384話 海洋都市ルクアージュ
ソーマ騎士爵領を出発してから1週間ほどが経過した。
そして、ラスターレイン伯爵領の領都である海洋都市ルクアージュに到着した。
「これは……なかなか壮観だな」
ルクアージュは海に面した場所にある。
海岸に沿って、弓なりに街を形成している。
上から見て、三日月のようなイメージだ。
あるいは、Cの字のような形状になっていると言ってもいい。
「港には結構大きな船があるねえ。ボクが乗ってきた船よりは小さいけれど……」
アイリスがそう言う。
彼女は中央大陸の出身だ。
エドワード司祭とともに、海を超えてこの大陸に来た。
遠く離れた大陸間を渡るような船は、さぞかし大きく頑丈な船だったことだろう。
まあ、ルクアージュに停泊している船も十分に大きいが。
「私は、海に来るのは初めてです! 風がしょっぱい気がします」
「私も。話には聞いたことがあるけどね」
ミティとモニカがそう言う。
この国、この世界は、科学文明があまり発達していない。
そのため、交通機関もあまり発達していない。
海から遠く離れたガロル村やラーグの街で生まれた彼女たちは、海を見るような機会はまずない。
ちなみに、科学文明が発達していない代わりに、この世界には魔法がある。
交通機関はともかくとして、料理や衛生環境など日常生活の水準としては、現代日本と同じか少し劣る程度に留まる。
だからこそ、日本生まれ日本育ちの俺でもなんとかやっていけているのである。
「さて、まずはどこに向かう? 領主邸を訪問するか、冒険者ギルドに顔を出すか、それとも……」
「ふふん。そうねえ。どれがいいかしら……」
俺はユナとともに思案顔になる。
「まずは、ラスターレイン伯爵家にあいさつをしておきましょう。すぐに会ってくれるかはともかくとして、騎士爵であるタカシさんがこの街に来ていることは伝えておいたほうがいいかと」
サリエがそう提案する。
彼女の言うことには一理ある。
しかしーー。
ぐ~。
だれかのお腹の音がした。
「し、失礼しましたわ……。お腹がすきましたし、まずは腹ごしらえと致しましょう。わたくしのオススメの料理屋を紹介しますわ」
リーゼロッテがそう言う。
またか。
ソーマ騎士爵領に着いたときも、同じような流れだったような気がするのだが。
まあ、腹が減っているのは俺も同じだし賛成だけどさ。
「い、いいですね。わたしも、ずいぶんとおいしそうな香りがしてガマンできそうになかったところです」
ニムがそう言う。
彼女は犬獣人として嗅覚に優れている。
もちろん長所であるわけだが、腹が減ったときに無闇においしそうな香りを嗅ぎ取ってしまうという点では若干短所と言えなくもない。
一度おいしそうな香りを嗅いでしまうと、ガマンし続けるのはなかなか難しいからな。
「わあい! マリアもたくさん食べるぞー!」
マリアが元気よくそう言う。
彼女はミリオンズ内でもっとも小柄だが、結構よく食べる。
成長期だからだろうか。
あまり食べすぎると、飛行能力に悪影響がないか少し心配だ。
まあ、重力魔法も取得したことだし直ちに飛べなくなったりはしないだろうが。
「では、私が先に領主邸に向かい報告しておこう。リーゼロッテ様やタカシ殿は、ゆっくりと休んでいてくれ」
コーバッツがそう言う。
彼はリーゼロッテの筆頭護衛騎士だ。
ラーグの街からソーマ騎士爵領、そしてこのラスターレイン伯爵領まで、しっかりと警護や道案内を務めてくれた。
彼は冒険者としてもCランクであるし、確かな判断能力と戦闘能力を持つ。
頼りになる存在だ。
コーバッツと別れ、俺たちはルクアージュの中を進んでいく。
俺たちミリオンズ、そしてソーマ騎士爵家の一行だ。
リーゼロッテの案内に従って、着いた先にはーー。
「こちらですわ。新鮮な海魚が食べられますのよ。ヤマト連邦風の料理が提供されます」
リーゼロッテがそう言う。
俺は店の看板を見上げる。
「どすこい寿司……か」
「すし? 聞いたことがない料理だ。どすこいは、確か相撲とかいうスポーツをするときの掛け声だったと思うけど」
モニカがそう言う。
料理人としていろいろな料理に詳しい彼女でも、寿司は知らないそうだ。
一方で、相撲というスポーツの存在は知っている。
ガロル村でミティが淑女相撲大会に出ているのを見ていたしな。
ちなみに、相撲をスポーツと呼ぶべきか、武芸と呼ぶべきか、神事と呼ぶべきかは微妙なところだ。
今はあまり深く考えないでおこう。
「寿司か。私の領地でも取り扱う飯屋はあったぞ。川魚主体だから、本場の寿司を再現することには苦労しているようだったが」
シュタインがそう言う。
今回、俺たちがソーマ騎士爵領の領都リバーサイドに滞在したのは、わずか10日間程度だ。
残念ながら、街の隅々までは観光できていない。
ソーマ騎士爵領における寿司もどきも少し食べてみたかった気がする。
俺たちはそんなことを話しながら、店内に入る。
「へい、らっしゃい!」
店員が元気よくそう迎える。
頭に鉢巻を巻いた、初老の男性だ。
「こんにちは。ええと。10名テーブルを2つお願いしますわ」
リーゼロッテがそう言う。
俺、ミティ、アイリス、モニカ、ニム、ユナ、マリア、サリエ、リーゼロッテで9人。
そして、シュタイン、ミサ、他の妻たちや従者で、約10人。
10人テーブルを2つ用意してもらえれば、2グループに別れてきれいに座ることができる。
「おお、リーゼの嬢ちゃんじゃねえか。久しぶりだな。ずっと来てくれねえから、飽きられたんじゃないかと心配していたんだぜ」
「いえいえ。諸用で少し遠方へ出ていただけですわ」
リーゼロッテがそう答える。
彼女は伯爵家の長女という高貴な身分だが、飯屋の店員とずいぶんと気安い感じでしゃべっている。
まあ、本人が気にしないならいいけど。
この感じだと、以前からの行きつけの店のようだ。
店員が10名テーブルを2つ用意する。
俺たちは、それぞれ腰掛ける。
「うふふ。大将、こちらのみなさんは寿司を食べたことがありません。ぜひとも、おいしい寿司を用意してくださいまし」
「がってんだぜ! 任せときな!」
リーゼロッテの注文に、大将がそう答える。
まあ、俺は寿司を食べたことがあるが。
せっかくリーゼロッテと大将が張り切ってくれていることだし、水は差さないでおくか。
俺の異世界言語のスキルによって寿司と訳されているだけで、全然違った料理が出てくる可能性もあるしな。
日本で食べていたレベルの寿司が出てくれば大歓迎だし、全然違った寿司が出てきてもそれはそれで食べてみたい。
どんな寿司が出てくるか、期待して待つことにしよう。
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