287話 ブギー盗掘団vsシルバータイガー
タカシたちが盗掘団の捕縛作戦を実行しているときから数年前の話の続きだ。
パームスやナーティアたちが全滅しかけた、その時。
駆けつけた者たちがいた。
ブギー盗掘団の面々だ。
「何だこの惨状は? 倒れているのは……通行人たちか。シルバータイガーに襲われちまったんだな」
「シルバータイガーに出くわすとは、不運極まりないですね。しかし俺たちにとって、これはチャンスでもあります。やつは若干疲弊しているようです」
ブギー頭領とジョー副頭領がそう言う。
パームスやナーティア、それに冒険者たちの抵抗により、シルバータイガーは少し疲弊していた。
ブギー盗掘団の面々とシルバータイガーが対峙する。
「ひゃっはー! 俺たちブギー盗掘団の力を見せてやんよ!」
「ひーはー! 仕方ねえから、このポーションをこいつらに使ってやんぜ! たくさん持ってきて正解だったなあ!」
下っ端戦闘員たちがそう言って、倒れているケガ人たちにポーションを使っていく。
パームスやナーティア、それに人たちも、全員が一命をとりとめたようだ。
「う……。あなたたちは、いったい……?」
「どなたかは知らんが、恩に着る……。助かった……」
ナーティアとパームスがそう言う。
そして、安心した顔をして意識を失った。
「よし。あとはシルバータイガーを倒すだけだ。魔石を惜しみなく使っていくぞ! はああ……」
「了解しやした!」
「うおおおお!」
ブギー頭領の指示に従い、それぞれが魔石を使って自身の魔力や闘気を高めていく。
これにより、下っ端戦闘員でさえCランク冒険者並みの戦闘能力になった。
そして、もともと上位の力があったブギー頭領やジョー副頭領は、Bランク冒険者に匹敵する戦闘能力となっている。
「うおお! ジェットキャノン!」
「……音よ切り裂け。サウンドブレイド!」
ブギー頭領の武闘とジョー副頭領の音魔法が、シルバータイガーを襲う。
「ガルル……!」
シルバータイガーが怯む。
魔石により強化された彼らの攻撃は、シルバータイガーに確かなダメージを与えている。
「ひゃっはー! 汚物は消毒だー!」
「ひーはー! ガンガンいくぜえ!」
下っ端戦闘員たちも、強気に攻撃を仕掛けていく。
シルバータイガーも負けじと応戦する。
……………………。
…………。
……。
激しい戦闘が続いていく。
双方、ダメージを負っている。
だが、ブギー盗掘団には豊富な魔石とポーションがある。
長期戦になれば、彼らが有利だ。
「グルル! グルアアアァッ!」
シルバータイガーが劣勢を覆そうと、大きな雄叫びをあげる。
「ぐむ!? こ、これは……」
「魔力波です! 各自、自身の魔力を高めて対抗を!」
ジョー副頭領がそう指示を出す。
魔力波。
自身の魔力をそのまま敵にぶつける技である。
一般的な魔法使いは、魔力を火や風のエネルギーに変換して敵にぶつける。
だが、このように魔力をそのまま敵にぶつけることも可能なのである。
この技術自体は、さほど難しいものではない。
むしろ、変換という工程を挟まない分、通常の魔法よりも簡単なくらいである。
しかし、それを戦闘に活かすとなると話は別だ。
平均的な魔法使いの力量だと、魔力をそのまま放っても相手にほとんどダメージを与えることはできない。
せいぜい、少し気分を悪くさせることができる程度だろう。
乗り物酔いぐらいのものだ。
だが、それがシルバータイガーからのものとなると。
「くっ。魔力で対抗しても、なおこの威力ですか……」
「いかん! 倒れている者たちは不防備だ! 脳にダメージを負うかもしれん!」
ブギー頭領がそう懸念の声をあげる。
「ひゃっはー! そのうるせえ雄叫びを止めやがれ!」
「ひーはー! いい加減に倒れちまいな!」
下っ端戦闘員たちが、シルバータイガーに攻撃を加える。
シルバータイガーの魔力波が、少し収まる。
「……響き渡れ。ソニックボム!」
「これでとどめだ! ビッグ……バン!」
ジョー副頭領とブギー頭領が追撃する。
そして。
「ガルル……。ガルゥ……」
とうとう、シルバータイガーは倒れた。
先ほどの魔力波は、最後の力を振り絞ったものだったのだ。
「ぜえ、ぜえ。何とか倒せたか。かなりギリギリだったが」
「そうですね。魔石やポーションも、残り少ないです。危ないところでした」
ブギー頭領とジョー副頭領がそう言う。
「ひゃっはー! アイテムバッグに収納して持ち帰ったら、さっそく解体しやしょう!」
「ひーはー! 上級の魔石が出てくるといいなあ!」
ブギー頭領がこのシルバータイガーに挑んだのは、上級の魔石を手に入れるためだ。
Aランククラスの魔石が手に入れば、理想的だ。
とはいえ、魔物から魔石がはぎ取れるかは、運の要素が大きい。
