第12章 ラスターレイン伯爵領へ、リーゼロッテ

383話 ラスターレイン伯爵領への道中 合同火魔法

 ソーマ騎士爵領の領都リバーサイドを出発して、ラスターレイン伯爵領に向かっているところだ。


 同行者は、まずは俺たちミリオンズ9人。

 俺、ミティ、アイリス、モニカ、ニム、ユナ。

 マリア、サリエ、そして新加入のリーゼロッテである。


 あとは、もともとリーゼロッテに同行していたコーバッツたちラスターレイン伯爵家一行。

 さらに、無事に協力を取り付けたシュタイン=ソーマ騎士爵家一行である。


「ふう。街を出て早々にゴブリンジェネラルと遭遇したときはどうなることかと思ったが。あれ以降は、大した魔物も出ずに平和なものだな」


 俺はそうつぶやく。

 ゴブリンジェネラルは、俺とシュタインのW魔皇斬で瞬殺したのだ。

 リトルベアよりも強い中級上位の魔物ではあるが、もはや俺の敵ではない。


「そうですわね。我がラスターレイン伯爵家と、ソーマ騎士爵家は魔物討伐に力を入れていますからね。道中は、比較的安全なはずですわ」


 リーゼロッテがそう言う。

 サザリアナ王国は王政だが、実際には各領地を治めている領主によって多少の特色が出る。

 ハイブリッジ騎士爵領やソーマ騎士爵領のように、領主が武功を評価された冒険者上がりだと、強い魔物は領主自ら討伐するため領地は平和になる。

 また、水魔法の名門であるラスターレイン伯爵家のように、伝統ある貴族の中にも高い戦闘能力を持つ者はいる。

 そういった領地も、領主がしっかりとやる気であれば、やはり領地は平和になる。


「平和なのはいいことだねー。ふああぁー」


 アイリスがのんきにあくびをする。


「156、157、158……」


 ミティは馬車の隅で腕立て伏せをしている。

 ちょっとした空き時間もムダにしない。

 さすがだ。


「……むっ!? そんなことを言っている間に、魔物が現れたようだよ。またゴブリンの群れみたいだ」


「くんくん……。ど、どうやら通常のゴブリンだけのようです」


 モニカとニムがそう言う。

 彼女たちはすっかり、我がミリオンズの索敵係だ。

 あとは、飛行能力を持つマリアが偵察員として機能し始めたら、ミリオンズの索敵能力は盤石になるだろう。


「ふむ。ゴブリンだけか。大した相手ではないが、せっかくだし討伐しておくか」


 俺はそう言う。

 ゴブリンを討伐するメリットは、大きく3つある。

 1つは、レベリング。

 1つは、冒険者として功績を少しでも上げつつ、討伐報酬を得ること。


 そしてもう1つは、単純に周辺住民の安全性が増すことだ。

 ゴブリンは害獣だからな。

 討伐しておいて、間違いはない。


 1分1秒を争うレベルで急いでいるなら無視するのもありだが、今はそこまでは急いでいない。

 討伐する方向性でいいだろう。


 とはいえ、たかがゴブリン相手にミリオンズの9人全員が出張る必要はない。

 むしろ、同士討ちのリスクのほうが高いぐらいだ。


 多くても4~5人ぐらい。

 やろうと思えば、1人でもゴブリンの群れの掃討は可能だ。


「さて、だれが戦う?」


 ぶっちゃけ、誰でもいい。

 強いて言えばーー。


「ええっと。私は参加させていただきます。植物魔法の使い勝手を確かめておきたいので……」


 サリエがそう立候補する。

 彼女は前回のステータス操作で、植物魔法レベル1を取得した。

 何もないところへ向けて発動の練習はしていたが、まだ実戦投入はしていない。

 確かに、ゴブリンのようなザコを相手に練習しておいたほうがいいだろう。


 植物魔法レベル1は、ウッドバインドだ。

 植物のツルで敵を縛る魔法である。

 そこそこ便利そうではあるが、直接的な攻撃力は持たない。


「サリエは希望通り参加でいいだろう。他には……」


 現状のサリエの植物魔法だけでは、ゴブリンの群れを掃討することは難しい。

 他にも誰か、参加する必要がある。


「ふふん。私も参加するわ。それに、マリアちゃんとタカシも参加しなさい。”あれ”を試しておくわよ」


「わかった! あれだね!」


 ユナの言葉に、マリアが元気よくそう答える。

 あれか。


「練習してきた合同火魔法だな? 確かに、そろそろ実戦で試しておくのがよさそうだな」


 俺はそう言う。

 俺は火魔法レベル5、ユナは火魔法レベル4、マリアは火魔法レベル4を持つ。


 ユナは加護の条件を満たしているし、俺との間に確かな信頼関係を確立している。

