258話 ミティとアイリスへの特別表彰

 ユナと今後について相談した翌日になった。


 俺たちミリオンズで、街の冒険者ギルドに向かう。

ユナが俺たちミリオンズへ正式加入する申請のためだ。

それに、何やら冒険者ギルドから俺たちミリオンズに大切な連絡事項があるとも聞いたのだ。


 冒険者ギルドに入り、受付嬢に話しかける。


「こんにちは。新たなメンバーをパーティに登録したいのですが」

「かしこまりました。では、こちらの用紙にご記入ください」


 受付嬢がそう言って、1枚の用紙を差し出してくる。

かつてラーグの街で俺たちが登録するときに記入したものと同じようなフォーマットだ。


 ユナがそれに記入していく。


 ユナ=フェンガリオン

役割:飼育士

職業:弓士

目的:世界各地を旅すること


 ユナの普段の役割は飼育士として登録した。

馬の世話をしてもらう。

彼女はウォルフ村でレッドウルフの世話をしてきた。

その副次効果により、馬の世話に対する理解度も高いのだ。


 もちろん、ユナ1人に馬の世話を全て押し付けるわけではない。

モニカが登録している役割は料理人だが、みんなで手伝って料理しているしな。


 ユナが冒険者をする目的は、赤狼族を友好種族として広めることだ。

少しぼかして、世界各地を旅することというように記載している。


 あと、今さらだがユナのフルネームは初めて知ったな。


「ユナ=フェンガリオンか。かっこいい名前だ」

「ふふん。ありがとう。ドレッドやジークも喜ぶわ」

「? なぜその2人が喜ぶんだ?」

「言ってなかったかしら? 2人は私の兄よ。ドレッド、ジーク、私の順の3人兄弟ね」


 聞いてない。

聞いてないような気がする。

たぶん。


「え。でも、なんで兄のことを呼び捨てなんだ? 普通は兄貴とか兄さんとかお兄ちゃんとか……」

「ふふん。冒険者として活動する上で、家族とバレたら少し弱みになるからね。隠していたのよ」


 ふむ。

それもそうか。

例えば、盗賊と対峙したとき。

冒険者パーティ側が実の家族だとバレれば、人質をとることが極めて有効な戦術となってしまう。

そういったリスクを避けるために、呼び方にも工夫が施されているというわけか。


 そういえば、コーバッツもリーゼロッテのことは呼び捨てにしていたな。

彼の本職はリーゼロッテの護衛騎士だ。

護衛騎士として活動するときには、敬語を使うと言っていた。


「なるほどな。いつか、ドレッドさんやジークさんのことを、お兄さんと呼ぶ日も来るかもしれないな……」

「……! ふふん。その日を楽しみに待ってるわね」


 ユナが照れている。

顔が赤い。


「ゴホン! パーティ登録の申請は受理しましたよ」


 受付嬢がそう言う。

うっかり俺とユナの世界に入ってしまっていたか。


「ありがとうございます。……あと、もう1件の用があります。なんでも、俺たちに大切な話があるとうかがったのですが」

「その件ですか。皆さまには朗報となるでしょう。こちらを見てください」


 受付嬢がそう言って、紙を数枚取り出す。

精巧な絵が描かれてある。

写真と言っても差し支えのないレベルだ。


「”紅剣”のタカシ。貢献値5500万ガル……? おお、上がってる!」


 冒険者ギルドの特別表彰制度だ。

貢献の度合いに応じて、ギルド貢献値というものが設定される。

この値を見れば、その人がどの程度ギルドに貢献しているのかがわかる。

戦闘能力や意欲のものさしにもなる。


 俺の今までの貢献値は3000万ガルだった。

ホワイトタイガーの討伐やゾルフ砦の防衛戦や潜入作戦での活躍が評価され、さらにミドルベアやヘルザムの討伐が決め手となり、特別表彰制度の対象となったのだ。


 今回のキメラの討伐により、貢献値がプラスされたといったところか。

アカツキ総隊長を撃破した戦闘能力や、以前のメルビン杯で好成績を収めたことも多少は評価されていてもおかしくはない。


「ふふふ。タカシ様のすばらしさが、世間に広まっていく……! 妻として誇らしい限りです!」


 ミティがそう言う。


「あれ? ミティも表彰されているんじゃない? ほら」


 モニカがそう言って、紙を指差す。

確かに、2枚目の紙にはミティの写真があった。

大きなハンマーを軽々と構えた力強いポーズだ。


 以前、俺の特別表彰のときに彼女たちの写真も撮ってもらっていた。

こういうときに迅速に表彰できるように、ということだった。


「”百人力”のミティ。貢献値1800万ガル、ですか……。タカシ様にふさわしい妻となれるよう、今後も精進しますね!」


 ミティが元気よくそう言う。

これで、彼女の知名度も爆上がりだ。

俺も鼻が高い。


「え、ええと。もう1枚あるようですが」


