272話 ダリウスとマムに報告
俺、モニカ、ニムの3人で、ラビット亭にやってきた。
今日はラビット亭の定休日だ。
店の中に入る。
モニカの父ダリウスは、明日の仕込み作業などを行っているようだ。
ニムの母マムがそれを手伝っている。
「こんばんは。ダリウスさん、マムさん」
「おお、タカシ君。それにモニカとニムちゃんも」
俺のあいさつに、ダリウスがそう返す。
彼らとは定期的に会っているので、久しぶりというわけでもない。
「いったいどうしたのだ? 今日は休みだぞ。食べに来たのであれば、準備するが……」
「料理はまたの機会に食べさせていただきます」
「お父さん。今日は、報告したいことがあって来たの。ちょっとこっちに来て座ってよ」
モニカが真剣な顔をしてダリウスにそう言う。
「む? おお、わかった」
ダリウスが作業をキリのいいところまで終わらせて、こちらにやって来た。
俺、モニカ、ダリウス。
3人でテーブルを挟んで向き合い、座る。
ニムとマムは少し離れたところで様子をうかがっている。
「お父さん。大切な話があるの」
モニカがそう切り出す。
「なんだ?」
「私、タカシと結婚しようと思っているの。優しいし、将来有望だし。何より、料理をいつもおいしそうに食べてくれる。こんな人はなかなかいないよ」
あらためてモニカからそう言われると、照れるな。
まあ優しいのは、加護付与のための打算も混じっていたが。
それに将来有望なのはチートの恩恵だ。
そして料理をおいしそうに食べるのは、彼女の料理が実際においしいので当然のことである。
もし俺にステータス操作の恩恵がなければ、モニカが俺を好いてくれることもなかったかもしれない。
……まあ、こんなことを考え始めたらキリがないか。
「ふむ。タカシ君と結婚か。大賛成と言いたいところだが」
ダリウスが言葉を区切る。
「タカシ君。ミティちゃんやアイリスちゃんとは、どうするつもりなんだ?」
「5か月ほど前に、ミティと結婚しました。そして3か月ほど前に、アイリスとも結婚しました。言いにくいことですが、モニカさんは3人目の妻となります」
俺はそう言う。
少し胃が痛い。
女性の父親に対して、”お前の娘は俺の3人目の妻にしてやる”と言い放っているわけだからな。
殴られないか不安だ。
「ふむ。……タカシ君は優秀だし、複数の妻を持つだろうとは思っていた。そのことはいい。大切なのは、きちんとモニカを幸せにしてくれるかだ」
「ええ。もちろん幸せにします!」
俺はそう言う。
モニカ、ミティ、アイリス。
3人全員を幸せにするために、がんばらないといけない。
幸い、チートのおかげで金稼ぎには困らない。
金さえあれば、たいていの困りごとは解決できるだろう。
まずは衣食住。
これに困ることは考えにくい。
次に、子どもができたときのことを考えておこう。
子どもを育てるための衣食住の費用は、もちろん問題ない。
家庭教師なども雇うことができるだろう。
身の回りの世話をしてくれる執事やメイドも、少し前に雇ったところだ。
やはり、金。
金は全てを解決する。
金さえあれば概ね幸せな生活が送れるだろう。
あとは、夫婦仲が冷えないように日々のコミュニケーションを欠かさないようにすることだ。
”収入は良いが仕事ばかりにかまけて家庭を省みない夫”などにならないように注意しよう。
俺の職業は冒険者だ。
ミティ、アイリス、モニカも冒険者として普段から行動をともにしている。
例外があるとすれば、妊娠中か。
だれかが妊娠すれば、その人にはラーグの街の自宅で待機してもらうべきだろう。
そうなると、他のメンバーで冒険者活動を行うことになる。
まあ、このあたりはまだ先の話だろう。
ミティとアイリスはともかく、モニカとはまだそういうことをしていないしな。
さすがに気が早すぎるか。
「よしわかった。モニカとタカシ君の結婚の件、祝福させてもらおう。結婚式が楽しみだ」
ダリウスがそう言う。
無事に結婚を認めてもらえた。
殴り飛ばされたりせずに済んでよかった。
「ありがとうございます」
