192話 メルビン道場にて鍛錬

 メルビン道場に5人で入門して3日が経過した。

俺たちはメルビン師範により有意義な指導を受けている。

時おり、エドワード司祭も顔を出してくれている。


 俺とミティは、メルビン師範から剛拳流の指導を受けている。

ゆくゆくは、あの模擬試合で使っていた風林火山という技を教えてもらう予定だ。


 風林火山は、4つの型の総称だ。

疾きこと風の如し。

徐かなること林の如し。

侵掠すること火の如し。

動かざること山の如し。


 ”疾きこと風の如し”は、高速移動の型だ。

アイリスの”迅雷の型”やストラスの”鳴神”と方向性は似ている。

剛拳流との相性を考えると、こちらの習得を目指したほうがいいかもしれない。


 ”徐かなること林の如し”は、技巧系の型だ。

相手の攻撃をうまく受け流したりできる。


 ”侵掠すること火の如し”は、攻撃系の型だ。

剛拳流と特に相性がいいだろう。


 ”動かざること山の如し”は、防御系の型だ。

俺は、前回のガルハード杯の時点で、この”動かざること山の如し”だけは発動することができた。

とはいっても、さほど完成度は高くなかったが。

アイリスの聖闘気”迅雷の型”の猛攻に対して、何とか耐えることはできた。


 以上が風林火山の概要だ。

俺は風の型、ミティは火の型の習得を第一に目指している。


 アイリスは、聖ミリアリア流を磨いている。

メルビン師範からの指導のもと、剛拳流を適度に取り入れたりもしているようだ。

また、エドワード司祭もたまに顔を出してアイリスにアドバイスをしている。

聖闘気の新しい型の習得を目指すらしい。


 そして、モニカとニム。

彼女たちは、まずは闘気術の習得を第一に目指している。


 3日目の今日、まだ習得には至っていない。

今日も、メルビン師範の指導のもと、闘気術の鍛錬を行っている。


「いいか? 闘気術の発動にはイメージが大切だ! 体の丹田に闘気が溜まっているイメージだ! それをドバっと開放するのだ!」


 メルビン師範がそう説明する。

相変わらず、かなり抽象的な説明だ。

彼は、格闘術については丁寧に教えてくれるのだが。

闘気術はなかなか理論的に教えることが難しいらしい。


「えっと。すみません。ちょっとわからないです」


「そ、そうですね。わたしも……」


 モニカとニムが困り顔でそう言う。


「ううむ。こればっかりは、イメージをがんばって掴むしかないのだが。……タカシ! 先輩として何かアドバイスをしてやってくれ!」


「え? アドバイスですか?」


 突然振られても困る。

俺は少し考え込む。


「闘気は、常に体を巡っているものなのだ。その巡っている闘気を、まずはガッとせき止める。ギュッと圧縮し、強化したい部位までググッと運んでくるんだ」


 われながら何というアホな説明なんだ。

ミティに風魔法の指導をしたときのことを思い出す。

俺には人に教える才能がないようだ。


「ガッとして、ギュッとして、最後にググッとねえ……」


「よ、よくわからないです。もう少し具体的な説明をいただけるとありがたいのですが……」


 案の定、モニカとニムからの反応もイマイチだ。


「具体的な説明か……」


「はい。何かないでしょうか? 闘気術の理論とか」


「ぜんぜんわからない。俺たちは雰囲気で闘気術を使っている」


 うん。

こうとしか言いようがない。


「え。ええー……」


「そ、そうですか……」


 モニカとニムが呆れ顔でこちらを見てくる。

ジト目だ。

その目はやめてくれ。

癖になったらどうする。


 その目で見られながら踏んでもらいたい気もする。

今度頼んでみようか。

……いや、さすがにやめておこう。

彼女たちからの好感度が下がる気がする。


「私も初めて発動に成功するまでは、苦労しました。諦めずにがんばりましょう!」


「そうだよ。ボクも苦労したものだよ。めげないで!」


 ミティとアイリスが2人をそう励ます。


「……うん! 何とかがんばってみるね」


「わ、わたしも精一杯がんばります!」


 モニカとニムが気を取り直してそう言う。


「うむ! その意気じゃ! では、今度はこの方法を試してみるぞ!」


 メルビン師範がそう言って、木製の皿を取り出す。


 師範が空気椅子の姿勢になる。

自身の左右の膝と頭の上に木製の皿をのせる。

さらに、腕を前方に伸ばし、腕の上に皿をのせた。


 少し脚がプルプルしているが、見事にバランスを取っている。

師範が目をつむる。

その姿勢を数十秒維持し続ける。


 俺とミティも以前同じような鍛錬をしたことがある。

カンフー映画とかで見たことがあるような修行風景だ。

本当に効果があるのか怪しいところだが。


 メルビン師範が目をあける。

皿を取りつつ姿勢を戻す。


「こんな感じだ! 下半身、頭、腕のバランスを取りつつ、筋力もそれなりに必要なトレーニングだ! 集中力を高めつつ、それでいて筋肉にも適度に力を入れるのがポイントだ! これをしばらくやってみろ!」


 メルビン師範がそう言う。


「え? これをやるの?」


「か、変わった鍛錬ですね。やってみましょう」


 モニカとニムも半信半疑の様子だ。

俺も同じ思いだよ。


 とはいえ、師範がこう言っていることだし、ダメ元でも試していくしかないだろう。

モニカとニムは、無事に闘気術を習得できるのだろうか。

彼女たちの修行はまだ始まったばかりだ!

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