271話 モニカへプロポーズ

 幽霊騒動から数日が経過した。

今日は冒険者活動を休みとしている日だ。


 休みの日は、みんながそれぞれ好きに過ごす。

俺としてはダラダラとゆっくりして疲れをとってほしいところだが、みんな体力があるからな。

休みでも精力的に動いている人が多い。


 ミティは筋トレやみんなの武具の手入れをしている。

背中に岩を乗せた状態での腕立て伏せは迫力がある。


 アイリスは治療魔法を使った治療回りを行っている。

また、セバス、レイン、クルミナに対して疲労除去のために治療魔法をかけてあげていることもある。


 モニカはラビット亭の手伝いや、この家のキッチンで料理の練習をしている。

レインやクルミナというメイドが来てくれたし、少し手間がかかる料理にも手を出している。

毎日おいしい料理をつくってくれて、とてもありがたい。


 ニムは実家の畑の世話や、この家の庭の手入れをしている。

今までは、冒険者活動により家を空けることを見越して、多少放置してもだいじょうぶな品種を選定して栽培していた。

今では、レインやクルミナが来てくれたことにより、留守中の世話を任せられるようになった。

新たな種類の野菜などの栽培を始めているところだ。


 ユナはこの家の庭に的を作って、弓や火魔法の練習をしている。

また、馬については俺の屋敷の敷地内の隅で飼育することになった。

その馬の世話も彼女が率先して行ってくれている。

レインやクルミナに対しても、馬の世話の仕方をレクチャーしていた。


 ちなみに馬の匂い対策としては、ニムが土魔法レベル5により土の塀をつくってくれた。

それでかなりの匂いを軽減できている。

ほぼ気にならないレベルだ。


 そんなふうにみんなが精力的に休日を満喫している中。

俺は1人で屋敷のリビングのソファでくつろいでいるところである。


「みんな休みの日にも元気だなー。俺はゆっくりしていたい。これでテレビや音楽でもあればいいんだけどなあ」


 俺はそう独り言を言う。

テレビはともかく、音楽ぐらいならなんとかなるかもしれない。

写真レベルの絵を描く魔道具や、遠距離でも連絡できる魔道具があるくらいだからな。

もしくは、音楽家の仲間を探すかだが。


 そんなことを考えつつ、のんびりする。

部屋の中にだれかが入ってきた。


「タカシ。ちょっといいかな?」

「モニカか。なんだ?」


 モニカが真剣な顔をして対面に座る。

俺も姿勢を正す。


「以前から言っていたけど……。私とも結婚してくれるってことでいいんだよね?」

「もちろんだ。もう心の準備はできているぞ。ミティとアイリスにも相談済みだ」


 俺はそう答える。

ハーレムは、みんなの心情に配慮する必要がある。

結婚済みのミティとアイリスにも根回しが必要なのだ。


 まあ、断られてしまうと、非常に困るのだが。

加護の対象者であるモニカをないがしろにするわけにもいかないし、かと言って同じく加護の対象者であり結婚済みのミティとアイリスをないがしろにするわけにもいかないしな。

幸い、ミティとアイリスは俺とモニカの結婚を認めてくれた。


「ありがとう。……欲を言えば、タカシのほうからプロポーズの言葉を聞きたいなあ。女の子の憧れなんだよね」


 モニカがそう言う。

彼女からのアプローチに対して受け身でいるばかりで、俺のほうから言葉にすることをおろそかにしていたか。


 モニカはかわいく、美しく、強い女性だ。

ミティやアイリスとはまた異なる魅力がある。


 日本のクラスメイトで例えれば、モニカはいわゆる陽キャグループに所属していそうな雰囲気がある。

ちなみに、ミティは部活動に励む体育会系女子で、アイリスは多少ゆるいところもある風紀委員みたいな感じだろうか。

まあ適当なイメージだが。


「わかった。……モニカ。愛している。毎日、俺のためにおいしい料理をつくり続けてほしい」

「うん。喜んで!」


 俺のプロポーズに、モニカが満面の笑みで答えてくれる。

受けてくれるとはわかっていたことだが、それでもうれしい。


「これから幸せな家庭を築いていこうな。……ん?」


 リビングのすぐ外から複数の気配を感じる。

ミティ、アイリス、ニム、ユナだ。

彼女たちがリビングに入ってくる。


「おめでとうございます! モニカさん」

「おめでとー」

「お、おめでとうございます」

「ふふん。やるじゃない」


 ミティ、アイリス、ニム、ユナがそう祝福する。

セバス、レイン、クルミナも遅れて部屋に入ってきて、拍手で祝福してくれている。


「みんな、ありがとう」

「これからも、みんなで仲良くやっていこうな」


 モニカと俺がそう言う。

ハーレムともなれば、妻たちの間でギスギスとした空気が流れる可能性もある。

今はみんな仲良しだが、今後はどうなるかわからない。


 そもそも、今だって俺が気づいていないだけで裏ではギスギスしているのかもしれない。

まあ、この祝福を見た限りだと、仲が悪いわけでないようだが。

この関係を維持してもらえるよう、俺も精一杯がんばらないといけない。


「タカシ。私のお父さんにもあいさつに行こうよ」

「そうだな。ダリウスさんに話しておこうか」


 結婚前に、モニカの父ダリウスにあらためてあいさつは必要だろう。

彼とは良好な関係を築けているし、たぶん反対はされないと思うが。


 ……いや、どうだろう。

俺の妻は、ミティ、アイリスに続いて、モニカで3人目だ。

あまりいい顔はされないかもしれない。

1発ぐらいは殴られる覚悟をしておいたほうがよさそうか。


「じゃあさっそく、私とタカシの2人でラビット亭に向かおう。今日は定休日のはずだし、ちょうどいいと思うよ」

「わかった。そうしよう」


 モニカと俺で、出かける準備をする。

ミティ、アイリス、ニム、ユナはこの家で留守番だ。

モニカの父親に結婚のあいさつをするのに、彼女たちが付いてくるのも少し違和感があるしな。

そう思ったが。


「ま、待ってください! わたしも行きます」

「ニム?」


 ニムからの思わぬ申し出だ。


「どうした? ニムもラビット亭に用事があるのか?」

「え、えっと……。その……」


 ニムが顔を赤くして言いよどむ。

何かを照れているような雰囲気だ。


「……! わかった。ニムちゃんもいっしょに行こう。タカシもいいでしょ?」


 モニカが何かに気づいたような顔でそう言う。


「あ、ああ。モニカがそれでいいならそうしよう」


 まあ、ぜったいに他の人を連れて行ってはいけないというものでもない。

モニカの父ダリウスとニムの母マムは、再婚する可能性も高いしな。

そうなれば、モニカとニムは義理の姉妹となる。

他人というわけではない。


 俺、モニカ、ニム。

3人で、ラビット亭へ向かう準備を整えていく。

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