 マリアも同様に、俺との間に確かな絆を構築している。

 また、ユナとマリアもそこそこ仲がいい。


 さらに、ステータス操作によるスキル強化の副次的効果として、魔法のイメージも高いレベルで共有できている。

 俺たち3人でなら、合同魔法の発動も可能だ。


「よし。では、流れを整理しよう。まずは、サリエのウッドバインドでゴブリンたちを拘束する。そして、俺、ユナ、マリアの合同火魔法でやつらを一掃する」


「わかりました。最初が肝心ですね。がんばります」


 サリエがそう言って、気合を入れる。

 彼女がゴブリンをしっかりと拘束してくれれば、俺たちはゆったりと集中して火魔法を発動できる。

 確かに、最初の彼女の植物魔法がうまくいくかが肝心だ。


 俺、ユナ、マリア、サリエ。

 4人で、馬車を下りてゴブリンたちのもとへ向かう。

 ミティやアイリス、それにコーバッツやシュタインの馬車には一時停止してもらっている。


 サリエが詠唱を開始する。


「……木々の精霊よ。我が求めに応じ敵を縛れ。ウッドバインド!」


 ゴブリンたちの近くに生えていた木の枝が急成長し、ツル状になってゴブリンたちに向かう。

 以前クレアが発動していたときは種から発芽していたが、今回のように自然豊かな場所であればもともとある木々を利用することができるのだ。


「「ぎいぃっ!?」」


 ゴブリンたちは突然縛り上げられ、混乱している。

 しっかりと縛られているのは数体だけのようだが、団子状態になっており他のゴブリンも行動不能気味だ。


「よし! いくぞ、ユナ、マリア」


 俺の合図を受けて、3人で詠唱を開始する。


「「「……燃え盛る地獄の業火よ。我が敵を灰燼となせ。ファイアーテンペスト!!!」」」


 ごうっ!

 激しい炎の竜巻が発生する。

 ファイアートルネードをベースにした、3人での合同魔法だ。


 威力は文句なし!

 と言いたいところだが……。


「ふうむ。一瞬の火力は高かったが、すぐに消えてしまったな」


「ざんねんだね!」


「イメージの共有が甘かったのかもしれないわ。まだまだ練習が必要ね。気を取り直して、もう1つ試しておきましょう」


 ユナがそう言う。

 一瞬の高火力により、ゴブリンの半数ほどは息絶えている。

 あと半分を始末するために、再チャレンジする感じだ。

 次は、また別の合同火魔法である。


「「「……たゆたう炎の精霊よ。我らが絆で、敵を焼き尽くせ。フレンドリー・ファイアー!!!」」」


 ズドーン!

 火山から吹き出たような強烈な炎がゴブリンたちを襲う。

 ボルカニックフレイムをベースにした、3人での合同魔法だ。


 フレンドリー・ファイアー。

 俺たちの絆が高火力に繋がっているわけである。


 ……ん?

 フレンドリー・ファイアといえば、確か同士討ちを意味していたような……?

 ま、細かいことはいいか!


「「ぎゃおおおぉっ!」」


 生き残りのゴブリンたちは、断末魔を上げて倒れた。

 これにて、討伐完了だ。


「よし。とりあえずはいい感じだな。サリエの植物魔法も、俺たちの合同火魔法も」


 俺はそう言う。

 100点満点ではなかったが、そこそこ実戦レベルだと言っていいだろう。


「そうですね。もう少し緻密な制御ができるように練習します」


 サリエがそう言う。

 ステータス操作で強化できれば早いが、今はスキルポイントが余っていない。

 とはいえ、ステータス操作に頼らずとも自主練習でそこそこ上達は狙える。

 練習しておいて損はない。


「ふふん。私たちも、もっと練習していくわよ!」


「わかった! マリアも、タカシお兄ちゃんとユナお姉ちゃんとがんばる!」


 マリアが元気よくそう言う。

 俺たちミリオンズの戦闘能力は、順調に向上し続けている。

 ダンジョン攻略とファイアードラゴンの再封印も、きっとなんとかなるだろう。

 俺たちはそんなことを話しつつ馬車に戻る。


「タカシよ。すばらしい威力の火魔法だったぞ。さすがだ」


「うむ。あれほどの合同火魔法を使える者は、貴族家や高位の冒険者でもなかなかいないだろう。頼りになる」


 シュタインとコーバッツがそう称賛する。

 まだまだ練習中で発展途上ではあるが、既にかなりの高評価だ。


「ああ、ありがとう。今後も精度や威力を向上させていくつもりだ」


 俺はそう答える。

 そして、俺たちはラスターレイン伯爵領へ向けて再び進み始めた。

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