223話 ウォルフ村への道中 ミリオンズの戦闘能力の整理

 ラーグの街からウォルフ村へ向けて出発して1週間が経過した。

今でちょうど半分くらいの地点だ。

かなり遠い。


 御者は、ユナ、アイリス、モニカ、ニムが順番にしてくれている。

俺とミティも隣で観察したりしているが、残念ながら操馬術は習得できていない。

どうやら、俺とミティには御者の才能はないようだ。


 御者をしている人以外は、基本的に暇である。

ゆっくりと休息したり、雑談したり、筋トレをしたり、馬車と並走して体力を鍛えたり、初級の魔法の制御の練習をしたりしている。

たまに魔物が出たときは、馬車を停止させて魔物狩りを行うこともある。

また、道中の街や村にも少し立ち寄ることもある。


 急いではいるものの、あまり馬を酷使し過ぎて潰れてしまっては大きなタイムロスになる。

ほどほどに力を抜いて道を進んでいるところだ。


「それにしても、タカシたちは本当に強いわね。あらためて驚いたわ」


 ユナがそう言う。

彼女がミリオンズに一時加入してから、1か月以上が経過している。

その間に俺たちの戦闘能力は何度も披露してきた。

そして、この旅路でも何度か魔物狩りをしている。


「まあ、がんばってきたからな」


「タカシの火魔法。ミティの怪力。アイリスの格闘。モニカの雷魔法。ニムちゃんの土魔法。すごいパーティだわ」


「ユナさんの弓の腕前も、十分にすごいですよ! 助かってます!」


 ミティがそう言う。

確かに、ユナの弓の腕前はなかなかのものだ。

遠く離れた魔物相手にも、高い命中率を誇る。

彼女がミリオンズに加入したことにより、魔物の群れとの戦闘時に撃ち漏らしが減った。


「ふふん。ありがとう」


 ウォルフ村での借金返済が順調に済めばいいが、思わぬ武力沙汰になる可能性もある。

また、単純に道中で強力な魔物に出くわす可能性もある。

ユナと俺たちで、しっかりと情報共有をしておかないといけない。


「あらためて、俺たちの戦闘能力やスタイルを共有しておこう」


「そうね。いざという時のためにも、大切なことね」


「まず、俺は剣術と火魔法をメインとしている。合わせ技の火炎斬が奥の手だ。さらに、”五十本桜”というオリジナルの上級火魔法を使える。また、火魔法以外にも水・風・聖魔法を少しだが使えるな」


 俺はそう言う。

”○○本桜”の技は、地道に練習して少しずつ数を増やしてきている。

最終目標は千本だが、なかなか遠い。

とりあえず、中間目標として百本を目指していきたい。


「あとは、武闘もなかなかのものだと思う。特にスピードと耐久力に秀でている。治療魔法も得意だ。上級まで使える。ケガをしたら遠慮なく言ってくれ」


「改めて聞くと、とんでもない才能ね。ここまで急成長するとは思っていなかったわ。あのとき、もっと強引に勧誘していればよかったかしら……」


 ユナがそう言う。

ユナたちのパーティ”赤き大牙”に、俺は勧誘されたことがある。

俺はまだソロで様子を見たいと思っていた時期だったので、その申し出を断った。


 とはいえ、断固とした決意があったわけでもない。

もっと強引に誘われていたら、俺が”赤き大牙”に加入していた可能性もあっただろう。


「続いては私ですね。私は、ハンマーでの戦闘をメインにしています。遠距離からは岩を投げつけます。あと、初級ですが風魔法も使えますね」


 ミティがそう言う。

彼女はアイテムバッグに岩を常備している。

どのような環境下においても、彼女の強力な投擲術は非常に頼りになる。


「腕力には自信がありますので、力仕事があれば何でも言ってください。力を活かした格闘にも結構自信があります。あとは……、鍛冶もできるので、機会があればユナさんの装備も作らせてください」


