209話 ミリオンズvsエドワード司祭 後編

 模擬試合の続きだ。

俺たちミリオンズ対エドワード司祭。

残念ながら、ミティはやられてしまった。

残った俺、アイリス、モニカ、ニムで戦略を立て直す必要がある。


「まだまだ。俺たち4人でならやれるぞ!」


 俺はそう言って、みんなを鼓舞する。


「ふふふ。たかが1対4で私に勝てるつもりとは。なめられたものですね。あっさりと倒してあげましょう」


「むっ。き、聞き捨てなりません。調子に乗らないでください!」


 エドワード司祭の言葉に、ニムがそうかみつく。

まあ、1対4でもなお勝てないと思われていたら、心外だよな。


「その通り! 倒されるのはそっちだよ! 行くよ、みんな!」


 アイリスの言葉を合図に、4人でエドワード司祭に駆け寄る。

4人で翻弄しつつ、攻撃のスキを探す。


「やる気満々ですばらしいですね。しかし、気持ちだけで勝てるものではありません」


 エドワード司祭がそう言って、こちらをにらむ。

俺たちの動きを見極めようとしているようだ。

そして。


「……重撃一棍!」


 エドワード司祭が棒術による渾身の攻撃を繰り出してくる。

ターゲットはニムだ。

幼い彼女から狙うとは。

容赦がない。


 ドガン!

エドワード司祭の攻撃がニムにヒットする。

これは……。


「こ、これがわたしのロックアーマーです。すばらしい一撃でしたが、岩の鎧の前にはどうということはありませんね」


 ニムがそう言う。

これは武闘だけではなく実戦形式の模擬試合なので、魔法の使用もありとなっている。

彼女のロックアーマーは、エドワード司祭の一撃を見事に防いだようだ。


 ただの岩であれば、エドワード司祭ならば砕くことも可能だろう。

しかし、ニムの土魔法は中級で、MPも潤沢に使用している。

また、闘気術の応用により岩の鎧の強度がさらに増している。


 さすがのエドワード司祭も、今のニムの岩の鎧を砕くことは難しいだろう。

まさに鉄壁の防御だ。


「ワン・エイト・マシンガン!」

「迅・砲撃連拳!」


 エドワード司祭の攻撃のスキを突いて、俺とアイリスで攻撃を仕掛ける。


「ぬうう!」


 エドワード司祭が防御に専念する。

俺とアイリスの連撃では、彼に大きなダメージを与えられないことはわかっている。

狙いはもちろん別にある。


「……パラライズ!」


 モニカの手のひらから電流のようなものがほとばしる。

雷魔法レベル2のパラライズだ。

威力はさほどでもないが、敵を麻痺させる効果を持つ。

魔法がエドワード司祭にヒットする。


「ぐむ!? こ、これは……」


 エドワード司祭は体が痺れているようだ。

膝をつく。


「俺たちをなめた報いを受けてもらいますよ!」


「降参するなら早めにね!」


 俺とアイリスはそう言って、麻痺しているエドワード司祭に攻撃を加えていく。

ただし、麻痺はしていても聖闘衣による耐久力は健在のようだ。

なかなか大きなダメージを与えることができない。


「ちっ。埒が明かないな」


「だね。少し大技を使おうか」


 俺の言葉に、アイリスがそう言う。

さらにモニカも加わり、俺たち3人が闘気を高めていく。


「剛拳流奥義。ビッグ……」


 俺はエドワード司祭に攻撃を仕掛けようとする。

アイリスとモニカも大技の構えだ。

しかし。


「……神の御業にて我を癒やし給え。ヒール」


「なにっ!? しまった!」


 エドワード司祭は治療魔法も使えたのだった。

彼の麻痺が解除される。


「はああ! 十六夜連棍!」


「ぐあああっ!」

「「きゃっ!」」


 俺、アイリス、モニカ。

俺たち3人は、エドワード司祭の攻撃により弾き飛ばされてしまった。


 俺たちは大技のために攻撃に闘気を割いていた。

とっさに防御に闘気をまわす余裕がなかったため、受けたダメージは大きい。

しばらく立てそうにない。


「さて。あとはニム君ですね。降参しますか?」


 エドワード司祭がニムのほうを向く。

戦闘の継続が可能なのは、あとは彼女だけだ。


「わ、わたしはまだやれます。わたしにはロックアーマーがあります。攻撃してもムダですよ」


 ニムがそう言う。

その通りだ。

彼女の防御を崩せない限り、エドワード司祭に勝利はない。


 何とか粘ってくれ。

もう少ししたら、俺が治療魔法により自身を治療して、戦線に復帰できるかもしれない。


「ふふふ。ニム君のその鎧は、確かにかなりの強度です。しかしそれならそれで、やりようはあります」


 エドワード司祭がそう言って、闘気を高めていく。


「聖ミリアリア流奥義。”発勁” 」


「うっ!」


 エドワード司祭がニムの岩鎧に触れたかと思うと、ニムがうめき声を上げて倒れた。

岩の鎧越しに衝撃を与える技か?

どういう理屈だろう。


 残念ながら、これで俺たちミリオンズは5人全員が戦闘不能にまで追い込まれてしまった。

勝負ありだ。


「さて。模擬試合はこの辺で終わりにしましょう」


 エドワード司祭がそう言う。

彼が治療魔法の詠唱を始める。


「……神の御業にてかの者たちを癒やし給え。エリアヒール」


 癒やしの光が俺たちを覆う。

それぞれが立ち上がり、ステージの中央付近に集まる。


「エドワード司祭。治療魔法をかけていただき、ありがとうございます」


「はあー……。それにしても、まさか1対5で敵わないなんてね。ボク、また自信をなくしそうだよ」


「いえ。そう落ち込む必要はありませんよ。想像以上の戦闘能力と連携でした。それに、タカシ君には剣や火魔法もあるでしょう。お互いが本当の意味で全力を出せば、結果は変わるでしょうし」


 エドワード司祭がそう言う。


「剣や火魔法なしでもエドワード司祭に勝てるよう、精進します。……ところで、俺とアイリスの結婚の件は……?」


 1対5で負けるような軟弱な男に、アイリスはやれん!

とか言われないだろうか。


「ああ。その件ですか。もちろん祝福しますよ。君たちのパーティならば、安心してアイリス君を任せられます。まあもとより、私に最終決定権はありませんしね。当人同士の意思が何よりですので」


 エドワード司祭がそう言う。

じゃあ今の模擬試合は何だったのかと言いたくなるが。

まあ、これはこれで必要なことだったと思うことにしよう。

実力を測った上で安心して任せるのと、そうではないのとは、やはり気持ちが違ってくるのだろうし。

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