426話 過剰治療と不死鳥

 ミリオンズとラスターレイン伯爵家の第2ラウンドが始まろうとしている。

 みんなステータス操作による新しいスキルなどで大幅に強くなっているし、今度こそ負けないはずだ。

 リーゼロッテの最上級水魔法により、雨も上がっていることだしな。


 ミリオンズ側は、10人。

 俺、ミティ、アイリス、モニカ、ニム。

 ユナ、マリア、サリエ、リーゼロッテ、そして蓮華である。


 ラスターレイン伯爵家側は、6人。

 リールバッハ、マルセラ。

 リカルロイゼ、リルクヴィスト、シャルレーヌ。

 そして、謎の女センである。


 俺はファイアードラゴンをかばうように、ラスターレイン伯爵家と対峙する。

 少し遅れて、ミティやアイリスたちもやってきた。


「よし……。まずは、サリエの治療魔法でドラちゃんを治してやってくれないか?」


 ドラちゃんは、息も絶え絶えな様子である。


「承知しました」


 サリエがうなずき、ドラちゃんの前に立つ。


「ふん。人の身で、竜種の治療だと? バカなことを……」


「その通りですね。魔力が足りるはずがありません。MP切れで倒れるのがオチですね」


 リールバッハとリカルロイゼがそう言う。

 しかしーー。


「我らが創造主よ。彼の者にひと欠片の恩寵を与え給え。癒やしの光。全てを包み込む聖なる力よ。オールヒール」


 サリエにより、最上級の治療魔法が発動される。

 治療の光がドラちゃんを覆う。


「す、すごぉい! 元気100倍だよっ!」


 あっという間にドラちゃんが全快する。

 治療魔法レベル5の強力さは格別だな。


 これほど強いのであれば、俺ももっと早く取っておいてもよかったかもしれない。

 いや、それは今だから思えることか。

 後ろ盾のない状態でこれほどの魔法が使えるようになれば、いろいろと不自由な思いもしただろう。


 それに、そもそも俺の精神力では持て余した可能性も高い。

 サリエが持て余さないように、俺たちでフォローしていかないとな。


「バ、バカな……。これほどの治療魔法を、サリエさんが……?」


 マルセラが驚愕の表情を浮かべる。


「おかしいですっ! ずっと病床に伏せっておられたはずなのに。治療魔法を研鑽する時間などなかったはず……。中級ぐらいまでなら、才能ということで何とか納得していましたが……」


 どうやら、マルセラやシャルレーヌはサリエと旧知の仲だったようだ。

 まあ、リーゼロッテとサリエも以前から知り合いだったしな。

 貴族同士、会う機会はあったのだろう。


 ダンジョン攻略前の選別試験では、サリエは中級の治療魔法であるエリアヒールを披露していた。

 中級の治療魔法を使えることは、ラスターレイン伯爵家にも知られている。

 しかしもちろん、最上級の治療魔法を使えることを知るわけがない。

 ついさっき強化したばかりだからな。


「これほどの治療魔法は、王宮のお抱えにもいない……。小娘、いったいどうやってこれほどの治療魔法を手に入れた!?」


 リールバッハがそう叫ぶ。

 彼はサザリアナ王国の伯爵家の当主だ。

 上級の治療魔法士にも、顔が利くのだろう。

 しかし、さすがにこれほどの治療魔法は見たことがなかったと。


「治療魔法? いいえ、違います。これは……超治療魔法です!」


 サリエがドヤ顔でそう言う。

 いや、治療魔法で合っていると思うが……。

 まあ、普段おしとやかな彼女がめずらしくノリノリな様子だし、そっとしておくか。


「超治療魔法だと? いったいなんだ、それは!」


 リールバッハがそう問う。


「お見せしましょう。……神の御業にてかの者に裁きを与えん。過ぎたる癒やしは災いを呼ぶ……」


 サリエが治療魔法の詠唱を続けていく。

 ……治療魔法だよな?

