285話 ブギー盗掘団の過去

 モニカがソフィアやパルムスたちを撃破する少し前。

ニム、ユナ、ストラス、セリナ、カトレアは、ブギー頭領、ジョー副頭領、ナディア、それに下っ端戦闘員たちと交戦していた。


「へっ。くらいな。スリー・ファイブ・マシンガン!」

「雷鳴三卦! なの」

「……風よ荒れ狂え。ジェットストーム!」

「「「ぐああああっ!」」」


 ストラス、セリナ、カトレア。

彼らの激しい攻勢により、盗掘団の面々は苦戦を強いられていた。

下っ端戦闘員たちが、みるみる撃破されていく。


「……我が敵を滅せよ。セブンティーン・ファイアーアロー!」

「くっ。とんでもない魔法の制御力だね。厄介な」


 ユナの17本の炎の矢を、ナディアが必死に避ける。

彼女の部下の戦闘員たちも同じく避けようとするが、避け切れずにいくつか被弾していまう者もいる。


「ぐあっ。服に火が!」

「消せ消せ! 焼け死ぬぞ!」


 戦闘員たちが焦って火を消そうとする。

スキだらけだ。


「ハードロック・パンク!」


 ニムの渾身の体当たりが戦闘員たちを襲う。

固い土の鎧をまとった体当たりだ。

かなりの衝撃力である。


「「ぐああああっ!」」


 戦闘員たちが弾き飛ばされる。

その衝撃で火は消えたものの、大ダメージを受けて戦闘不能となった。


「ふふん。残るはあなたたちだけよ」


 ユナがそう言う。

下っ端戦闘員たちは全滅した。

残ったのは、ブギー頭領、ジョー副頭領、ナディアの3名だけだ。


「お、大ケガをする前に降伏してください。ただ盗掘をしていただけであれば、それほど重い罪には問われないはずです」


 ニムがそう降伏勧告をする。


「ぐっ。正義の味方気取りの冒険者が……。俺の夢の邪魔はさせんぞ。……ぐむっ!?」

「ブギー頭領! やはり、先ほどの戦闘で受けたキズが……」


 突然膝をついたブギー頭領に、ジョー副頭領がそう言葉をかける。

タカシたちによってボコボコにされたときに受けたキズは、ポーションや治療魔法だけでは全快とまではいかなかったのだ。


「もう戦いの趨勢は決したわ。抵抗するだけ無駄よ。ダメージも負っているみたいだし、諦めなさい」


 ユナがそう言う。


「……そうはいかない。私には、ブギー頭領に恩義があるからね」

「すばらしい心意気です。俺も最後まで戦いましょう。俺には、ブギー頭領と同じ夢があります」


 ナディアとジョー副頭領がそう言う。

徹底抗戦の構えだ。


「お前たち……」


 ブギー頭領がそうつぶやく。

 膝をついている彼をかばうかのように、ナディアとジョー副頭領が彼の前に立つ。


「今度は私が、ブギー盗掘団のみんなを守るよ」

「これほどのピンチは久しぶりですね。ナディアさんやパルムスさんと始めて会ったときのことを思い出します。あのときは大変でした……」


 ジョーが遠い目をしてそう言う。

彼の脳内には、昔の記憶がよみがえってきていた。



●●●



 数年前。


 ブギー盗掘団は、この頃から西の森の奥地にて活動をしていた。

もっとも、規模は現在よりもかなり小さかったが。


 今は、定例会を行っているところだ。


「ブギー頭領。最近、森の中の様子がおかしいとの報告があがっています」


 ジョー副頭領がそう言う。

西の森の中で、魔物の生態系が乱れているようなのだ。


「うむ。俺たちの本拠地は森から外れたほら穴だから、直接的な影響はないが……。狩りをする者には、注意するように言っておけ」

「御意。細心の注意を払うように命じておきます」


 ブギー頭領の言葉に、ジョー副頭領がそう返答する。

彼らがそんなやり取りをしているとき。

下っ端の伝令役が、慌てた様子でやって来た。


「ブギー頭領! ジョー副頭領! 報告がありやす!」

「なんだ? 言ってみろ」


 伝令役に、続きの報告を促す。


「森の中でシルバータイガーを見かけやした! これはマズイですぜ」

「なにっ!? シルバータイガーだと!?」


 シルバータイガーは、災害指定生物第2種に指定される強力な魔物だ。

討伐には、冒険者で言えばBランククラスの実力者が必要となる。

盗掘団である彼らがまともに戦えば、もちろん勝ち目はない。


「今はどこをうろついているのだ? 把握しているか?」

「へい。追跡部隊をつけてありやす。どうも、森を北東に進んでいるようで。このまま森を出てくれるとありがたいんですがね」


 伝令役の男がそう言う。


「そのままだと、街道に出るのか……。通行人がシルバータイガーと遭遇してしまうと、まず助からんだろう。いずれは国により討伐隊が組まれるだろうが。ふむ……」


 ブギー頭領がそう言う。

何かを考え込んでいる。


「ブギー頭領? まさか……」

「ああ。そのシルバータイガー。俺たちで討伐してやろうではないか。Aランクの魔石がはぎ取れるかもしれんぞ。みすみす国に渡すのは惜しい」

「ですが、危険です! 俺たちには、せいぜいCランクまでの実力しかありません!」


 ブギー頭領の言葉に、ジョー副頭領がそう反論する。


「採掘で出てきた魔石が大量にあるだろう。お目当てのものが出ずにイライラさせられたが、ちょうどいい。ここで使ってしまおう。どうせ、使い道も特にないのだ」


 ブギー頭領がそう言う。

彼の採掘の目的は、とある鉱石を手に入れることであった。

お目当ての鉱石はまだ手に入れていないが、その副産物として通常の魔石はたくさん手に入っているのだ。


 時おり、指名手配されていない者に街まで換金に行かせることもある。

だが、あまり大量に換金すると怪しまれる。

怪しまれずに換金できるペースよりも発掘されるペースのほうが早い。

そのため、魔石は余り気味となっていた。


 魔石を使うことで、魔法使いは普段よりも高威力の魔法が使えるようになる。

また、肉弾戦闘員は、身体能力を向上させることもできる。

せいぜいCランククラスまでしかいない彼らでも、魔石をふんだんに使えばシルバータイガーを討伐できる可能性は大いにある。


「確かに、魔石を使えばあるいは……」

「俺はブギー頭領に賛成だぜ! シルバータイガーからAランククラスの魔石が出れば、ブギー頭領の野望にも一歩近づくしな!」


 ジョー副頭領、それに他のメンバーがそう言う。


「ひゃっはー! シルバータイガーがどうした。俺たちの敵じゃねえぜ!」

「ひーはー! 俺たちの絆を見せてやりやしょう!」


 下っ端戦闘員コンビがそう言う。


「……よし。行くぞ。野郎ども! 各自、魔石を持てるだけ持っていけ。出し惜しみはなしだ!」

「「「へい! ブギー頭領!」」」


 ブギー盗掘団は、シルバータイガーの討伐のための準備を始める。

伝令からの情報によると、西の森を北東に移動中とのことだ。

このままだとやつは街道に出る。


 見晴らしの悪い森の中で戦うよりは、街道のほうが戦いやすい。

だが、街道で戦えば通行人に目撃される可能性もある。

まあ、さほど通行量は多くないが。

せいぜい、王国が運用している馬車などがたまに通るぐらいだ。


 戦うのは街道がいいが、あまり時間もかけたくない。

そんなことを考えつつブギー盗掘団の面々は準備を終え、西の森を進み始めた。

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