170話 ガロル村への道中

 冒険者ギルドへの報告と、餅つき大会が終わった。

ダディ、マティと合流する。


 諸々のちょっとした用事を済ませ、ガロル村へ向けて出発する。

俺、ミティ、アイリス、モニカ、ニム。

ダディ、マティ。

マイン、マーシー、フィル。

マクセル、ストラス、セリナ、カイル、レベッカ。

総勢15名の大所帯だ。


 マクセルたちは俺とミティの結婚式に参加するために同行している。

詰めれば何とか同じ馬車に乗れた。


 御者はダディとマティ。

馬車の座席の前のほうには、アイリス、マイン、マーシー、フィル。

真ん中あたりには、マクセル、カイル、レベッカ、ニム。

後ろのほうには、セリナ、ストラス、俺、モニカ、ミティが座っている。


 少し狭いが、我慢するしかない。

アイリスは行きと同じく、御者のやり方をダディたちに教わっている。


「いいかい。アイリスちゃん。馬を操るには、馬の気持ちを理解することが大切だと教えたね。次の段階として……」


「ふむふむ」


 アイリスがダディの説明を熱心に聞いている。


「しばらくは見て感じてくれ。途中で、アイリスちゃんが実際に手綱を引いてみようか」


「ありがとう。よろしくお願いするよ」


 アイリスが御者をできるようになれば、俺たち専用の馬車の購入を検討してもいいかもしれない。

毎回毎回、都合よく目的地へ向かう護衛依頼があるとも限らないからな。


 乗り合いの馬車を利用してもいいが、できれば俺たちミリオンズだけで移動したい。

ステータス操作やミッションの話をすることもあるだろうしな。


 そういえば、御者に関するスキルはないのだろうか。

改めてステータス操作の欄を探してみる。


 取得可能なスキルは、一通り目は通しているが、なにせ数が多い。

どうしても見落としはある。

また、特定条件を満たすことで追加されるスキルもあるようだしな。

今回のように、必要に応じて改めて探す機会は今後もあるだろう。


 えーと。

御者に関するスキルか。

あるとすれば、御者術とかかな。

御者術、御者術……。

ないな。


 いや。

操馬術というスキルがあった。

これなら、文字通り馬を操ることができそうだ。


 いざ必要となれば、このスキルを取得してみるのもいいだろう。

今急いでアイリスのステータスを操作する必要はない。

彼女自身や他のメンバーとの相談が必要だ。

まだ馬車の入手は先の話になるだろうし。

今回のダディからの指導で、スキルポイントを消費せずに操馬術を取得できれば理想的だ。


 俺はそんなことを考えつつ、馬車に揺られる。

馬車は順調にガロル村への道を進んでいく。


 しばらくして、俺の左隣に座っているストラスとセリナがガサゴソし始めた。


「狭いの……。もっと詰めてなの。ストラス君」


「ムチャ言うな! こっちもギリギリだよ!」


 セリナが隣に座るストラスの体をぐいぐい押している。

席順は、セリナ、ストラス、俺、モニカ、ミティだ。

狭いのは我慢してくれ。


 セリナの勢いに押され、ストラスが体を引く。

ストラスにより、俺の体が押される。

俺がバランスを崩し、上半身がよろける。


 むにゅん。

俺が体を支えようと出した手が、何か柔らかいものを掴む。


「きゃっ!」


「……ん? この感触は……?」


 むにゅんむにゅん。

いい感触だ。

俺の手が何を掴んでいるのか、確認する。


 胸だ。

さらに視線を上げると、モニカの顔があった。

顔が真っ赤になっている。


「や、やめてよ。そういうことはまだ早いよ……」


「うっ。す、すまん」


 てっきり、平手打ちでもされるかと思った。

むしろ、そうしてくれたほうが良かったかもしれない。

こう、しおらしく対応されると、罪悪感が……。


 ダディとマティに見つからなかったのは良かった。

彼らは御者をしているからな。

後ろの席のゴタゴタに気づいていないようだ。

ミティとの結婚式を控えている今、他の女性に手を出すのはマズい。


 チラッ。

モニカの隣のミティの顔色をうかがう。

どうやら、極端に気分を害したりはしていないようだ。


 まあこれは事故だしな。

意図的なものではない。

浮気ではない。

許してくれ。


「ヒューヒュー! お熱いっすね! ミティの姉御に加えて、2人目とは! さすがはタカシの兄御!」


「言っちゃ悪いよ、カイル。暖かく見守ろう」


 カイルとレベッカがそう言う。

結婚式が控えているこのタイミングでそのいじり方はやめろ。


 俺はカイルたちとあまりしゃべったことがなかったが、いつの間にか兄御認定をされていた。

まあ俺は潜入作戦で活躍したし、その功績でCランクになったしな。

カイルたちの中では、俺はマクセルやストラスあたりと同格の扱いとなっているのかもしれない。


 カイルとレベッカは仲良く隣同士に座っている。

少し体の密着度が高い気がする。

君たちはそういう関係だったのか。


 戦闘能力は彼らより俺のほうが上だろう。

しかし、色恋沙汰の経験値は彼らに分がありそうだ。


「馬車の上でイチャつくのはやめなよ……。ストラス、タカシ、カイル……」


 マクセルが呆れた顔でそう言う。

ストラスとセリナ。

俺とモニカ。

カイルとレベッカ。

この狭い馬車の上で、3組もイチャついていると、さぞ鬱陶しいことだろう。


「だから、俺とセリナはそんなんじゃねえよ!」


 ストラスが顔を赤くして何やら喚いている。

しかし、もはやだれも彼の言葉を真に受けない。

彼がセリナとくっつくのも時間の問題だろう。

ストラスもセリナも、口には出さないが態度には出ている。


 そんなやり取りをしつつも、馬車はガロル村への道を順調に進んでいく。

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