208話 ミリオンズvsエドワード司祭 前編

 エドワード司祭のところにやってきた。

俺、アイリス、ミティ、モニカ、ニムの5人だ。

エドワード司祭は、街中の教会にいた。


 最近になって建てられた教会である。

さほど大きくはないものの、しっかりとした建物だ。

どことなく厳かな雰囲気もある。


 普段は、ここで聖ミリアリア統一教の教えを説いたり、治療魔法をかけたりしているらしい。

今はエドワード司祭1人だ。


「エドワード司祭。こんにちは」


「ん? おお、タカシ君とアイリス君ですか。それに他のみんなも」


 エドワード司祭がこちらを向き、そう言う。


「今日はエドワード司祭に大切な話があります」


「なんでしょうか?」


 俺はひと呼吸置き、姿勢を正す。


「アイリスさんを俺にください!」


「う、うむ。それは、結婚するという話ですね? 大会での公開プロポーズを見ていましたし、そういう話もあるかとは思っていましたが……」


 そういえばそうだ。

俺とアイリスは、観衆の前で互いにプロポーズをしたのだった。

当然、エドワード司祭も俺とアイリスの結婚についての覚悟はしていたのだろう。


「一応聞いておきますが、アイリス君も同じ気持ちですね?」


「そうだね。ボクもタカシと結婚したいと思っているよ。エドワード司祭には、結婚式で祝福をあげてほしい」


「……そうですか。何となく、君たちが結婚することもあるのではないかと思っていました。ガルハード杯の前後でも、相性がよさそうでしたからね」


 エドワード司祭がそう言う。

彼が言葉を続ける。


「しかし、タカシ君はミティ君と既に結婚しているでしょう。アイリス君は第二夫人でいいのですか? それに、パーティメンバーも女性ばかりが増えているようですが」


「ボクは第二夫人で構わないと思っているよ。今後、さらに増えるかもしれないのも理解はしてる」


 モニカのことだろう。

ニムやマリアは、さすがにまだまだ先の話だ。


「まあアイリス君本人がそう言うのであれば、構わないでしょう。タカシ君の力量なら、複数の妻を守っていくことも可能でしょうし。私としては強く反対はしません。……が」


「が?」


「私はアイリス君の両親とも旧知の間柄です。少し慎重に見極めたいと思う気持ちもあります」


「えー。そんなこと言わずに、サクッと認めてよー」


 アイリスがぶーたれる。


「いえ。何も無理難題をふっかけようというわけではありません。私に君たちの実力を見せてください」


「実力? ボクはエドワード司祭に勝ったじゃない」


「ええ。アイリス君の成長は見事でした。今回は、タカシ君や、君たちのパーティとしての腕前を見せてもらいたいと思います。アイリス君とタカシ君が幸せになるためには、パーティとしての実力も大切ですからね」


「エドワード司祭の意向は理解しました。具体的には何をすればいいのでしょうか? 模擬試合ですか?」


 俺は彼にそう問いかける。


「そうですね。君たち5人と、私1人の模擬試合をしましょう。5対1での実戦形式です」


「……さすがになめ過ぎじゃない? ボク1人でも、勝ったのに」


 確かに、アイリスの言う通りだ。

彼女1人でもエドワード司祭には勝ったのだ。

俺たち5人対エドワード司祭1人なら、勝負になるはずがない。


「それはその通りですが。アイリス君も知っている通り、私の本来のメイン武器は”こちら”でして……」


 エドワード司祭がそう言って、棒を取り出す。

長さ2mぐらいの頑丈そうな棒だ。

アイテムバッグに収納していたようだ。


「えっ。武闘家が本業ではなかったのですか?」


「そうですね。まあ、もちろん武闘も十分に鍛えてはいますが」


 エドワード司祭は、棒術使いだったのか。

ステータス操作でも、棒術というスキルは見かけたことはある。

普段の魔物狩りでは剣・槍・ハンマーなどのほうが有用だと感じて、スルーしていたが。


 彼は神官だ。

無用な殺生は避けているのだろう。

そのために、あえて殺傷力の低い棒術を鍛えているといったところか。

さほど危険性の高くない魔物を追っ払うときや、軽犯罪者を制圧するようなときには、剣術などよりも棒術が役立つ局面もあるのだろう。


「私は棒術で闘います。あとは、気弾や治療魔法も併用します。実戦形式ですね。君たちも、実戦に近い戦闘方法できてください。ただし、鋭い刃物や殺傷力の高い攻撃魔法だけはさすがにさけてください。万が一ということもありますので」


