485話 リンの目の完治

 リンの目に治療に挑戦している。

 サリエの単独のオールヒールでは少し足りなかった。

 次は、俺、サリエ、アイリスの3人による合同治療魔法を試みるつもりだ。


「では、いくぞ」


「うん。3人で心を1つにしよう」


「がんばりましょう」


 俺、アイリス、サリエ。

 集中した状態で治療魔法の詠唱を開始する。


「「「我らが創造主よ。我らにひと欠片の恩寵を与え給え。癒やしの光。全てを包み込む聖なる力よ。オールヒール」」」


 サリエが治療魔法レベル5で創造したオールヒールという魔法の合同魔法だ。

 魔法を創造するのはレベル5ならではの能力だが、創造された魔法は練習次第でレベル4以下の者でも発動が可能だ。

 リカルロイゼやリルクヴィストも、”レインレーザー”や”永久氷化”などの水魔法を使用していた。

 ラスターレイン伯爵家で代々引き継がれている最上級水魔法だそうだ。


 俺とアイリスは、オールヒールをサリエから伝授してもらった。

 まだ単独での発動には成功していないが、こうして3人での合同魔法としてなら発動が可能である。

 俺とアイリスの魔力で、サリエの治療魔法の効力を底上げしているようなイメージと捉えてもらってもいい。


 3人で発動した治療魔法の効果は大きい。

 特大の癒やしの光がリンの目を覆っていく。


「……うう。あ、あああぁっ!! ひいいいぃ……!」


 リンが大きなうめき声を上げる。

 先ほどよりもリアクションが大きい。

 少しだけ心配だが、治療魔法の効果が大きい影響だろう。


 そのまま治療魔法を継続する。

 しばらくして、治療の光が収まった。


「どうですか? リン」


 サリエがそう問う。

 リンが目をパチパチさせる。


「……っ!!! み、見えます! サリエさまのお顔が! ご主人さまとアイリスさまのお顔も!!」


 彼女が興奮気味にそう言う。

 無事に目の病が完治し、失明どころか近視すら治ったか。


「よかったな。リン」


 俺は彼女に優しく声を掛ける。


「ぐすっ。あ、ありがとうございますぅ。こんなに見えるようになるとは思いませんでした……。いつか、両目とも見えなくなっちゃうものだと……」


 リンが涙ながらにそう言う。

 彼女の生い立ちは、以前聞いたことがある。


 彼女はあまり裕福ではない農村の生まれだ。

 ある日、目の難病を患ってしまった。

 本人に加え、両親やサザリアナ王国の合意や許可のもと、隷属契約の奴隷となった。


 そして、売却金を治療費にあてて、目の治療がされてきた。

 しかし病状の進行を抑えるのがやっとで、片目は失明してしまった。

 俺たちがいなければ、数年後には両目とも失明していてもおかしくなかっただろう。

 ただちに死に至るような病はもちろん怖いが、徐々に進行していくタイプの目の病も相当に怖い。


「もうだいじょうぶだよ、リンちゃん。また様子がおかしくなったら、いつでもボクたちに言ってね」


「そうですね。タカシさんの配下ということは、私の配下も同然。臣下を労うのは、領主の妻として当然の行いですので」


 アイリスが優しく言い、サリエがキリッとした表情でそう言う。

 このあたりの言い方で、それぞれの性格の特徴が少し出ている。


 アイリスは、老若男女問わず非常に優しい。

 相手と同じ立場に立って、寄り添うように接する。

 甘々であると言ってもいい。

 冒険者ギルドでチンピラに金をせがまれたときも、ホイホイ渡そうとしていたぐらいだ。

 悪いやつに騙されないか心配である。


 一方のサリエも、優しいのは間違いない。

 しかしそれと同時に、やや厳し目の態度を取ることも多い。

 男爵家の娘としてしっかりとした教育を受けてきた影響だろう。 

 治療魔法を練習するとともに医者として勉強をしてきたことも、関係しているかもしれない。

 貴族や医者として人に接するなら、甘い態度を取るだけでは不十分だ。

 適度に厳しいことを言う必要がある局面も出てくるだろう。


「あ、ありがとうございますぅ。このご恩は一生忘れません」


「うむ。それほど気負う必要はないが、これからもがんばって働いてくれるとありがたい。レインやクルミナからもいい報告を受けているぞ。しっかりとがんばってくれているとな」


 リンの年齢は7歳ほど。

 できることには限りがある。

 体力もさほどないので、1日の労働時間は3時間以下だ。

 しかしその範囲で、レインやクルミナから適切な指導を受けて徐々にできる仕事が増えてきていると聞いている。

 今回の治療で目がちゃんと見えるようになったことだし、できる仕事はさらに増えるだろう。


 …………ん?

 リンの忠義度が爆上げしている。

 忠義度36だ。

 加護(小)の付与までもう一歩である。

 これはいい。

 やはり、低年齢の者は忠義度が上がりやすいのかもしれないな。


 加護(小)を付与できれば、全ステータスが2割向上する。

 また、既存スキルの一部のレベルが上昇する。

 まだ幼いので加護(小)だけではミリオンズに加入することは難しいだろうが、身体能力の上昇だけでも普段の家事や雑事に十分に役立つだろう。


 もう少しで加護(小)を付与できそうだし、積極的に狙っていきたい。

 そして、彼女の今後の成長、そして活躍にも期待したい。

 何か、忠義度を稼げそうなあてはないだろうか?

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