 何やら不吉な詠唱文言だ。


 俺も知らない治療魔法のようである。

 先ほど強化したばかりなので、情報の共有をきちんとできていない。


「オーバーヒール」


 癒やしの光が、リールバッハを覆う。

 なぜわざわざ、敵に治療魔法を?


「ぐ、ぐあああぁっ!」


 リールバッハが悲鳴を上げる。


「どうです? 私の超治療魔法の味は?」


「ぐ……。確かに、これは治療魔法ではない! こんなものが治療魔法であってたまるか! 過剰な治療の力で、体に異常をきたす魔法だと!?」


 リールバッハがそう言う。

 なるほど。

 治療魔法にはそういう使い方もあるのか。


「くっ。父上に対するこれ以上の攻撃は認めませんよ。……レインレーザー!」


 リカルロイゼが、水魔法をこちらに放つ。

 まるでレーザーのような鋭い水が向かってくる。

 1本のレーザーだ。


「させぬでござる! 五の型……水流切り!」


 蓮華が刀で、レーザーを切り裂く。

 流体である水を切り裂くとは、彼女の剣技はさすがだ。


「ちっ。まだまだ! ……レインレーザー!」


 リカルロイゼがさらに追撃してくる。

 今度は3本だ。

 避けるのもいいが、だれかが避け損ねないとも限らない。

 ここはーー。


「マリアに任せて!」


 マリアがさっそうと前に飛び出る。

 何か策があるのか?

 と思ったが……。


 ズキュン!

 ズキュンズキュン!

 3本のレーザーがマリアを撃ち抜く。

 それによりレーザーが威力を失ったおかげで、他の者にケガはない。


 しかしマリアが……。

 彼女が血を流し、倒れ込む。


「マリアァァァ!!!」


 また守れなかった……。

 俺は何度同じ過ちを繰り返せば気が済むのか。

 この血の量は間違いなく致命傷だ。


「リカルロイゼ! 貴様ぁ! ぶち殺すぞクソがぁ!」


「ま、待ってください! さすがに殺すつもりは……。そっちの子が急に飛び出して来たので……」


 急に子どもが来たので。

 QKKだ。


「言い訳するな! お前は絶対に許さねえ! サリエは治療を頼む! 他の全員で、マリアの敵を取るぞ!」


「おーっ!」


 隣から無邪気な声が聞こえる。

 みんな、心は1つだ。

 マリアの無念を晴らすんだ。

 俺は、隣に立つ者の顔を確認する。


「って、マリアじゃねえかあああぁ!」


「? そーだよ?」


 マリアがキョトンとした顔でそう言う。

 あれ?

 彼女はレインレーザーをまともにくらい、かなりのダメージを負ったはず。

 なんで平気な顔をして立っている?


 いや、答えは1つだ。

 彼女の類まれなる回復力のおかげだろう。

 さらに、彼女はいつの間にか術式纏装『不滅之炎』まで発動している。

 回復力は、さらに高まっている。


 というか、ついさっきも同じことがあったな?

 いい加減、マリアの回復力の強さには慣れておかないといけない。

 彼女自身はもちろん自覚している。

 今の捨て身の戦法も、意図して行ったものだろう。


「ふ、ふざけないでいただきたい! 彼女に、治療魔法が施された気配はありませんでした。まさか、自前の回復力だけで復帰したとでも……?」


「そのまさかだ。相手が悪かったな。俺たちは、お前たちの想像のはるか上をいくのだ」


 俺自身まだ慣れていないが、マリアの回復力は常人をはるかに超えている。


「く……。何度傷つき倒れようと、炎とともに再生する……。さながら『不死鳥』といったところですか。もう、子ども扱いはされないと思ってください」


「わあい! マリア、もう大人だ!」


 リカルロイゼの言葉を受けて、マリアがそう喜ぶ。

 いや、そういう意味ではないような……。

 まあ、戦闘能力において一人前扱いをされたという意味では、マリアが喜んでいるのも的外れではないのか。


 やや緊迫感に欠けてしまったが、戦闘はまだ始まったばかりだ。

 引き続き、集中して戦いに臨むことにしよう。

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