「ミティの豪腕は頼りにしているわ。よろしくね」


 ユナがそう言う。

これまでの魔物狩りで、ハンマーや投擲による攻撃は何度も披露してきた。

ラーグの街でハルクの兵士に襲われたときは、ミティ1人で返り討ちにしたこともある。

彼女の強さはかなりのものだ。


「次はボクか。ボクは、格闘がメインだね。闘気を活かして戦うよ。聖魔法も中級まで使えるね」


 アイリスがそう言う。

格闘における戦闘能力は、俺たちミリオンズの中でも彼女がダントツだ。

メルビン杯でも優勝したしな。


「あとは、タカシと同じく治療魔法を上級まで使えるよ。ケガをしたら遠慮なく言ってよ」


「アイリスの格闘の腕は知っているわ。ガルハード杯も見ていたしね。心強いわ」


 ユナがそう言う。

彼女は、ガルハード杯での俺とアイリスとの戦闘などを観戦していた。

アイリスの超スピードを知っている。


 ただし、アイリスはあれからさらなる成長を遂げている。

普段の魔物狩りでは、今まで闘気を全開にする機会がなかった。

近いうちに、一度全力を見せておいてもいいだろう。

おそらく、アイリスの実力はユナの想像をはるかに上回っていることだろう。


「続いては私だね。私は、前の3人ほど多才じゃないよ。格闘と雷魔法だけだね」


 モニカがそう言う。

ひと呼吸置いて、続ける。


「あとは、料理が得意だよ。今回の旅の間も、できる範囲でおいしいごはんを振る舞うね」


「中級の雷魔法を使えるだけでも、十分に強力よ。謙遜する必要はないわ。私は初級の火魔法しか使えないしね」


 ユナがそう言う。

確かに、一般的には中級を使えるだけでも十分に強い。


 加えて、モニカは格闘と料理も上級クラスだ。

彼女の実力が公になれば、他のパーティから引き抜きを狙われるかもしれない。

それほどの逸材である。


「さ、最後はわたしですね。わたしは土魔法しか使えません。格闘も少し習いましたが、アイリスさんやモニカさんたちには遠く及びませんし……」


 ニムがやや暗い顔でそう言う。


「いや、ニムは土魔法の岩の鎧と格闘の組み合わせが強い。身体能力も高いしな」


 俺はそうフォローする。


「ふふん。10歳と少しのその年齢で、そこまでできれば大したものよ。それに、ゴーレムも作れるじゃない」


 ユナがそう言う。

確かに、年齢を加味すれば、俺たちの中で最も優秀なのはニムと言っても過言ではないだろう。


 まあ、俺のステータス操作というチートの影響が大きいが。

彼女本人の努力や度胸による面も大きい。

普通の同年代の少女であれば、日々の鍛錬が嫌になったり、魔物相手にビビって戦えなかったりしてもおかしくない。

彼女の精神力はなかなかのものだ。


「あなたたち5人の力量は把握させてもらったわ。私のことも話しておくわね。5人のあとだと、気が引けるけど……」


 ユナがそう言う。

ひと呼吸置いて、続ける。


「私のメインは弓よ。命中率には自信があるわ。最近は闘気術を応用して、威力も少し上げられるようになったの。あとは初級の火魔法に、接近戦では短剣術も扱うわ」


「ボクたちの中に弓を扱える人はいないからね。頼りにしているよ」


「そうだな。それに、俺の火魔法と合わせればより高威力な魔法になるかもしれない。そこにも期待しておこう」


 俺はそう言う。

防衛戦では、リルクヴィスト、リーゼロッテ、コーバッツの3人で水魔法の合同魔法を発動していた。

ゴーストやヘルザムの浄化では俺とアイリスで聖魔法の合同魔法を発動した。

直近では、俺とアイリスで治療魔法の合同魔法を発動して、サリエを治療した。


 パーティ内で異なる属性の魔法を伸ばしていけば、様々な状況への対応性能が向上する。

一方で、同じ属性の魔法を伸ばしていけば、合同魔法により高性能の魔法が使えるようになる。

どちらにも利点がある。


「合同魔法のことね。私の火魔法は初級だから、中級以上を使えるタカシとうまく合わせられるかしら。なかなかの練習が必要そうね。まあ、少しずつ練習していきましょうか」


「そうだな。がんばって練習していこう」


 ウォルフ村に到着するまで、あと1週間ほどはかかるだろう。

ウォルフ村でどのような出来事が待っているのか。


 借金の返済が無事に済むかどうかの不安。

ユナの故郷を訪れる期待。

その2つを胸に、道を進んでいく。

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