「わかりました。俺たちの力を見せてあげましょう。なあ、みんな?」


「うん。そうだね」


「私もがんばります!」


 アイリスとミティがそう言う。

モニカとニムもやる気を見せてくれている。

エドワード司祭には悪いが、あっさりと勝たせてもらおう。



●●●



 エドワードとの模擬試合が始まる。

会場は、小さめのコロシアムを借りた。

メルビン杯が行われた場所だ。

今日は使用者がいなかったため、俺たちの貸し切りとなる。


「さて。さすがに5対1です。最初から本気でいかせてもらいましょう」


 エドワード司祭がそう言う。


「右手に闘気。左手に聖気。……聖闘気”守護”の型」


 彼が聖闘衣をまとう。

これで、彼の耐久力は格段に増した。

生半可な攻撃は通じないだろう。


「みんな。いくぞ! 準備してくれ!」


 俺はみんなにそう合図をする。

みんながそれぞれ、闘気を高めていく。


「疾きこと風の如し」

「疾きこと風の如し」

「侵掠すること火の如し」

「動かざること山の如し」

「聖闘気、迅雷の型、豪の型、流水の型」


 順に、俺、モニカ、ミティ、ニム、アイリスだ。

これで戦闘準備は整った。


「アイリス! まずは俺たちから仕掛けるぞ!」


「おっけー!」


 俺とアイリスでエドワード司祭に駆け寄る。


「ワン・エイト・マシンガン!」

「迅・砲撃連拳!」


 俺が18発の蹴り。

アイリスはパンチの連撃だ。

まずはこれで牽制をする。


「連撃の速度はなかなかのものですが。威力が足りていませんよ」


 エドワード司祭は平然とした顔でそう言う。

俺の攻撃はともかく、アイリスの攻撃はかなりの威力である。

多少のダメージは受けているようだが、耐えきれないほどでもないようだ。


 エドワード司祭がこちらの攻撃を耐えつつ、反撃の構えを取る。

しかし。


「スキあり!」


 ミティがエドワード司祭の後方から現れる。

俺とアイリスが彼の気を引いている間に、うまく回り込んだようだ。

そのまま、ミティが彼の首を脇に抱えて締め上げる。

いわゆるヘッドロックだ。


「ぐぬ!」


「さあ選んでください。このまま私に絞め落とされるか。それとも他の4人にやられるか」


 ミティがそう言う。

エドワード司祭にとっては、難しい選択だろう。

俺やアイリスもさらなる追撃を狙う。


「そのどちらでもないですよ。聖闘気、豪の型。……はっ!」


「きゃあっ!」


 エドワード司祭がミティを振りほどく。

そして。


「ぬうう! 十六夜連棍!」


「うっ!」


 エドワード司祭の棒術での攻撃により、ミティがふっ飛ばされる。


 ミティは闘気によってガードしていた。

大きなケガは負っていないようだ。

しかし、この試合への復帰は微妙かもしれない。

エドワード司祭にスキがあれば、俺の治療魔法でミティを治療することも可能だろうが。


「ふふふ。さあ、次はだれがかかってきますか? 順番に倒していきましょう」


 エドワード司祭がそう言って、不敵な笑みを浮かべる。

不用意にスキを見せれば、やられてしまうだろう。

ミティの治療のタイミングは慎重に判断する必要がある。


「くっ。棒術使いと戦うのは初めてだが、相当に厄介だな」


「でも、まだ私たちは4人いるよ」


「そうだね。ボクたちの力を合わせて、勝ちに行こう」


「わ、わたしもがんばります!」


 俺、モニカ、アイリス、ニムがそう言う。

まだまだ、模擬試合は始まったばかりだ。

工夫次第で勝つことも可能だろう。

気を引き締めよう。

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