181話 ダディ、マティとの別れ ラーグの街へ帰還

 ガロル村での別れのあいさつ回りの続きを行う。

次のあいさつが最後だ。

ミティの両親であるダディとマティに、別れのあいさつをしよう。


 ダディ宅に向かう。

ダディとマティに話しかける。


「ダディさん。マティさん。そろそろ、この村を出ようと思います」


「そうか……。さみしくなるな」


 ダディがそうしんみりとした顔をする。


「いつでもまた来てくださいね。とは言っても、気軽には来れないでしょうけど。ラーグの街からは遠いでしょうし……」


「その件ですが……。非常に内密の話があります。秘密を守っていただけますか?」


 俺は声を潜めてそう言う。


「ふむ? もちろん、ミティの夫となったタカシ君がそう言うのであれば、無闇に秘密とやらを広げたりはしないが」


「私も秘密は守りますわ」


 ダディとマティがそう言う。


「転移魔法というものをご存知でしょうか? 俺は、その転移魔法を使うことができます」


 ダディとマティが驚いた顔をする。


「転移魔法……。確か、相当希少な魔法のはずだ。本当に使えるのかね?」


「ええ。転移魔法陣を描いておくことによって、転移魔法陣同士で転移することができるようになります。ラーグの街にある俺の自宅にも描いてあります」


「にわかには信じがたいですが……。タカシ君が嘘をつく必要もないものね」


「そうだよ。タカシ様は、本当にすごい人なんだから」


 マティの言葉を受けて、ミティが少しドヤ顔でそう言う。


「勝手ながら、ミティさんの部屋に転移魔法陣を設置させていただきました。これで、ラーグの街からここまで気軽に来れるようになりました。まあ、さすがに毎週のようには来れないでしょうが」


 転移には、MPを大量に消費するからな。

転移する日は、冒険者活動を休みにせざるを得ない。

あまり頻繁に里帰りし過ぎると、本業の冒険者活動がおろそかになる。


「わかった。ミティといっしょにこの村に来てくれるのを楽しみにしているよ」


「そうね。それに、孫の顔を見るのが楽しみだわ。ミティ、がんばってね。アイリスちゃん、モニカちゃん、ニムちゃんとも仲良くするのよ」


「うん! がんばる!」


 ダディとマティの言葉に、ミティがそう答える。


 彼らの孫。

つまり、俺とミティの子どもだ。

俺とミティは、することはしている。

いつミティが妊娠してもおかしくない。


 冒険者との兼ね合い上、避妊しておくという選択肢もある。

この世界にも、おそらく避妊具はあるだろうし。


 とはいえ、世界滅亡の危機は30年後だ。

そう一刻を争うわけではない。

子どもの1人や2人ぐらいは、問題はないだろう。


 いくら世界滅亡の危機を回避するためとはいえ、あんまり自分たちの生活を犠牲にし過ぎるのもな。

途中で自己犠牲に嫌気が差して、ミッションを放棄することにもなりかねない。

俺の精神力では、無理すると少なくない確率でそうなってしまうだろう。

子どもがほしいという自分の感情に素直になることが、結局は世界滅亡の危機の回避につながっていくのだ。


 え?

自分に甘すぎる?

仕方ないだろ。

俺の精神力の低さをなめてもらっては困る。


 いや。

何も、自分の欲望に忠実なだけではない。

子どもをつくるメリットもいくつか考えられるのだ。


 まずは、チートの件だ。

異世界人の俺の子どもだからな。

何らかのチートスキルを受け継いだり発現したりするかもしれない。


 もしそうはならなかったとしても、今度は俺の加護付与の対象になる可能性もある。

加護付与には、忠義度が50以上必要だ。

忠義度とはいいつつも、実際には友好度や親愛度と置き換えても大きな齟齬はない。


 これまでの傾向上、マリアやニムなど幼い子どものほうが忠義度が上昇するスピードは速かった。

それが幼児、ましてや自分自身の子どもとなればどうか。

もしかすると、生まれた瞬間から加護付与の条件を満たす可能性すらある。


 まあ、乳幼児に加護を付与したところで、もちろん戦闘などはできないだろうが。

10年もすれば、立派な一大戦力に成長してくれる可能性がある。

これは大きい。


 もちろん、チートスキルを受け継がず、加護付与の対象にならなくとも、自分の子どもだ。

めいいっぱいの愛情を注ぐつもりではあるが。


「ミティが妊娠したら、すぐに報告にきます。……それでは、お元気で」


「ああ、くれぐれも体には気をつけてな」


 ダディたちと最後のあいさつを済ませる。

ミティの部屋に移動する。


「では、まずは俺、モニカ、ニムの3人でラーグの街に転移する。ミティとアイリスはもう少しこの村でゆっくりしておいてくれ」


「わかりました」


「わかった」


 俺の言葉に、ミティとアイリスがそう返事をする。


 俺、モニカ、ニム。

3人で転移魔法陣の上に立つ。

転移の呪文の詠唱を開始する。


「……テレポート」


 …………。

視界が切り替わる。

無事に転移できたようだ。


 ラーグの街の自宅の一室に転移した。


「へえ。本当にラーグの街まで転移したんだね。信じてなかったわけじゃないけど」


「そ、そうですね。改めて、すごい魔法です」


 モニカとニムがそう言う。

彼女たち本人が実際に転移するのは、今回ぎ初めてだ。


「ああ。本当に便利な魔法だ。その分、不用意に情報を広めないようにな。もう少し実力が付けば、公表するかもしれないが」


 転移魔法陣は、かなり希少な魔法らしい。

公表すれば金や名声は集まるかもしれない。

しかし、権力争いなどに巻き込まれる可能性もある。

自分自身やパーティの実力がもう少し付くまでは、できるだけ公表しない方針がいいだろう。


「わかった。気をつけるね」


「わ、わかりました」


 モニカとニムがそう言う。

その日は、モニカとニムは俺の家に泊まった。

ちょっとしたハプニングもあったが、それはまた別の話としておこう。



 翌朝、俺1人でガロル村のミティの部屋に転移する。

ミティ、アイリスと合流する。

MPの自然回復のため、ダディ宅でゆっくりさせてもらう。

そしてその日の夜、ダディとマティに改めて別れのあいさつをして、ラーグの街へ帰還した。


 俺、ミティ、アイリス、モニカ、ニム。

これで5人全員がラーグの街に無事に帰還したことになる。


 今回のガロル村への遠征では、得るものがたくさんあった。

”ガロル村を訪れよう”というミッションを達成したことによる、スキルポイントの入手とスキル強化。

ミティと両親の再会、関係の修復。

ミドルベアや霧蛇竜ヘルザムを討伐したことによる、俺たちのレベルアップとスキル強化。

ミティの奴隷身分からの解放。


 俺の特別表彰制度への推薦。

ミティ、アイリス、モニカ、ニムのそれぞれのランクアップ。

ミリオンズのCランク昇格への推薦。

各種魔物の討伐報酬と買取報酬。


 ミティの鍛冶術レベル5による新しい装備の入手。

ミティとカトレアの関係の修復。

マインたちのおいしい餅の入手。

マクセルたち疾風迅雷の面々との友好関係の構築。


 そして何より、俺とミティとの結婚だ。

彼女を精一杯幸せにしていかないといけない。

気を引き締めて、ラーグの街を拠点にした冒険者活動を再開していこう。

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