494話 タカシ様ならもしかしたら……

 奴隷少女リンと彼女の両親が再会して、二週間ほどが経過した。

 リンの目はまったく問題なく見えているようだ。

 間違いなく完治したと言っていいだろう。

 医者志望のサリエや、この街の医者ナックのお墨付きもある。


 リンの両親であるパリンたちは、少し前に村まで荷物を取りに帰った。

 そしてこの街に戻ってきた後は、俺たちが開墾した畑でさっそく農業を始めた。

 まだまだ収穫は先だが、それまでも食うに困ることはない。

 彼らにも多少の貯金があるからだ。

 もともとはリンの目の追加治療費や、彼女を買い戻すために貯めていた金だが、それもほぼ不要になった。


 それに、彼らが新たに栽培を始めたものの中には、ニムが品種改良に携わっているものもある。

 もともと畑仕事の経験があり、スキルとしても栽培術レベル3や土魔法レベル5を持つ彼女は、そういった芸当も得意なのだ。

 ニムが彼らに提供した苗は、収穫までのスパンがやや短めなものが選定されている。

 彼らの生活が本格的に軌道に乗る日も近いだろう。


「ふう。今日もよくがんばったなあ」


 俺はそうつぶやきながら、自室のベッドに寝転がる。

 ミリオンズのみんなは、この本館でそれぞれの自室を持っている。

 俺は、ミティやアイリスと夜の運動会を楽しむときにはもちろんいっしょに寝るが、それ以外の日は普通に一人で寝る。

 やや寂しい気がしないでもないが、ある程度はプレイベートの時間も必要だしな。

 旅先ではみんなでいっしょの部屋で泊まることが多いし、スキンシップの時間は十分に取れている。


 俺がそんなことを考えているとき……

 コンコンコン。

 部屋の扉がノックされた。


「だれだ? 今日は予定が入っていなかったはずだが……。まあ、用があるなら入ってもらっていいぞ」


 俺はそう言う。

 俺には、ミティ、アイリス、モニカという三人の妻がいる。

 また、ユナやリーゼロッテとも体の関係があり、近いうちに結婚する予定だ。

 俺の夜のローテーションはしっかりと組まれ、管理されている。

 今日はだれの予定も入っていない日だったはずだ。


 ギィ……。

 扉がゆっくりと開かれ、一人の少女が入ってくる。

 いや、少女というよりは幼女に近い。


「し、失礼しますぅ……」


 そう言って頭を下げるのは、奴隷少女のリンだ。


「お、おう。リンか。どうした? こんな夜に」


 俺はそう問う。

 彼女たち一家には、旧別館に大きめの一室を与えている。

 ニムの土魔法によって造られた建物である。


 新別館には家族三人がいっしょに住めるような大きな部屋がなかったので、相談の上でそうしたのだ。

 キリヤやクリスティたちが移り住んだ新別館に比べるとやや粗雑だが、頑丈さは折り紙付きだ。

 ニムの土魔法は日々上達しているし、一般家屋と比べても極端に住むのに不便ということはない。


 リンはメイド見習いとして、レインやクルミナの下で働いている。

 日中は、この本館にやって来ることも多い。

 しかし、彼女の労働時間は日中の三時間ほどだ。

 夜に本館、それも俺の部屋にやって来るのは始めてのことである。


 トテトテ……。

 リンが俺のベッドにまで近づいてくる。


「お、恐れながら……。夜伽に……参りましたぁ……」


「え? ええっ!?」


 なんでまた急に……。

 そもそもリンはまだ7歳だろう。

 さすがの俺でも、ストライクゾーンに入らない。

 俺のストライクゾーンは、15歳から35歳といったところだ。

 早熟ならもう少し幼くてもいいし、若々しい人ならもう少し年齢を重ねていてもいい。

 しかし、さすがに7歳の幼女とそういうことをするのはありえない。


「で、では、失礼しますね……」


 リンが服を脱ごうとする。


「ま、待て!!」


 俺は身体能力を活かし、彼女の手を止める。


「誰の差し金だ? もしくは、リンが自分で考えてきたのか?」


 俺はそう問う。


「え、ええっとぉ。わたしがお父さんとお母さんに相談しましたぁ……」


 発案者はリン本人で、相談に乗ったのが彼女の両親?


「彼らには止められなかったのか?」


 常識的に考えて、まだ7歳の娘を夜伽に向かわせるなんておかしいだろう。

 貴族である俺のご機嫌取りだけを考えるならばギリギリなくもないが……。

 彼らは、善良で娘思いの親御さんだったはずだ。

 ご機嫌取りのために娘を差し出すことも考えにくい。


「お父さんとお母さんは、夜伽自体の反対はしませんでした。しかし、そもそもまだ子どもだしそもそも相手にされないだろうとも言っていましたぁ……」


「そうだろうとも。リンの気持ちはありがたいが、もっと成長して気持ちが変わらなかったら受け取ろう」


 パリンたちが常識人でよかった。

 しかしそうなってくると、1つの疑問が浮かび上がる。


「パリンさんたちがそう言ったのに、リンはなぜここに来たんだ?」


「ええっとぉ。お父さんたちとその話をしているとき、ミティ様とティーナ様が通りがかられました。”さすがに幼すぎる? でも、タカシ様ならもしかしたら……”とか、”マスターが個体名:リンに手を出す確率は13パーセントです”と仰られてましたぁ」


 おい。

 ミティとティーナの差し金だったか。


 俺は、つい頭を抱えてしまう。

 あの二人に悪気はない。

 俺のことを思ってそう言ってくれたのだろう。

 それだから、なおのことタチが悪い。


 ”もしかしたら”とか”13パーセント”じゃないんだって!

 さすがに幼女には手を出さないよ!!

 俺は彼女たちにどう思われているんだ……。


 頭を抱えつつも、リンに対して適切な対処方法を考えなければならない。

 真正面から明確に拒絶したら、彼女がショックを受ける可能性がある。

 添い寝ぐらいはしておくのがいいかもなあ……。

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