「ありがとう。お父さん。結婚式に向けて、いろいろ準備しないとね」
モニカがそう言う。
「そうだな。父親として俺に手伝えることがあれば言ってくれ」
「わかった。よろしくね」
「その時はお願いします」
ダリウスの言葉を受けて、モニカと俺はそう言う。
「とりあえず、私とタカシでいろいろと調べてみようかな。今日のところは帰るよ」
「そうか。ゆっくりしていってくれてもいいんだぞ?」
「いえ。仕込み作業も、まだ途中のようですし」
モニカと俺は帰り支度を始める。
しかし、それを止める者が現れた。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
ニムだ。
彼女が少し大きな声でそう言う。
そういえば、ニムが付いてきた理由を聞いていなかった。
「ママ。それにタカシさんと、モニカさん。わたしも言いたいことがあるの」
「あら。何かしら? ニム」
マムがそう言う。
ニムの言いたいことか。
「わ、わたしもタカシさんと結婚する!」
ニムが爆弾発言をする。
彼女は、以前からパーティ内でもそういう発言はしていた。
しかし、実際に母親の前でそう宣言するような段階まで来ていたとは。
「え、ええと。ニムはまだ12歳になっていないし、結婚はできないわよ」
マムがそう言う。
この国での結婚年齢は12歳のようだ。
現代日本よりも一回り以上低い。
まあ、日本でも昔はそのぐらいの年齢で結婚していたりもしたはずだ。
とんでもなくおかしいというほどでもないだろう。
「じゃ、じゃあ、12歳になったら結婚する」
「……決意は固いみたいね。わかったわ」
マムがそう言う。
彼女がこちらに向き直る。
「タカシさん。そういうことです。私の娘と、婚約という形で考えていただけませんか?」
マムがそう言う。
「え、えーと。ちょっと待ってくださいね」
俺はそう言う。
突然の婚約発言に、思考がついていかない。
急に婚約話が来たので。
QKKだ。
いや。
急にというわけではない。
ニムがまだ幼いと思ってなおざりにしていた俺の油断だ。
彼女の意思に対するリスペクトが足りなかった。
もっと彼女の考えを尊重しなくてはならない。
「だ、だめでしょうか……?」
ニムが上目使いでこちらを見てくる。
彼女は一見内気な少女に見えるが、戦闘になると結構頼もしい存在だ。
高い身体能力と土魔法の鎧によって、特に近接戦闘で抜群の安定感を誇る。
遠距離では土魔法のストーンレインなどもある。
さらに加えて、上級土魔法のゴーレム生成もある。
最近では最上級の土魔法創造も取得し、いろいろと試しているところだ。
俺たちの自宅の馬小屋周辺の塀も、彼女に作ってもらった。
「わかった。ニムが12歳になって気持ちが変わらなければ、結婚しよう」
「あ、ありがとうございます!」
ニムがうれしそうにそう言う。
「ありがとうございます。まだ至らぬ点もある娘ですが、よろしくお願いしますね」
「ええ、俺も精一杯がんばります。ニムちゃんは素直でいい子です。冒険者としても土魔法の才能があり、やる気もあります。マムさんに似れば、将来は美しく育つことでしょう。俺としては断る理由はありません」
俺はそう言う。
「ただ、ミティ、アイリス、モニカに続き、4人目となってしまうのが申し訳ありませんが」
「それは仕方のないことです。一般的には一夫一妻ですが、優秀な冒険者の方などは一夫多妻もよくあることです。タカシさんは、非常に優秀な冒険者と聞いておりますが、おごり高ぶったところもない。優しい人です。娘を安心して任せられます」
マムがそう言う。
俺が力量の割に謙虚なのは、このステータス操作によって得た力がまがい物だという自覚があるからだ。
本来の自分自身の力ではない。
時間が経過し、これが当たり前だと感じるようになったらどうなるか。
いずれは傲慢な性格になっていてもおかしくない。
がんばって自制していく必要があるだろう。
マムの評価を裏切らないようにしないとな。
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