「そうだな。だが、まずは休もう。さすがに疲れた。……ん?」
どうやら、ケガ人たちが目を覚ましたようだ。
体を起こしている人たちがいる。
いいタイミングだ。
戦闘中に目を覚ましたら、フォローが面倒なところだった。
「う……。私は、いったい……」
「むう……。何があったのだ……?」
ナーティアとパームスが起き上がり、そう言う。
「なんだ? 覚えていないのか? このシルバータイガーがお前たちを襲ったようだぞ。俺たちも途中から来たから、詳細は知らないが」
ブギー頭領がそう説明する。
「そうなの? ……何も思い出せないわ」
「俺もだ。俺はこの馬車でどこへ向かうところだったか……。いや、そもそも俺の名前は……」
ナーティアとパームスがそう言う。
記憶に著しい混乱が見られる。
自分の名前すら忘れているとは。
そして、他の者たちも次々に目を覚ます。
だが、同じく記憶を失ってしまっている。
「妙だな? 全員が記憶を失うなど……」
「そうですな。1人や2人なら、魔物に襲われたショックだとか、物理的な衝撃などで説明はできますが。さすがに10人以上が同時にとなりますと……」
ブギー頭領とジョー副頭領がそう言って、考え込む。
「先ほどの魔力波が原因かもしれん。無防備なところに受けてしまっていたからな」
「確かにそうかもしれません。少し様子を見たほうがいいでしょう。もしくは、最寄りの街まで送り届けますか?」
「ふむ。どうするか……」
ブギー頭領が考え込む。
「ねえ。状況がよくわかっていないのだけど、どうやらあなたたちが私たちを助けてくれたみたいね?」
「ああ。まあ助けたと言ってもいいだろう」
ナーティアの言葉に、ブギー頭領がそう答える。
彼らのメインの目的は、シルバータイガーからはぎ取れる可能性のある上級の魔石だ。
助ける形になったのは、たまたまである。
まあ彼らにポーションを使ってあげたのは事実だし、助けたと言っても過言ではないだろう。
「失くしちまった記憶も気になるが……。助けてもらった恩を返したいぜ。俺たちにできることはないか?」
パームスがそう言う。
「そうだ。俺たちは、あんたたちに助けられた」
「命の恩人だ。ぜひ恩返しがしたい」
他の者たちが、そうパームスに同意する。
「ふむ。……記憶を失ったところに付け込むようだが、手伝ってくれるのは正直ありがたいな。人手が足りていなかったところだ。採掘作業を手伝ってもらおう」
ブギー頭領が少し考えて、そう言う。
「よし。まずは俺たちに着いてきてもらいます。確認ですが、街に帰りたい者はいないのですね?」
ジョー副頭領がそう問うが、手を挙げる者はいない。
「ひゃっはー! 今日から俺たちの仲間だぜ!」
「ひーはー! にぎやかな採掘作業になりそうだなあ!」
下っ端戦闘員たちがそう言う。
「まあ、街に戻りたくなったらいつでも言ってくれ。……それで、各自の名前を聞いておきたいのだが。ああ、いや。名前すら忘れてしまったのだったか……」
ブギー頭領がそう言う。
「その件ですが。私の懐に、乗客名簿のようなものがありました。私の血でところどころ読めないところはありますが……」
馬車の係員の男がそう言って、名簿をブギー頭領に渡す。
「確かに読めないところが多いな。……どうだ? 見覚えのある名前はないか? 自分の名前をがんばって思い出してみてくれ」
ブギー頭領が名簿を広げ、みんなに見せる。
「……私は、そのナディア? という名前に慣れ親しんでいる感覚があるわ」
「……俺は、そのパルムス? という名前に聞き覚えがある。それが俺の名前かもしれん」
ナーティアとパームスがそう言う。
名簿が血で滲んでいることにより、少し間違えて名前を読み取ってしまっている。
「ワンワンッ!」
「そうか……。お前の名前はリッキーというのだな」
パームス改めパルムスがそう言う。
彼のペットの本当の名前はリックだが、名簿の汚れによりリッキーとして読み取ってしまっている。
「……わかった。ナディア、パルムス、リッキー。それに他の者たちも。これからは、俺たちの仲間として活動してもらうぞ。よろしく頼む」
「ええ。よろしくね」
「恩を返せるよう、がんばるぜ」
「ワンワンッ!」
ブギー頭領のまとめの言葉に、ナディアとパルムスがそう答える。
「ともにブギー頭領のためにがんばりましょうね」
「ひゃっはー! 俺たちにもとうとう部下ができるわけか。なあ、弟よ!」
「ひーはー! 今までがんばってきたかいがあったぜ。兄貴!」
ジョー副頭領と下っ端戦闘員コンビがそう言う。
そして、彼らはシルバータイガーの死体をアイテムバッグに収納し、彼らのアジトへと戻り始めた。
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