176話 結婚式二次会

 結婚式は無事に終わった。

次は二次会だ。

会場は村の食堂。


 主役はもちろん俺とミティ。

他の参加者は、アイリス、モニカ、ニム。

ダディ、マティ、カトレア。

マクセル、ストラス、セリナ、カイル、レベッカ。

あとは、村長や村の人たちも何人か参加している。


 俺は開会のあいさつのために、立ち上がる。

みんながこちらを見る。


「えー。みなさまにご協力いただきまして、無事に結婚式を終えることができました。これから、ミティと力を合わせて幸せな家庭を築いていきたいと思います。私たち2人からみなさまへの感謝を込め、僭越ながら乾杯の音頭をとらせていただきたいと思います。みなさま、ご唱和ください。……乾杯!」


「「「「乾杯!」」」


 みんなで乾杯をする。

それぞれ、好きに飲み食いを始める。

俺もさっそく食べ始めよう。

豪快なドワーフ料理がたくさん並んでいる。


 おいしい料理を食べ進めつつ、近くの席の人たちと雑談をする。

また、他のテーブルでも、それぞれ話がはずんでいるようだ。



 ミティの父親であるダディは、村長や村のおっさんたちといっしょに酒を飲んでいる。


「いやー。ダディさん。ミティちゃんはいい男を見つけましたなあ」


「ええ。おかげさまで。彼ならミティを幸せにしてくれるでしょう」


 村長の言葉を受けて、ダディが満足気にそう答える。

俺は彼らから一定程度の評価をされているようだ。

素直にうれしい。


「ミティちゃんも、隠れた鍛冶の才能を開花させたようですし。順風満帆ですな」


「本当にな。俺もミティちゃんの鍛冶は見たぜ。見事な腕前だった」


「俺も見た。せがれを突っついていたのだが、まさか既にいい男を見つけていたとはなあ!」


「ガハハハハ!」


 何やら盛り上がっている。

彼らの息子には、ミティを狙っていた者もいるようだ。

だがもう遅い。

ミティは俺の妻だ。


 霧蛇竜ヘルザムの精神汚染がなくなった今、ダディと村のおっさんたちの間に隔意はなさそうか。

一安心だ。



 また別の席。

アイリス、レベッカ、カイル、マクセル、カトレアが同席している。


「……それにしても、ブーケトスは惜しかったな。あと一歩で取れたのにな」


 アイリスが残念そうにそう言う。


「そうね。私も取りたかったのだけど……」


「レベッカは取る必要ねえよ。そんなのなくても、俺が幸せにしてやるぜ!」


 レベッカの言葉に、カイルがそう答える。


「……うん! ありがとう。えへへ」

 

