405話 アヴァロン防衛システム管理アンドロイド T-17

 みんなと協力して、4階層のボスであるマリモゼータナインを撃破したところだ。


「……ん? マリモゼータナインは……活動を停止しているよな?」


「うん。間違いなくそのはずだよ。活動音も聞こえないし」


 俺の問いに、モニカがそう答える。

 彼女は超聴覚により、倒れている魔物やゴーレムが活動中か否かを判別できる。


「それにしてはおかしいですね……。ダンジョン産の魔物は、討伐後に虚空に消えるはずですが……」


「うーん。もしかすると、ダンジョン産じゃなくて機械仕掛けのゴーレムなのかな? 中央大陸の一部の国では研究が

進められていたし、不可能ではないはず」


 サリエの言葉を受けて、アイリスがそう言う。

 この世界は魔法が発達している代わりに、科学はあまり発達していない。

 しかし、魔力を併用した機械仕掛けを併用したゴーレムなどの研究はされているようだ。


「ふむ。それなら、撃破後に消えないのも理解できる。せっかくだし、持ち帰っておくか。俺のアイテムルームに余裕はあるし」


 ダンジョンの最奥付近を守っていた階層ボスのゴーレム。

 いろいろと研究しがいがありそうだ。

 ラーグの街に持ち帰って、トリスタあたりに見てもらおうか。

 それか、そういうのに詳しそうな技術者に相談して、場合によっては雇い入れて研究してもらうのもいい。


 もしくは、ベアトリクス第三王女やリールバッハ=ラスターレイン伯爵に買い取ってもらうのもありだろう。

 最悪、適当にバラして単純な金属材料として使うのもなくはない。


「よし。アイテムルームに収納っと。……ん?」


 マリモゼータナインの巨体は無事に収納できた。

 だが、その後に何やら別の物体が残っている。


「こ、小型のゴーレム……? いえ、人ですか?」


「マリアと同じくらいの女の子だね!」


 ニムとマリアがそう言う。

 10歳ぐらいの少女が、そこに倒れ込んでいた。


 俺のアイテムルームは、生物を収納することはできない。

 そのため、非生物であるマリモゼータナインを収納した後に残された感じだろうか。


 俺は少女に駆け寄る。


「おい。だいじょうぶか。……むっ!?」


 俺は少女の体を揺するが、違和感を感じた。


「つ、冷たい……。死んでる……」


「そう……。ゴーレムの中にいた理由はわからないけど、生きてるはずがないもんね……」


「ええ……。ここ数十年で、この階層を探索した記録はございませんし……。それよりも前の世代の方でしょうか……。ご遺体がきれいなのは、何か魔力の影響だと思われますわ……」


 アイリスとリーゼロッテがそう言う。

 俺はこの世界に来てから、死者と無縁だった。

 俺が知らないところで老衰や事故により死んだ人はもちろんいたのだろうが、俺が直接死体を見たのはこの少女が初めてだ。

 

 さっきの戦闘の余波で死んだわけではないよな?

 体がずいぶんと冷たいし、彼女が死んだのはずっと前のことだと思う。


「体もこんなに固くなっちまって……。生前は、温かみのある柔らかい体をしていただろうに……」


 少女の体は、死後硬直のためかやけに固い。

 カチンコチンだ。

 いや、死後硬直はそれほど長い期間は持続しなかったような……。

 魔力の影響か?


 彼女を弔ってやろう。

 とはいえ、ダンジョンの中なのでできることは限られている。


 今は大広間のど真ん中だ。

 せめて、隅っこのほうに移動させてあげよう。

 俺は彼女を抱きかかえようとする。


「ぐっ!? お、重い……!」


 とんでもない重さだ。

 俺はステータス操作の恩恵により、腕力の値が高い。

 腕立て伏せは100回以上できるし、そこそこ重い剣を片手で振り回すこともできる。

 そんな俺でも、この少女を持ち上げることはできない。


「タカシ様。ここは私にお任せを」


 ミティがそう言って、少女に触れる。

 そのとき。


「ピピッ……。魔力不足により、スリープモード中です……」


「ひいぃっ!」


「うぉっ!」


 少女から突然無機質な声が発せられた。

 ミティが悲鳴を上げる。

 俺も腰を抜かしそうになる。


「しゃ、しゃべりましたね……」


 ミティが驚いた顔をしてそう言う。


「あ、ああ。これはいったい……?」


 俺は少女の様子をうかがう。


「ピピッ……。再起動するためには、魔力を供給してください……」


 またも、少女から無機質な声が発せられた。


「うーん。多分だけど、ゴーレムの一種なんじゃないかな? これほど人間にそっくりなゴーレムは見たことがないけど」


 アイリスがそう言う。


「しかしゴーレムなら、俺のアイテムルームに収納できるはずだが……。この少女は収納できない。まさか、魂を持ったゴーレムだと……?」


「ボクも全然わかんない」


 こういうことに最も詳しいアイリスが知らないのであれば、ミリオンズとしてはお手上げだ。

 蓮華やトミーたちもわからない様子である。


 アイテムルームに収納できない以上は、生物とみなすべきだ。

 しかし、体は冷たいし、魔力で動いているような口ぶりである。

 この謎の存在に、俺はどう接するべきなのか。


 ……そういえば、俺には加護付与スキルがあったな。

 画面を操作し、加護付与の候補者を探してみる。


 リーゼロッテ、蓮華、それに同行の冒険者たち。

 彼女たちの名前は候補者として表示されるが、この少女らしき名前は出てこない。

 少なくとも、人間ではなさそうか。

 魔力で動く魔法生物といったところかもしれない。


「ふむ。魔力を供給すると、再起動するそうだが……。みんな、どう思う?」


 少女の首筋をよく見ると、何やら文字が刻まれていた。

 『アヴァロン防衛システム管理アンドロイド T-17』か。

 やはり、この少女は高度なゴーレム……アンドロイドのようだな。


「少し危険では? また襲ってくるかもしれませんわ」


 リーゼロッテがそう言う。

 このゴーレムの少女は、先ほどまでマリモゼータナインの中にいたようだった。

 マリモゼータナインを彼女が操っていたのかもしれない。


 マリモゼータナインのボディは既に俺のアイテムルームの中だ。

 これを操って再び襲ってくることはない。

 しかし、また別の手段によって戦闘を仕掛けてくる可能性はある。


「難しいところだね。かなりめずらしい存在だし、できれば持ち帰りたいところだけど……。アイテムルームに入らないとなると、持ち運びが大変だね」


「ああ。さっき持った感じだと、200キロ以上はありそうだ。数人がかりなら持ち上げられるだろうが、それでダンジョン内を歩いていくとなると骨が折れる」


「ふふん。ダメ元で、魔力を少しだけ供給してみるのはどうかしら? ひょっとすると、これ以降のダンジョン攻略で助けになるかもしれないわよ」


 ユナがそう言う。

 ゴーレムの仕様はよく知らないが、魔力を注いだ者に従う感じであればそれも期待できるかもしれない。


「それは悪くなさそうですね……。助けにはならなくても、自立して歩いてくれればそれで十分ですし……」


「また歯向かってくるようであれば、私が返り討ちにします! むんっ!」


 サリエとミティがそう言う。


「まあ……。皆さんがそう言うのであれば、わたくしは構いませんわ。確かに、ダンジョン探索に役立つかもしれませんし……」


「わかった。まずは様子見で、少しだけ魔力を入れてみる」


 さて。

 この少女風のゴーレムは、無事に再起動してくれるのだろうか。

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