7歳の幼女に手を出したり、使用人であるレイン自身に手を出したりしかねないとは思われているようだ。


 いつかは、レインやクルミナから俺への評価も変えていきたいところである。

 ただ、登用組や奴隷組と異なり、レインやクルミナには明確な困りごとがない。

 もちろんそれはそれでいいことなのだが、忠義度稼ぎという点で言えばやや不都合だ。

 彼女たちの忠義度稼ぎは、長い目で見て取り組んでいく必要があるだろう。

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