342話 サリエの来訪

 マリアが冒険者デビューをしてから数日が経過した。

彼女はファイティングドッグは軽く討伐できている。

俺たちのサポートのかいもあり、レベルも上がった。

順調に戦力として成長しつつある。


 このまま毎日狩りに明け暮れたいところだが、そうもいかない。

マリアは、狩り以外にも興味の対象がある。

この街の観光だ。

ニム、ロロ、リンあたりのちびっ子たちを引き連れて、あちこちを観光している。


 ニムが11歳。

マリアが10歳。

リンが7歳。

ロロが6歳だ。

ハイブリッジ家のちびっ子4人衆である。


 ニムは戦闘能力の面でも精神的な面でも、非常に安定している。

子ども扱いするのは少し失礼かもしれない。


 とはいえ、ニム1人で他の3人の面倒を見ることはさすがに難しい。

そのため、大人が彼女たちのお目付け役として付いていくことになっている。

セバスやネスターの他、意外にもキリヤが付いていってくれることもある。

キリヤとヴィルナがちびっ子たちの面倒を見る様子は、さしずめ子沢山の若年夫婦といった雰囲気だ。


 今日は、休日。

各自が思い思いに過ごしている。

俺は、リビングでゆっくりとしている。


 そこに、セバスが近づいてきた。


「お館様。来客でございます」

「来客? だれだ?」

「ハルク男爵家が次女、サリエ=ハルク嬢でございます。門の前にてお待ちいただいておりますので、早急にお出迎えいただければと」


 来たか、サリエ。

3か月ぶりか。

少しドキドキしてきた。


 ミティ、アイリス、モニカ、ニム、ユナ。

みんな非常に魅力的な女性だ。

この5人に共通しているのは、庶民的だということだ。


 サリエは、男爵家の娘。

貴族として、確かな気品を感じる。

彼女は彼女で、魅力的な女性だ。


 俺は正門に向かう。

立派な馬車が止まっている。

その前には、サリエとセルバスが立っている。

セルバスは、セバスの親戚の男性だ。


 少し離れたところで、クリスティとヒナが立っている。

最低限の警戒はしつつ、サリエたちの対応をしている感じだ。

きちんと警備兵としての任務を全うしてくれているようだな。


 そういえば、貴族らしいあいさつってどんな感じだ?

どうもどうも。

やあ。

こんにちは。


 うーん……。

どれもピンと来ないな。


「お久しぶりでございます。タカシ=ハイブリッジ騎士爵様」


 サリエがそう言って、深々と礼をする。

彼女に合わせるように、セルバスやその他の付き人たちも頭を下げる。


 マズいぞ。

先を越された。


「これはこれは。ご丁寧に。お元気そうで何よりです。サリエ=ハルク様」


 俺はそう言って、深々と礼をする。

少しして頭を上げると、やや困ったような顔をしているサリエが目に入った。

何か間違えたかな?


「タカシ様。私に対して、過度な礼は不要です。タカシ様は騎士爵様ご本人。私は、男爵家の娘ではありますが、爵位は持っていませんから」


 サリエがそう説明する。

なるほど?

貴族の階級としては、男爵のほうが騎士爵よりも上だ。

しかし、男爵家の娘と、騎士爵本人を比べると、騎士爵本人のほうが階級は上だということか。


 俺はそのあたりに疎い。

ミティやアイリスたちも、こういった知識には疎いはず。

貴族生まれのサリエは、ちゃんとした知識を持っているようだ。


「わ、わかった。ではさっそく、屋敷の中へ案内しよう。付いてきてくれ」


 俺はそう言って、サリエやセルバスを屋敷内に案内する。



●●●



 ミリオンズのみんなに、サリエが来たことを報告する。

サリエの対応をするのは、俺自身と、俺と結婚済みのミティ、アイリス、モニカだ。

そして、セバスにも部屋の隅に控えていてもらう。

ニム、ユナ、マリアは別室にて待機だ。


 応接室にサリエとセルバス、それに付き人の女性1人を案内する。

サリエの他の付き人は、馬車などで待機中だ。


 応接室の中にいるのは、8人。

俺、ミティ、アイリス、モニカ、サリエがソファに座って向き合っている。

セバス、セルバス、付き人の女性は、それぞれの後方に控えている。


「改めまして、ご挨拶をさせていただきます。タカシ=ハイブリッジ騎士爵様。この度は、叙爵おめでとうございます」

「ああ。ありがとう。サリエ=ハルク嬢」


 俺はそう返答する。

先ほどは”様”を付けてあいさつをしたが、それでは丁寧過ぎると苦言を呈されたからな。

少し言葉遣いを修正した。


「つきましては、お祝いの品を用意させていただきました。こちらが目録となります。アイテムバッグに入れておりますので、アイテムバッグごと受け取っていただきたく思います」


