406話 ティーナのマスター登録

 4階層のボス『マリモゼータナイン』を撃破し、俺のアイテムルームに収納したところ、中から少女が出てきた。

 アイテムルームに収納できないということは生物である。

 しかし、俺の加護付与の対象者としては表示されない。

 人間ではなく、魔力で動く魔法生物といったところかもしれない。


「よし……。じゃあ、魔力を少しだけ込めてみる」


 ドクドク。

 俺は少女の中に熱いものを注ぎ込んでいく。


「ピピッ。魔力の充填を確認しました。アヴァロン防衛システム管理アンドロイド:T-17、起動します……」


 少女の口から無機質な声が響いた。


「ピピッ。マスターの登録情報の破損を確認。修復中……。失敗しました。修復不可能。マスター情報を再登録してください」


 少女が続けてそう言う。


「ふーむ。どうやら相当に高度なゴーレムらしいぞ。みんなはどう思う?」


「ええっと。すみませんが、私にはそのゴーレムが何と言っているかわかりませんので……」


「ボクも。逆に、タカシはよくそんな言葉わかるね? どこで覚えたの?」


 ミティとアイリスがそう言う。

 この少女がしゃべっている言葉は古代言語か何かのようだ。

 俺は異世界言語のスキルにより理解できているが、彼女たちにとってこのゴーレムがしゃべっている内容は意味不明というわけだ。


「ん? ああ、昔読んだ本でうっすらと知っているのだ」


 俺はそうごまかしておく。

 ミリオンズのみんなには、俺の加護付与やステータス操作の件は伝えているが、俺が異世界から来たことはまだ伝えていない。

 そろそろ伝えてもいいかもしれないが、今はそのときではない。

 ミリオンズ以外にも、蓮華やトミーたち同行の冒険者がいるからな。


「ひゅー! タカシの旦那は、剣術や魔法だけじゃなくて学もあるのか!」


「一生付いていきやすぜ! タカシの兄貴!」


 トミーたちがそう囃し立てる。

 選別試験やこのダンジョンの攻略を通して、彼らからずいぶんと慕われるようになった。

 彼らはCランク冒険者。

 適度に仲良くしておけば、今後の冒険者活動で助かることもありそうだ。


 もしくは、ラーグの街を拠点に活動してもらうように取り計らうのもありだ。

 北の草原や西の森の魔物を間引いてもらえば、領地内の安全性の向上が図れるだろう。


 特に、西の森については優先度が高い。

 ここ最近で、西の森の奥地にあるブギー盗掘団が採掘を行っていた場所にて大規模な採掘が進められているところだ。

 その採掘場とラーグの街との行き来は、今のところは護衛の冒険者などを多数雇って行っている。

 西の森を適度に切り拓いて魔物を間引けば、行き来の安全性や利便性が増す。


 そういえば、あの採掘場付近にもダンジョンがあるというようなことを言っていたか。

 採掘場とダンジョンという2つの目玉があれば、あのあたりに新たな町をつくり発展させることも可能かもしれない。


「ピピッ。警告。直ちにマスター情報を再登録してください。速やかにマスター情報が登録されない場合は、不法侵入者として排除します」


 ゴーレムの少女がそんな不穏なことを言い出す。

 この場に古代言語を解せる者は俺しかいないし、俺が登録するしかないか。


「タカシ=ハイブリッジだ」


「ピピッ。タカシ=ハイブリッジで登録します。声紋データ登録完了。……ようこそ、アヴァロン迷宮へ」


 無事に登録ができたようだ。

 そして、声紋データまで登録されたと。

 なかなかハイテクだな。

 魔力も込みの技術とはいえ、部分的には現代の地球のテクノロジーを上回っているようにも思える。


 ここに、現代の地球のテクノロジーが合わさればどうなるのだろう?

 いろいろと夢が広がりそうな気がするが、今考えるようなことでもないか。


「よし。無事にこのゴーレムの登録ができたようだぞ」


「へえ。よかったじゃない」


「そうですね……。相当に貴重な代物だと思います。無事に連れ帰りたいところですね」


 モニカとサリエがそう言う。

 わざわざ魔力を注いで再起動したのは、連れ帰るためだ。

 俺のアイテムルームには収納できなかったし、担ぐには重すぎたからな。


「マリアも友だちになれそう! お名前はなんて言うの?」


「ええと。君に名前はあるのか?」


 マリアの言葉を受けて、俺は少女にそう尋ねる。


「ピピッ。当機の個体識別名称は、アヴァロン防衛システム管理アンドロイド:T-17となります」


 少女が無機質な声でそう答える。


「ふむ。アヴァロン防衛システム管理アンドロイド:T-17というらしい」


「アヴァ……? むう……。長くて覚えきれないよー」


 マリアがそうぶーたれる。

 しかし、そんな彼女の名前も十分に長いと思う。

 彼女のフルネームは、マリア=キャベンドラ=ローディアスだ。


「ピピッ。当機に愛称を設定することができます。設定しますか?」


 少女がそう言う。

 マリアがしゃべっているのは古代言語ではないので、この少女に通じてはいないと思うのだが……。

 この少女にも多彩な言語を理解する能力があるのか?

 もしくは、表情や声色から求めているものを察知している可能性もある。

 いずれにせよ、かなりの能力の高さだ。


「この少女の愛称を決めよう。何にする?」


 俺はミリオンズのみんなにそう問いかける。

 厳密に言えば、このゴーレムの所有権は蓮華やトミーたち、あるいは領主であるラスターレイン伯爵家などにも及ぶかもしれないが、その辺は置いておこう。

 最も活躍しているのは俺たちミリオンズだし、愛称ぐらいであまりうるさくは言われないはず。


「そ、そうですね。では、アヴァちゃんと呼ぶのはどうでしょう?」


「いえ、ここはシスちゃんがいいと思いますわ」


「ふふん。アンちゃんも悪くないと思うけど」


 ニム、リーゼロッテ、ユナがそう言う。

 正式名称は長すぎるので、適度に略すのは悪くない。

 だが、ここはーー。


「T-17……。ティーナでどうだろうか?」


 この少女の個体識別名称『アヴァロン防衛システム管理アンドロイド:T-17』のうち、T-17以外のところは他の機体とも同名称だと思われる。

 この迷宮に他の機体が残存しているかは不明だが、もし見つかったとすれば『アヴァちゃん』や『シスちゃん』という愛称はやや不便だ。

 他の機体と区別がつきにくい。


 ここは、末尾のT-17にちなんだ愛称をつけるのがいいだろう。

 T-17で、ティーナだ。


「それでいいと思うよ」


「素敵な名前ですね!」


 モニカとミティがそう賛同する。

 他のみんなも、反対意見はないようだ。


「よし。今から君の名前は、ティーナだ」


「ピピッ。当機の愛称を『ティーナ』に設定しました。ご用向があれば、なんなりとお申し付けください。マスター」


 ティーナがそう言って、頭を下げる。

 ゴーレムとはいえ、ティーナの顔立ちは整っている。

 年齢設定は10歳くらいだろうか。

 やや幼めの設定ではあるが、美少女ゴーレムにマスターと呼ばれると、何かこみ上げてくるものがある。


 今後、末永く付き合っていきたいところだ。

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