191話 メルビン道場への入門 聖闘気 五光一閃

 メルビン道場に入門する際に、メルビン師範と手合わせをすることになった。

モニカ、ニム、俺、ミティは負けてしまった。

まあ、実力を見てもらうことが目的なので、負けても別に問題はないが。


 次はアイリスだ。

エドワード司祭と闘うことになっている。

俺たちミリオンズの中でも、武闘においては彼女がもっとも強い。

武闘における戦闘能力を順位付けるとすれば、ニム<<俺≦ミティ≦モニカ<アイリスといったところだ。


 ニムは、武闘系のスキルを持っていない。

武闘における戦闘能力は、俺たちの中では最も低い。

とはいえ、加護の恩恵と基礎ステータス向上系のスキルにより、身体能力は高い。

また、格闘の基礎はアイリスから教えられている。

平均的な冒険者よりは強いと言ってもいいだろう。

ラーグの街の冒険者ギルドでチンピラに絡まれたときも、返り討ちにしていたしな。


 俺は、格闘術レベル1と闘気術レベル3に加え、基礎ステータス向上系のスキルも取得している。

技量自体は素人に毛が生えたレベルだが、総合力としてはなかなかだろう。

ガルハード杯の予選を突破したこともある。


 ミティは、俺と同じく格闘術レベル1と闘気術レベル3を取得している。

また、加護の恩恵と基礎ステータス向上系のスキルにより、身体能力も高い。

特に腕力だ。

ガルハード杯本戦でも、その豪腕を活かして優勝を果たした。

俺と比べると、スピードでは俺に分がある一方で、パワーではミティに分がある。

総合力としてはミティのほうが少し上回っているぐらいだろう。


 モニカは、格闘術レベル4を取得している。

また、加護の恩恵と基礎ステータス向上系のスキルにより、身体能力も高い。

特に脚力だ。

彼女の強靭な脚から繰り出される技は、かなりの威力を誇る。

ブーケトスで披露した青空歩行という技のように、立体的な動きも得意としている。

ただし、闘気術は未習得だ。

今回のメルビン道場での鍛錬で、習得してもらえればかなりの戦力アップになる。


 そしてアイリス。

彼女は、格闘術レベル4、闘気術レベル4、聖闘気術レベル3を取得している。

もちろん、加護の恩恵と基礎ステータス向上系のスキルにより、身体能力も高い。

特に器用強化を重点的に伸ばしており、技量においては俺たちの中でもダントツだ。

また、俺たちの中で彼女だけが使える聖闘気という技術も強力だ。


 聖闘気は、聖気と闘気を組み合わせる高度な技術だ。

残念ながら、ステータス操作では取得できない。

ステータス操作に頼らずに取得する必要がある。

一度取得できれば、その後はステータス操作で強化していくことができるかもしれない。

アイリスに教わりながら習得を目指しているが、なかなか難しい。


 さて。

そんな、俺たちの中でもダントツの武闘戦闘能力を持つアイリスが、エドワード司祭と対峙する。


「久しぶりですね。アイリス君。元気そうで何よりです」


「エドワード司祭こそ、元気そうだね。聖ミリアリア統一教と聖闘気の普及は順調なの?」


「ええ。おかげさまで順調ですよ。それにしても、アイリス君はまた実力を上げたようですね」


「あ、わかる? かなり強くなったよ。ひょっとしたらエドワード司祭にも勝てるかもしれない」


 アイリスが得意気な顔でそう言う。


「それはそれは。大きく出ましたね」


「エドワード司祭に勝てれば、武闘神官見習いの卒業が見えてくる。それだけじゃなくて、ゆくゆくは聖女認定だって」


「ふふふ。大きな目標を持つことはいいことです。ただし、私はそう簡単に倒されるつもりはありませんよ。少し厳しいかもしれませんが、現実を教えてあげましょう」


「うん。エドワード司祭の力は知ってる。最初から全力でいくよ!」


「かかってきなさい!」


 エドワード司祭は受けの構えだ。

アイリスの様子をうかがっている。

まあ今回はアイリスの実力を見る目的だしな。

最初に彼から仕掛ける必要はない。


 アイリスが闘気を練り始める。

それに対応して、エドワード司祭も闘気を練り始める。

 