 サリエがそう言って、1枚の紙を渡してくる。

そして、セルバスがアイテムバッグを差し出してくる。


「ああ、ありがたくいただこう」


 俺は目録とアイテムバッグをそれぞれ受け取る。

目録にざっと目を通す。


 火の魔石。

水の魔石。

風の魔石。

雷の魔石。

土の魔石。


 書籍【領地経営の手引書】。

書籍【サザリアナ王国の歴史】。

書籍【魔法大全】。

書籍【ゾルフ杯出場選手特集】。

書籍【鎖国国家、ヤマト連邦の秘密】。

書籍【ハーレム王への道】。


 絵画。

骨董品。

写し絵の魔道具。

……などなど。


「ほう。かなり貴重な物品をいただけるのだな。とてもありがたい」

「いえいえ。タカシ様は、非常に有望な新貴族ですから。それに、私の病を治療してくれた恩もありますし……」


 サリエがそう言う。

そのときのお礼は、馬車や金貨などを既に受け取っている。


「しかし、さすがにもらいすぎな気もするな……。俺に返せるものは何かないだろうか?」

「気になさらないでください。……と言いたいところですが、お言葉に甘えて1つよろしいでしょうか?」

「もちろんだ。言ってみてくれ」


 俺はサリエに続きを促す。


「私を、ここにしばらく置いてもらえないでしょうか? そして、できればミリオンズに加入させていただきたく思います」

「む? ここに滞在してもらうのは、もちろん構わない。しかし、ミリオンズに加入するというのは、どういう目的だ?」


 改めて言うまでもないことだが、サリエは貴族だ。

新貴族の俺と交流を深めるためにここにしばらく滞在するのは、まあ理解できる。

しかし、わざわざ危険のある冒険者パーティに参加するというのは……。


「私も冒険者に興味があるからです。今までに、タカシ様がいろいろと話をしてくれたじゃありませんか。私、それを目標にリハビリや治療魔法の練習をがんばってきたのですよ」


 サリエがそう言う。

半年ほど前に、彼女は難病から回復した。

しかし、もちろん体力はかなり落ちていたので、リハビリをして体力を戻すことに努めていたのだ。

さらに、自身の難病を治療した俺やアイリスに憧れて、治療魔法の練習も合わせて行っていた。


「なるほど。そう言われてしまうと、こちらとしても断りにくいな。ミティ、アイリス、モニカはどう思う?」

「私は問題ないと思います! とりあえずは私たちでサポートして、初級の魔物狩りから始めればいいでしょう」


 ミティが元気よくそう言う。

彼女はイケイケドンドンな性格だし、こういうことにあまり反対しないタイプだ。


「そうだねー。少し前にマリアちゃんが加入したところだし。タイミングとしては、ちょうどいいんじゃない?」

「うん。マリアちゃんとサリエさんを私たちで補助してあげればいいと思う」


 アイリスとモニカがそう言う。

アイリスは新人や弱者に甘いタイプだ。

モニカは中立でバランスの取れたタイプだ。


 ミティ、アイリス、モニカの反対もないし、サリエの要望は受け入れる方向でよさそうだ。


「わかった。サリエ嬢の希望を受け入れよう。この屋敷の一室に寝泊まりしてもらいつつ、俺たちミリオンズの日々の狩りに同行してもらう形になる。離れた街などを訪れるのは、しばらく先の話になると思うが」

「ありがとうございます。もちろんそれで構いません。できれば世話役として、こちらのオリビアも合わせて滞在させてもらってもよろしいでしょうか?」


 サリエがそう言って、後方で控えていた女性を紹介する。


「オリビアと申します。サリエ様に長年お仕えしてきました。家事、炊事、戦闘など、ひと通りのことはできます。ご迷惑はおかけしませんし、こちらの仕事もよろしければ手伝わせていただきます」


 オリビアがそう言って、礼をする。

年齢は20代後半くらいか。

キリッとした顔つきをしている。

日本で言えば、キャリアウーマンみたいな雰囲気があるな。


「もちろん構わない。滞在するのは、サリエ嬢とオリビアの2人でいいのか?」

「ええ。あまり大人数でも、タカシ様にご迷惑がかかるでしょうし。私もある程度のことは自分でできますので、オリビアがいれば十分です」


 サリエがそう言う。

そんな感じで、サリエとオリビアの滞在が決まった。


 さらに、サリエについてはミリオンズに加入することになる。

貴族の娘だし、丁重に扱わないとな。

それと同時に、まずはミッションのために忠義度40も狙っていきたいところだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る