 レベッカがうれしそうにそう言う。

やはりカイルとレベッカはできているようだ。

桃色空間をつくりだしている。


 アイリスとマクセルがそれを冷めた目で見ている。

カトレアは少し何とも言えない微妙な顔をしている。


「それはそれとして。カトレアさんの身のこなしもなかなかのものだったね。何か戦闘訓練の経験が?」


 マクセルがいちゃつくカイルたちをスルーして、カトレアにそう問う。

確かに、ブーケ争奪戦におけるカトレアの動きはかなりのものだった。


「一応、村の経験者から一通りの武闘は教わっていますわ。初歩レベルですが……」


 やはり、まったくのド素人というわけではなかったわけか。

淑女相撲大会でも決勝まで残っていたしな。


「へえ。なるほどね……」


 マクセルが意味深な視線でカトレアを見る。

彼らの話題は、また別のものに切り替わっていった。



 また別の席。

マティ、モニカ、ニム、村の女性陣が同席している。


「モニカちゃん。ニムちゃん。ミティのことをお願いね」


 マティがそう言う。


「任せてください。とはいっても、冒険者としてはミティさんのほうが先輩ですが……。私はいつも助けてもらっています」


「わ、わたしもです。ミティさんは優しくて頼りがいがあります」


「まあ、そうなの。そう言ってくれてうれしいわ」


 モニカとニムの言葉に、マティがうれしそうにそう言う。


「あの子は小さい頃から肉料理が好きでね。昔、こういうことがあって……」


 マティがミティの昔話を始める。


「へえ、そうなんですか。私はもともとは料理人でした。今後、ミティさんにおいしい肉料理を振る舞っていくと約束します」


「よろしくお願いね。でも、放っておくとお肉ばかり食べちゃうから注意してね。たまにはお野菜も食べなさいと言ってきたのだけど」


 モニカの言葉に、マティがそう答える。

俺も幼少期に母ちゃんから似たようなことを言われて育った。

肉ばかりじゃなくて野菜も食べなさいってな。

何だかミティには親近感を覚える。


「で、ではわたしの畑でとれたお野菜を食べてもらいます。わたしはもともとは栽培の仕事をしていたので」


「まあ。小さいのに偉いわねえ。モニカちゃんとニムちゃんがいてくれるなら、あの子も安心ね。アイリスちゃんもいるし、タカシ君もいい人だし」


 ニムの言葉に、マティがそう答える。

マティとアイリスは、ボフォイの街への行き帰りの馬車上で、ある程度の会話をしていた。

アイリスの人となりは知ってくれている。

マティの期待を裏切らないよう、俺もがんばらないといけない。



 そして俺の席。

俺、ミティ、ストラス、セリナが同席している。

雑談しつつ飲み食いを進めている。


 モニカのあの新技”青空歩行-スカイウォーク-”の話もした。

俺と別行動しているときの合同訓練で、あの技を練習していたそうだ。

アイリス、モニカ、ストラス、セリナあたりが練習していたらしい。

実戦(?)で、モニカが初の成功を収めたというわけだ。


 そんなことを話しつつ、おいしい料理を堪能していく。

その後も、他愛のない雑談を楽しむ。

しかし、いつの間にか。


「お、おい。セリナ。飲みすぎだぜ」


「うぃー。まだまだ飲み足りないの。追加を持ってこいなの」


 泥酔したセリナに、ストラスが心配顔でそう言う。

セリナは酒豪のようだ。

いや、酔っ払っているから酒豪とは少し違うか。


 セリナが追加の酒を自分のグラスに注ぐ。


「ひっく。うぃー」


「ダ、ダメだ。これ以上は飲むな」


 ストラスが本格的にセリナを制止する。


「うぃー。じゃあストラス君がこれを飲むの」


 セリナが彼女のグラスをストラスに押し付ける。


「え? いや、それは……」


 ストラスが躊躇している。

彼は酒が苦手なのか?

先ほどまでは普通に自分のグラスで飲んでいたように思ったが。


 ……いや。

あれか。

間接キスを気にしているのか。

中学生並の純情さだ。


「うぃー。自分の酒が飲めないなの? いいから飲むの」


「うっ。ゴボゴボ」


 セリナによる酒の強要。

アルコールハラスメント。

いわゆるアルハラだ。


 本当は俺みたいな第三者が止めるべきなんだろうが、俺は止めない。

なぜなら見ていて面白いからだ!

万が一急性アルコール中毒にでもなったら、治療魔法をかけてやろう。

それに、ストラスも照れているだけで嫌がっているわけではないように見えるしな。


 ミティが小声で俺に話しかけてくる。


「(ストラスさんとセリナさん。早くくっつけばいいと思うのですが)」


「(確かにな。しかし、2人ともこういうことには奥手なんだろう)」


 セリナの母、六天衆のセルマもそんな感じのことを言っていた。

セリナは訓練ばかりで色恋沙汰には無縁だったと。


 セリナは、お酒の力を借りてストラスにアプローチしているのだろう。

まあ、単純に酔っ払って絡んでいるだけかもしれないが。


「(そうなんですか)」


「(彼らには彼らの。俺たちには俺たちのペースがある。自分たちのペースでゆっくり歩んでいこうな)」


 俺は隣に座るミティと手を重ねる。


「(……はい!)」


 ミティは幸せそうな笑みで、それに答えてくれた。



 その後も二次会の時間は進んでいく。

時おり席を入れ替わったりして、いろいろな人と会話した。

そろそろ終わりの時間だ。


「皆様、そろそろお開きのお時間です。ここらで二次会は終了とさせて頂きます。本日はありがとうございました」


 俺のあいさつを受けて、みんなが帰り支度を始める。

ミリオンズのみんながこちらに集まる。


「みんな。かなり飲んでいたみたいだが、だいじょうぶか?」


「私はだいじょうぶです」


 ミティは全然平気そうだ。

彼女はかなり酒に強い。


「ボクもだいじょうぶだよー」


 アイリスは少し酔っているぐらいだ。

聖ミリアリア統一教は、さほど戒律に厳しくない。

彼女は普段からたまに酒を飲んでいる。


「私はお酒はあんまり好きじゃないんだよね」


 モニカはさほど飲んでいないようだ。


「わ、わたしも、よってないれふ」


 ニムは酔っているな。

彼女が座っていた席に、空の酒瓶がいくつも転がっている。


 いまさらだが、まだ子どもなのに飲んでもいいのか?

まあ祝いの席だし多少はいいのだろうが。

ちょっと飲みすぎだな。


 少し離れたところでは、疾風迅雷の面々が帰り支度を整えている。


「うぃー。ひっく。自分は酔ってないの」


 セリナが千鳥足で店の出口へと向かう。

フラフラと歩みを進め、壁に激突した。

何やってんだ。


「ううー。痛いの……」


 セリナが鼻を押さえる。


「ちっ。仕方のねえやつだな。おら、おんぶしてやるよ」


「あ、ありがとうなの……」


 ストラスがセリナを背中にのせて、歩いていく。

ストラスはぶっきらぼうだが、セリナを憎からず思っているのがわかる。

そのうちくっつくだろうな。


 自分が幸せだと、他人の幸せも素直に喜べる。

俺は幸せな気分で、宿屋への帰路についた。

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