487話 リンが両親と再会

 リンの目の治療を行い、2週間ほどが経過した。

 あの日以降、俺はリンに対して甘めに接している。

 忠義度を稼ぐためだ。

 とはいえ、ミリオンズのみんなや他の配下の者の視線があるので、過剰に甘やかすことはできないが。


「ご、ご主人さまぁ。お飲み物をお持ちしましたぁ」


「うむ。ありがとう。いつも助かっているぞ」


 俺はそう言って、リンの頭を撫でる。

 7歳の幼女とはいえ、勝手に体に触れることはセクハラだ。

 慎重に行う必要があるが、彼女の場合は特に嫌がっていない様子を確認済みである。


「え、えへへ……」


 リンが嬉しそうに笑う。

 この2週間で、忠義度は36から37に上昇した。

 劇的な出来事がなくとも、時間をかければ多少は上昇するのである。

 しかし、忠義度は上がれば上がるほど、そこからさらに上げるのに苦労する。


 例えば忠義度6から7に上げるためには、数分雑談するだけでも十分だ。

 忠義度16から17であれば、適当に飯をおごってやるぐらいでも可能だろう。

 これが忠義度26から27となると、それなりの出来事や数日以上行動をともにしたりすることが必要になる。

 忠義度36から37なら、1週間かけて甘やかしまくってやっとといった感じだ。


 もちろん、各自の趣味嗜好や年齢、性別によって傾向は異なる。

 食いしん坊のリーゼロッテであれば、めずらしい食材やおいしい料理を提供することは効果大だろう。

 奴隷堕ちして精神的に弱っていた頃のミティであれば、彼女の精神に寄り添って自信を取り戻す手伝いをするのが結果的に効果が大きかった可能性が高い。


 リンの場合は……。

 どうだろうか?

 まだ7歳なので、俺が男としてアピールしても効果は低そうだ。

 むしろ、彼女は保護者を求めているかもしれない。

 7歳で親元を離れ、さぞかし寂しい思いをしていることだろう。


 そんなわけで、今日はとびきりのサプライズを用意してある。

 アイリスやサリエとも相談済みだ。

 俺がミティたちと少し遠方の村までとある人物を迎えに行き、この屋敷にて待機してもらっているのである。


「タカシ。あの人たちは、隣の部屋で待っていてもらってるよ」


「早く対面させてあげましょう」


 アイリスとサリエがそう言う。


「ん? おお、もうそんな時間か」


 今日の予定は昨日のうちに決めておいた。

 予定通りに段取りがされている。


「え、ええとぉ。ご主人様は、何かご予定があるのですか? 


「そうだ。というか、主役はリンだ。いっしょに付いてきてくれ」


「わ、わたしがですか? わかりましたぁ……」


 リンがおどおどとそう言う。

 サプライズのために何も言ってなかったのだが、やはり言っておいたほうが良かったか?


 ええい。

 なるようになれ。

 少なくとも、忠義度が下がることはないだろうし。


 俺、リン、サリエ、アイリス。

 4人で屋敷の応接室に向かう。


「ここだ。さあ、リン。トビラを開けて入ってくれ」


「わ、わたしが先頭ですかぁ……? 何だか怖いですぅ」


「怖がることなど何もないぞ。リンにもきっと、喜んでもらえると思う」


 リンは恐る恐るという感じで扉を開ける。

 部屋の中を見た瞬間、彼女が目を丸くする。


「お、お母さん……?」


 彼女が驚愕した声色でそう言う。


「お母さん! お父さん!!」


 リンが駆け出す。

 向かう先には、1組の男女が立っている。

 彼らは、リンの両親だ。


 父の名はパリン。

 俺が迎えに行った際には、何やら抵抗されてしまったこともある。

 騎士爵としてナメられないように毅然と接したつもりだったのだが、どうやらやり過ぎていたようだ。


「リン! ああ、あなた無事だったのね!?︎」


 母が泣きながら娘を抱き締めている。

 父のパリンは、そんな母娘をまとめて抱きかかえるようにして手を回す。


「本当に、本当に心配していたんだよ……」


 父も感極まった様子で、目に涙を浮かべている。

 まあ、無理もない。

 いくら難病の治療のためとはいえ、7歳の女の子を奴隷として売り飛ばしたのだ。


 彼らをこのラーグの街に連れてきたとき、俺は彼らと少し話をした。

 ラーグ奴隷商会の店長が言っていた通りの事情を持っていた。


 また、パリンたちとしても娘を売るのは断腸の思いだったそうだ。

 病気の治療にはお金がかかる。

 それこそ、爵位持ちの貴族でもなければ払えないような金額だ。


 彼らは、自分たちにできることは何だってする覚悟で、娘の治療費を稼ぐために奔走した。

 しかし、しがない平民、それも田舎の村人では、できる仕事なんてたかが知れている。

 娘本人を奴隷として売却する以外、実質的に選択肢はなかったようだ。


「お母さん! お父さん! ずっと、ずっと寂しかった……。ぐすっ」


「ごめんなさい。ごめんねぇ……」


「すまなかった。お父さんに力がないばかりに……。つらい思いをさせてしまった」


 パリンが娘にそう謝罪する。

 確かに、彼にもっと稼ぐ力があれば……。

 しかし、それを求めるのは酷だろう。

 本人の能力云々以前の問題として、環境や時代、運の問題もあるからな。


「ううん。だいじょうぶだよ。すっごく優しいご主人さまに会えたもん。すっごく優しいんだよ」


 リンがそう言う。

 大事なことなので2回言いました。

 いやあ、優しいって言われて照れるな。

 忠義度稼ぎが目的なのは黙っていよう。


「そっか。ハイブリッジ騎士爵様に優しくしていただけているのね」


「ハイブリッジ騎士爵様。奴隷の娘に優しくしていただけるだけでもありがたいのに……。まさか、目の治療までしていただけるとは……。何とお礼を申せばよろしいのか……。本当に、ありがとうございます」


「あ、ありがとうございますぅ……」


 親子3人が揃って頭を下げる。

 喜んでくれたようで何よりだ。


「うむ。感謝の言葉は受け取っておこう。しかし、治療はこちらのサリエとアイリスの力も大きかったことは覚えておくように」


 さて。

 親子の感動の再会はひと段落した。

 今後の話をすることにしよう。

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