「「右手に闘気。左手に聖気」」


 アイリスとエドワード司祭。

2人がそれぞれ闘気を開放する。


「聖闘気、迅雷の型」


「聖闘気、守護の型」


 アイリスが発動したのは、迅雷の型だ。

彼女が持つ聖闘気の型のうちの1つである。

ガルハード杯の余興試合で彼女は俺と闘ったことがある。

そのときに彼女が使っていた型だ。

スピードが格段に向上する。


 エドワード司祭が発動したのは、守護の型だ。

ガルハード杯1回戦のマスクマン戦、2回戦のストラス戦。

それぞれで使っていた型だ。

防御力が格段に向上する。


 スピード対防御か。

見どころのある闘いになりそうだ。


 シュッ。

さっそく、アイリスが動いた。

目にも留まらぬ速度でエドワード司祭に接近する。


「迅・裂空脚!」


「む!」


 アイリスの超スピードに、エドワード司祭は何とか対応する。


「迅・砲撃連拳!」


 アイリスのパンチの連撃だ。

エドワード司祭が落ち着いて防ぐ。

ガードし切れなかった攻撃もあるが、彼の聖闘衣の前にほぼ無効化されているようだ。


「ふふふ。少し威力が足りないのではないですか? 私の聖闘衣を貫くには足りませんね」


「なら! さらにこっちも追加だよ! 聖闘気、豪の型」


 アイリスがそう言う。

スピード重視からパワー重視への切り替えか。


「豪の型ですか。パワーは増しますが、スピードが落ちます。回避してみせましょう」


 エドワードがそう言う。


 鈍重な魔物相手なら、豪の型で問題はない。

しかしエドワード司祭のような手練を相手に豪の型を使うのは、リスクが伴う。

彼が言うように、スピードが落ちるため回避されたり反撃されたりする危険性が増すのだ。


 アイリスは、リスクを覚悟で聖闘気の型を切り替えたということか。

……いや、待て。

あれは……。


「豪・裂空脚!」


「ぐうっ!?」


 アイリスの回し蹴りがエドワード司祭にヒットする。

彼女のスピードは落ちていない。

スピードを維持したまま、威力が上がっている。

エドワード司祭に確かなダメージを与えたようだ。


「まさか……。その年で複数の型を同時発動させるとは。かなりの才能と努力です」


「へへーん」


 アイリスがドヤ顔を披露する。

かつての彼女は、聖闘気の型を切り替えて闘っていた。

今の彼女は、複数の型を同時に発動できるようだ。


「調子に乗らないこと。確かに急成長は認めますが、世界はまだまだ広いですよ」


「なら! まずはエドワード司祭に勝って認めてもらう! いくよ!」


 アイリスが攻撃の構えをとる。

闘気を惜しみなく開放し、脚と腕を重点的に強化している。

短期決戦の心づもりのようだ。


 アイリスがエドワード司祭に駆け寄る。


「迅・砲撃連拳!」


「うう……」


 アイリスのパンチの連打がエドワード司祭を襲う。

彼が苦痛にうめく。


「豪・裂空脚!」


「ほブ!!」


 アイリスの強烈な回し蹴り。

エドワード司祭に確かなダメージを与えている。

そのはずだ。


「これでとどめ! はあああぁ! 豪・砲撃連拳!」


 アイリスの怒涛のパンチの連打だ。


「うおおおおおお! ああああああぁっ!」


 彼女が力の限り連打している。


「ああああああぁっ!」


 アイリスがさらにラッシュをかける。

少しやり過ぎのような気もする。


 聖闘気をまとった彼女の攻撃は高威力だ。

いかにエドワード司祭の防御が優れていようが、耐えきることは厳しい。

そのはずだ。


「はあ、はあ……」


 アイリスが体力と闘気を使い果たしたようだ。

息が上がっている。

体力強化をレベル2まで伸ばしている彼女の息がここまで上がるとは。

相当な運動量だ。


 対するエドワード司祭は……。

なんと、まだ立っている。


「はあ、はあ……。そ、そんな……。ボクの渾身の連撃が効かないなんて」


「いえ。効いていないわけではありませんよ。すばらしい攻撃でした」


 エドワード司祭がそう言う。

あまり効いているようには見えないが。


「アイリス君。お礼に、いいものを見せてあげましょう」


 エドワード司祭の聖闘気が高まっていく。

何やら大技を使うようだ。

見逃さないようにしないと。

俺は、彼を注意深く見……


「五光一閃!!!」


「!!!」


 速い。

気がついたら、アイリスがふっとばされていた。

彼女もほとんど反応できていなかったはず。

かなりの速度だ。


「う……」


 アイリスは戦闘不能となり、床に倒れる。


「これが、世界の広さです。心配は要りません。アイリス君の努力と才能なら、10年もしないうちにこの領域まで来れるでしょう」


 エドワード司祭がそう締めくくる。


「アイリス!」


 俺は駆け寄り、彼女に治療魔法をかける。


「……くそう。ボク、自信があったんだけどな……。まだまだ強くならないと……」


 アイリスがそう悔しがる。


 俺たちミリオンズの中で随一の武闘戦闘能力を持つアイリス。

そんな彼女でも、エドワード司祭には負けてしまった。


「ふう。タカシ君。私にも治療魔法をかけてくれないか? 自分では魔法が届かないところもあってね」


 エドワード司祭がそう言う。


「わかりました。すぐに」


 アイリスの治療が終わったので、エドワード司祭にも治療魔法をかける。


「ありがとう、タカシ君。それにしても、アイリス君の成長は想像以上でした。思わず、見せるつもりのなかった秘奥義まで見せてしまいました」


「でも、負けちゃったし……」


 アイリスがそうションボリする。


「いえ。アイリス君にはまだまだ伸びしろは残っています。迅雷の型と豪の型に加えて、他の型も練習してみましょう。ゆくゆくは、五光一閃も使えるようになるかもしれませんよ」


 エドワード司祭がアイリスにそう言う。


「わかったよ! じゃあ、さっそく鍛錬していこう。いろいろと教えてね!」


 アイリスが立ち直り、そう言う。

切り替えが早い。


「ま、待ってください。今日は無理です。アイリス君が想定以上に強くて、体力と闘気が残っていません。続きは明日以降にしましょう」


「えー。じゃあ、メルビン師範に頼むよ」


「わ、儂も無理じゃ! 今日は勘弁してくれ!」


 エドワード司祭に続き、メルビン師範もそう言う。

確かに、彼らは疲れているようだ。


 エドワード司祭は、アイリスとの熱戦があった。


 メルビン師範は、ニム、モニカ、俺、ミティの4連戦があった。

俺たちはそれなりに強い。

体力と闘気をたくさん消耗したことだろう。


「ちぇー。仕方ないかー」


「仕方ないよ、アイリス。……では、明日また伺います。よろしくお願いしますね」


 俺はそう言う。

俺たちは素直にメルビン道場を後にする。

明日からの鍛錬を楽しみにしつつ、その日は宿屋でゆっくりと休息した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る