 ニムがそう言う。

俺とミティの紙に加え、もう1枚あるようだ。


「あっ。これはボクのだ! ”武闘聖女”アイリス。貢献値2100万ガルか。やったあ!」


 アイリスがそう言って喜ぶ。

アイリスの写真は、凛々しい顔で武闘の構えを取っているものだった。


 それにしても、ミティよりアイリスの貢献値が上か。

審査基準が少し気になるな。


 キメラ戦では同程度の活躍だったはず。

ウォルフ村の防衛戦では、それぞれ同格ぐらいの隊長を相手取り、撃破した。


 ミティとアイリスで差があるとすれば……。

まずは、メルビン杯か。

ミティは2回戦負けだったが、アイリスは優勝した。


 その他には、治療魔法かな。

キメラ戦のあと、この街でアイリスは積極的に治療魔法をかけてきた。

ラーグの街でも、日常的に治療回りを行っている。

そのあたりが評価されているのかもしれない。


 アイリスの治療魔法に対して、ミティは鍛冶をすることができる。

パーティとしてはどちらも甲乙つけがたい有用な能力だ。

しかし、ミティの鍛冶は民間人に対して広く施したりはしていない。

その分、ミティの貢献値がアイリスよりも下なのかもしれない。


「私よりもアイリスさんのほうが上ですか……。やりますね」

「へへーん。……と言いたいところだけど、ミティがつくってくれた装備や、サポートのおかげもあるしねー」


 ミティの言葉に、アイリスがそう答える。

彼女がこの局面でドヤ顔をしないのは少し意外だ。


「まあ、パーティ内で過度に競いあう必要はないんじゃないか? 多少ぐらいであればいい刺激になるだろうが」

「それもそうですね。私は少しだけ意識することにします」

「へへーん。ボクも負けないよ!」


 俺の言葉を受けて、ミティとアイリスがそう言う。

過度なライバル心は持たず、適度に競い合ってほしいところだ。


「いいなあ。2人とも。私も二つ名がほしいな」

「そ、そうですね。わたしもがんばらないと……」


 モニカとニムがそう言う。


「まあ焦らずがんばっていけば、2人なら近いうちに特別表彰を狙えるだろう」

「そうだねー。2人は、ボクたちの中では新入りだからね。まだなのは仕方ないよ」


 俺とアイリスでそうフォローする。


「ふふん。それを言うなら、私の冒険者歴はこの中で一番長いのだけど……」

「ユナも、その成長した力を使えば、すぐにでも特別表彰を狙えるんじゃないかな」

「そうですね! ユナさんの弓や火魔法の腕前はすごいです。頼りにしています」


 俺とミティで、ユナをそうフォローする。


「それもそうね。楽しみだわ」


 なにはともあれ、俺の貢献値アップに加え、ミティとアイリスが新たに特別表彰の対象者となった。

極めて順調だ。


「ふふふ。そんなユナ様、モニカ様、ニム様にも朗報がありますよ。皆様、Cランクに昇格です」


 受付嬢がそう言う。

3人ともCランクに昇格か。

確かに、それはいいニュースだ。


「ふふん。私もとうとうCランクになれたのね」

「私だけ置いてかれないで、よかったよ」

「わ、わたしもですか。うれしいです!」


 ユナ、モニカ、ニムがそう喜ぶ。


 ユナは、冒険者歴が長い。

チートに頼りまくってあっさりと昇格した俺たちよりも、感動は大きいだろう。


 モニカは、ミティやアイリスと比べて自身の戦闘能力がやや低いのを気にしている。

最近では、何やら新技の開発にも勤しんでいるようだ。


 ニムは、俺たちの中で最年少なのにすごいな。

冒険者ギルドとしても、Cランク昇格の最年少記録に近いのではなかろうか。

今後にも期待しよう。


 俺、ミティ、アイリス、ユナ、モニカ、ニム。

これでミリオンズは全員がCランクになった。


「ミリオンズの皆様、とても有望ですね。期待していますよ!」

「ありがとうございます。がんばります」


 受付嬢の言葉を受けて、俺はそう言う。

受付嬢から特別表彰の報奨金などを受け取る。


 ディルム子爵からのお礼の金銭も、少し前に受け取った。

俺たちのパーティ資金は非常に潤沢だ。

もはや、生活費のために意識して活動する必要はほとんどない。

名声や各自の目的のために、各地を回って人々を助けていくのがいいだろう。


 具体的に今後狙っていくのは……。

俺のBランク昇格。

ミティやアイリスのBランク昇格。

パーティとしてのBランク昇格。

ユナ、モニカ、ニムの特別表彰の授与。

このあたりか。


 ミリオンズの名前は、なかなか売れつつある。

この調子でいけば、忠義度稼ぎにも役立つだろう。

俺たちは今後の冒険に期待しつつ、冒険者ギルドを後にした。

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