451話 慰労会 イカ焼き

 海水浴から数日が経過した。

 今日は、ラスターレイン伯爵家から館に招待されている。

 何でも、アヴァロン迷宮の攻略やファイアードラゴン戦の慰労会を行ってくれるらしい。

 リーゼロッテの案内のもと、館にやって来たところだ。


「ここがわたくしの実家ですわ」


「かなり大きいな……。騎士爵である俺の邸宅と比べると、ひと回り以上の差がある」


 立派な館だ。

 伯爵家なだけはある。

 ハルク男爵邸やディルム子爵邸よりも、さらに大きい。


 俺たちは門を通り、中に入る。

 そして、1人の男が立っていた。


「おっ。来たか。お前たちで最後だぜ」


 ラスターレイン伯爵家の次男、リルクヴィストがそう言う。


「待たせてしまったか。悪いな」


「構わねえよ。さあ、早く向かおうぜ」


 リルクヴィストの先導に従い、歩みを進める。

 会場は、本館の離れのようだ。

 広さは、小学校の体育館より少し狭いぐらいか。

 中では見知った面々が待っていた。


 ”ビッグバン兄弟”のギルバートとジルガ。

 ”武闘演舞”のジョージとセニア。

 ”聖騎士”シュタイン=ソーマとその妻ミサ。

 マクセルたち”疾風迅雷”。


 ”剣姫”ベアトリクス第三王女。

 ”白銀の剣士”ソフィア。

 ”ビーストマスター”アルカ。


 ”烈風”イリアと”解体者”ボネス。

 ”雪月花”の3人。

 ”魅力”のフレンダ。


 ”支配者”ウィリアムとその一行。

 トミーや、その他のCランク冒険者たち。

 総勢50名以上が集まっている。


 リールバッハが前に出て、口を開く。


「皆の者。今回のダンジョン攻略に対する尽力、まことに大義であった。既に冒険者ギルド経由で報酬は受け取ってくれたことだろう。それに加えて、今回はささやかながらも慰労会を開くことにした。好きに飲み食いして、今後の活動に向けて英気を養ってほしい」


 パチパチパチパチ。

 冒険者たちから拍手がなされる。


 そして、さっそく慰労会が始まった。

 立食パーティのようなスタイルだ。

 好きな料理を食べてくれという形式である。


 執事やメイドが、料理を運び込んでくる。

 冒険者たちが、思い思いの皿に群がって料理を取り分けている。

 その中でも、一際目立つのがーー。


「ほう。これがリトルクラーケンを料理したものか」


 アヴァロン迷宮からの帰り道に討伐した巨大なイカである。

 いい感じに切り分けられ、皿に盛り付けられている。

 焼いたものや刺し身にしたものがある。


「こ、これを食べるのですか。ちょっと怖いですね」


「そうですね……。こんな生物は、今まで食べたことがありません」


 ニムとサリエがそう言う。

 内陸部で生まれ育った彼女たちは、イカに抵抗があるようだ。

 魚であれば、海だけではなく川でも捕れる。

 しかし、イカ型の生物は異世界とはいえ海にしか生息していないということか。


「わたくしは挑戦しますわよ」


 リーゼロッテがそう言う。


「ああ、俺もだ。恐れることなど何もない」


 日本にいたときは、たまにイカを食べたものだ。

 まあ、回転寿司や焼き肉のサイドメニューで時折食べる程度だったが。

 俺とリーゼロッテは、さっそうとリトルクラーケンの料理が盛り付けられている皿のところに向かう。


 ざわっ。

 周囲に動揺が走る。


「お、おいおい。あんな、腕が何本もあるような得体の知れない魔物を食うのかよ」


「まるで悪魔のような魔物だぜ……」


 トミーたちがそうつぶやく。

 ニムやサリエと同様、彼らもイカに親しみはないようだな。

 確かに、見慣れていないと腕が何本もある怪物に見えなくもない。


 俺はイカ焼きを取り、自分の皿に盛り付ける。

 いい感じに焼けているな。

 いい匂いが漂っている。


 すうっ。

 俺は鼻からその匂いを堪能する。


「うんこの香りだーー!」


 俺はそう叫ぶ。


「うんこの香りだと?」


「そんなに臭いのか」


 トミーたちがそう言う。

 区切りを間違えた。

 もう1度言い直そう。


「うん、この香りだーー!」


 区切って言うかどうかで、大きく意味が変わってしまう。

 危ないところだった。


「香りだと? ……おお、確かによく嗅げばいい香りかもしれん」


「食べてみますか? しかし、少し怖いですが……」


 ウィリアムとニューがそう言う。

 高ランク冒険者の彼らといえども、未知の食材には尻込みするか。

 ここは俺が先陣を切ろう。


「未知の食べ物だろうと、俺が恐れるものは何もない」


 パクッ。

 俺はイカ焼きを頬張る。

 隣では、リーゼロッテもかぶりついている。


「おいしいですわ~」


 彼女が幸せそうな笑みを浮かべる。

 初めて食べる食材を心の底から楽しめるとは……。

 彼女はなかなかの器である。


「うふふ。わたくしにとっては、慣れ親しんだ味です」


「拙者も食うでござる。千には負けぬ!」


 千と蓮華も食べ始める。

 彼女たちは、島国ヤマト連邦の出身だ。

 イカを食べたことがあると言っていたか。


「食べ物なんかで、何を張り合っていますの……。わたくしのほうがたくさん食べられますわ」


「何の! 拙者こそ!」


 バクバク!

 バクバクバクバク!

 蓮華と千が、すごい勢いで食べていく。


 蓮華はやや子どもっぽい性格をしているところがある。

 それは今までに時おり感じてきたことだ。

 しかし、千も結構あれだな。

 張り合う必要はないと言いつつも、きちんと張り合っているじゃないか。


「ガハハ! 我らも負けておれぬな! なあ、ジルガよ!」


「おうとも! いくぜギルバート!」


 ギルバートとジルガもイカ食いに参戦した。

 それを皮切りに、みんながイカ料理に群がり始めた。

 特に大食いなのはーー。


「私は肉が好きですが、これも悪くはありませんね!」


「そ、そうですね。結構イケます」


 ミティとニムだ。

 彼女たちの食べる量は、ミリオンズの中でも上位である。


「ふん。及第点をくれてやろう」


「はっ! わたくしめも気に入りました!」


 ウィリアムとニューもたくさん食べている。

 高ランク冒険者はエネルギー代謝が激しいので、大食感な者が多いのだ。


「あはは。動物の肉はあまり好きじゃないんだけど、これなら食べられるかな」


「世界は、僕の知らないことがまだまだあるなあ。見聞を広める旅に出て正解だった」


 アルカとソフィアも結構食べている。

 それほど大きくない体のどこに入っていくんだ?


 そんな感じで、イカがすごい勢いでなくなっていく。

 今日の慰労会の目玉料理だし、注目を集めるのは当然ではあるが……。

 ちょっとペースが早くないだろうか。


 他の料理も、着々と減っていっている。

 料理が切れたりしないか、心配だな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る