344話 警備体制

 クリスティとの試合から1週間ほどが経過した。

彼女と俺の関係は極めて順調……と言いたいところだが、1つ誤算があった。


「アイリス姉さん! おはようございます! ああ。ついでにご主人も」

「うん。おはよー。クリスティちゃん」

「おはよう」


 クリスティのあいさつに、アイリスと俺がそう返す。


 そう。

この対応の差なのだ。


 俺とクリスティの試合の後、アイリスとクリスティの試合が行われた。

アイリスの卓越した技巧、俺以上の闘気、さらには聖闘気という応用技を見て、クリスティはすっかりアイリスになついてしまった。


 まあ、クリスティから俺への忠義度も30を超えているし、決して邪険にされているわけではないのだが……。

どうしてこうなった。


「アイリス姉さん! 今日もご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします!」

「そうだね。ビシバシいくよ!」


 クリスティとアイリスがそう言って、庭に向かう。


 普段の日は、俺たちミリオンズは魔物狩りに出かける。

クリスティは、ヴィルナたちといっしょに屋敷の警備だ。


 今日のような休みの日は、俺たちミリオンズは屋敷でゆっくりしたり趣味に没頭したりで思い思いに過ごす。

また、警備兵たちも少しシフトの負担を減らしている。


 アイリスとクリスティは、休日にはいっしょに武闘の鍛錬を行っている。

身体能力や闘気に頼ったクリスティの戦闘スタイルにアイリスの技巧が加われば、彼女の戦闘能力はより向上するだろう。


 いずれは、ゾルフ砦に連れて行ってあげようかな。

ゾルフ砦では、年に1度ガルハード杯という大規模な武闘会がある。

さらに、4年に1度ゾルフ杯という最大規模の大会もある。


 今の俺やミティであれば、ガルハード杯でも安定した結果を残せるだろう。

アイリスやモニカであれば、ゾルフ杯でも通用するかもしれない。


 ニムとユナは、武闘関係のスキルをあまり伸ばしていない。

ガルハード杯で上位入賞は厳しいだろう。

しかし、予選突破ぐらいであれば十分に可能だと思われる。

1年ほど前の時点での俺でも、予選は突破できたわけだしな。


 クリスティも、アイリスとの鍛錬でしっかりと実力を伸ばしておけば、ガルハード杯で結果を残せるだろう。


 アイリスとクリスティの鍛錬を眺めつつ、俺はそんなことを考える。

ふと、だれかが近づいてきた。


「おはよう。タカシ殿。ゲホッ」

「ああ。おはよう。ネスター。それにシェリーも」


 条件付き主従契約の奴隷の、ネスターとシェリーだ。

ネスターは30代の大柄な男性。

シェリーは30代の鍛えられた女性だ。


 2人も、元Dランク冒険者。

とある任務のミスで奴隷落ちした。

その後、肺を患ってしまい長所の戦闘能力が半減してしまったという事情を持つ。


 彼らには、この屋敷の警備兵として働いてもらっている。

警備兵は、ヴィルナ、キリヤ、ヒナ、クリスティ、ネスター、シェリーの6人態勢だ。

個別の戦闘能力としては、ヴィルナ≦ヒナ<シェリー≦ネスター<クリスティ<キリヤといった感じになる。


 最も弱いヴィルナやヒナあたりでも、Dランク冒険者クラスはある。

シェリーとネスターは、元Dランク冒険者で、Cランク1歩手前だった実績がある。

クリスティとキリヤはCランク冒険者相当の実力だ。


 また、各人の索敵・警戒能力については戦闘能力とちょうど逆の順番になる。

キリヤ<クリスティ<ネスター≦シェリー<ヒナ≦ヴィルナといった感じだ。


 キリヤとクリスティは、索敵・警戒能力について特別な技能を持っていない。

ネスターとシェリーも同様だが、彼らはDランク冒険者としての経験から多少の心得がある。

ヒナは天眼という特殊な技を使うことで、俯瞰した視点による空間把握能力がある。

ヴィルナは兎獣人としての超聴覚を活かして、抜群の索敵能力がある。


 警備体制は、常にだれか2人に正門にて警備してもらうようにしている。

残りのうち2人は自由時間、後の2人は睡眠時間のようなイメージだ。


 ある日の警備シフトを挙げてみよう。

0時から8時まで:シェリー

4時から12時まで:ヴィルナ

8時から16時まで:キリヤ

12時から20時まで:ヒナ

16時から24時まで:クリスティ

20時から28時まで:ネスター


 このようなシフトを組むことにより、1人あたり8時間の勤務で常時2人は警備している体制となっている。

交代は、2人同時ではなく4時間ごとに1人だ。

こうすることにより、交代の際に警備が手薄になるリスクや、疲労に伴い警戒能力が低下するリスクなどを軽減している。

ちなみに、トイレ休憩や食事休憩は2人のうちの片方ずつで適宜とってもらっている。


「ネスター、シェリー。2人には夜遅くの警備を任せているが、やはり負担は大きいか?」


 先ほどのある日のシフトは一例だ。

深夜帯の勤務時間が多いネスターとシェリーの負担が大きい。


 今後、シフトは定期的に入れ替える予定だ。

ただ、あまり頻繁に入れ替えても今度は生活リズムが不規則になる。

そのあたりの考慮も必要だ。


 種族ごとの特性で、夜間活動に長けた種族とかはいないのかな。

ヴァンパイアとか、ワーウルフとか。

もしくは幽霊とかな。

そういった者がいれば、夜間の警備を任せたいところなのだが。


「別に負担というほどでもない。タカシ殿も知っているかと思うが、冒険者ならこのぐらいの任務には耐えられなければならない」

「そうだね。今日みたいに負担を軽くしてもらえる日もあるし。大きな問題はないよ」


 ネスターとシェリーがそう答える。


 今日のようにミリオンズの冒険者活動を休みとしている日は、警備兵たちのシフトを減らしている。

具体的には、それぞれ4時間の勤務にしている。


 貴族である俺や妻であるみんなが屋敷にいるときこそ、警備体制を強化すべきという考え方もなくもないが。

俺たちミリオンズは、全員がかなりの戦闘能力を持つからな。

ミリオンズが屋敷に滞在している間は、警備兵の負担を減らしても問題ないと考えたのだ。


「そうか。大きな問題がないのであればいい。今後、定期的にシフトの変更は考えている」


 俺はそう言う。

ひと呼吸おいて、話を続ける。


「さて。奴隷商館でも言ったが、今日は2人の肺の病の治療に挑戦してみようと思っている。うまく治療できれば、いざというときの対処能力も向上するだろう」

「それはありがたい」

「よろしくお願いする」


 シェリーとネスターがそう言う。

無事に治療できるかどうか。


 俺とアイリスの治療魔法の合同魔法で、シェリーとネスターの治療に挑戦することにしよう。

アイリスとクリスティの鍛錬がひと段落つくのを待つ。

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