407話 ひとときの休息

 『アヴァロン防衛システム管理アンドロイド:T-17』の愛称を、ティーナに設定した。


「ご用向があれば、なんなりとお申し付けください。マスター」


 ティーナにしてもらうべきことは何か。

 とりあえず、俺たちに付いてきてもらうだけでいいか?


 もっと魔力を込めれば戦闘なども可能になるのかもしれないが、どの程度の戦力になるか不明だ。

 俺やリーゼロッテを始めとした魔法使いのMPはできるだけ温存しておきたい。


「特にしてほしいことはないな。俺たちに付いてきてくれ」


 俺はティーナにそう指示を出す。


「ピピッ。命令の受諾を保留します」


「なんだと?」


 いきなりの反抗期か。

 ロボの暴走。

 虐げられたAIの反乱が始まろうとしている。


「この場にいる4名に中度の疲労。7名に軽度の疲労を確認しました。30分程度の休息を推奨します」


「むっ!? そうか」


 みんなが疲れているのはわかってはいた。

 しかし、ファイアードラゴンという脅威を意識しすぎて気持ちが前のめり気味になっていたかもしれない。

 30分の休憩か。

 やや長いが、たった30分の差でファイアードラゴンが暴れだしたりはしないだろう。


「よし。ここで30分の休息を取ることにする」


 俺はそう宣言する。


「あ、ありがてえ。体力の限界だったんだ」


「本当にな。あれだけ活躍していたタカシの兄貴がピンピンしているから、言いにくかったけどよ」


 トミーたち同行の冒険者がそう言う。

 彼らはCランク冒険者。

 体力にも優れている。

 とはいえ、ここまでの長いダンジョン攻略で疲労が蓄積していたようだ。


 俺たちミリオンズは加護により基礎ステータスが向上している。

 その上、俺、ミティ、アイリス、ニムについては、『体力強化』というそのものズバリなスキルを伸ばしている。

 自分たちの感覚ではまだまだいけると思っても、同行の者たちにとっては大変だということもあるだろう。

 副隊長として、ちゃんと周りに気を配らないといけなかった。


「私も少し疲れていました……。ありがたいです」


「わたくしもですわ。タカシさん、お飲み物を……」


 サリエとリーゼロッテがそう言う。

 今のミリオンズの中で、体力面でやや劣るのがこの2人だろう。

 やはり、俺が気づかなかっただけで疲労が蓄積していたようだ。


 彼女たちの飲み物は俺のアイテムボックスに収納している。

 また、同行の冒険者たちの飲み物も一部は俺のアイテムボックスに収納している。

 全てではないのは、俺に万一のことがあったときのリスク分散のためである。


 俺はアイテムボックスから、各自の飲み物を取り出そうとする。

 しかし、その少し前に。


「ピピッ。10名以上に軽度の脱水症状を確認。ただちに飲料を用意します」


 ティーナがそう言って、どこからか机とティーセットを取り出す。

 そして、流れるような挙動でお茶を注いでいく。


「用意が完了しました。こちらにて水分を補給してください」


「まあ。これはご丁寧に」


「気が利きますね。ありがとうございます」


 リーゼロッテとサリエがそう言って、お茶を飲む。


「お、おい。そんな得体の知れないものを飲んでだいじょうぶか?」


「ええっと。問題なさそうですわ。変な味もしませんし……」


 この謎のダンジョンにあった茶葉なら、相当な年代物のような気もするが。

 本当に腐っていないのか?


「ピピッ。こちらの茶葉は、『状態保全』の魔法をかけられた上で、当機に標準装備されている『アイテムコンテナ』に収納しておりました。摂取にあたって問題はありません」


 ティーナがそう言う。

 アイテムコンテナ?

 アイテムバッグの上位の魔道具か何かか?

 そんな代物が標準装備されているとは、なかなか高機能なゴーレムだ。


「なら、俺もいただこう」


「私ももらうよ。……おっ! これは、なかなかの味だね」


 モニカがそう言う。

 彼女は料理人。

 味にはこだわりがある。

 そんな彼女を唸らせるとは、いい茶葉を使っているようだな。

 確かに、そこらのお茶よりもおいしい気がする。


「ただのお茶にしては悪くないです。……まだまだありますね。他にも、ほしい者がいれば飲みなさい」


 ミティがそう言う。

 彼女は肉料理などの豪快な食べ物が好きだ。

 ただのお茶は彼女の好みではないが、それでもそこそこは気に入ったようである。

 そして、彼女は同行のトミーたちにも声を掛けた。


「ありがてえぜ。ミティの姉御」


「確かに、いい茶葉を使っているようだ……。俺はあまり詳しくないのでよくわからんが」


 トミーたちがお茶を堪能する。


「ピピッ。6名に軽度の飢餓を確認。軽食の摂取を推奨します」


 ティーナがそう言って、虚空から何かを取り出す。

 今度は食べ物のようだ。

 彼女のアイテムコンテナとやらには、あとどれくらいの物が入っているのだろう?

 かなりの利便性がある。


 彼女が食べ物を机に並べる。

 そして、みんなが思い思いに手に取り食べていく。


「ふふん。この辛さ、癖になるわね……」


「このフルーツも、みずみずしくておいしい。こんなに強力な状態保全の魔法があったなんてね」


「わあい! マリアはお菓子を食べる!」


 ユナ、モニカ、マリアを始め、みんな満足そうだ。

 そんな感じで、俺たちはダンジョンの攻略中であるということを一時的に忘れ、たっぷりと休息した。

 これで各自の体調は万全だ。

 5階層の攻略にも、気合を入れて臨むことにしよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る