166話 冒険者ギルドに報告 ギルドマスターと手合わせ

 ミティを奴隷身分から解放し、プロポーズをした日は、ボフォイの街で一泊した。

その翌日。

今日は、この街からガロル村に戻る予定だ。

ミティとの結婚式をガロル村で行うことになったのだ。


 その前に、冒険者ギルドに寄っておく。

ガロル村には冒険者ギルドがないからな。

早めに、ミドルベアと霧蛇竜ヘルザムの報告をしておきたい。


 俺、ミティ、アイリス、モニカ、ニム。

5人で冒険者ギルドに入る。

ダディ、マティ、マイン、マーシー、フィルとは別行動だ。

受付嬢に話しかける。


「すいません。魔物の討伐報告を行いたいのですが」


「かしこまりました。何か依頼を受けての討伐ですか?」


「いえ。そういうわけではありません。ガロル村で、手強い魔物を討伐しましたので」


「手強い魔物? リトルベアでしょうか? 最近、目撃頻度が上がっているのですよね」


 受付嬢がそう言う。

やはり、リトルベアの数は増加傾向だったようだ。

リトルベアの群れが大きくなると、突然変異でリーダーが成長してミドルベアとなるらしいからな。


「討伐したのは、ミドルベアとヘルザムです」


「ミ、ミドルベア!? ミドルベアが出現したのですか!? 急いで討伐隊を編成しないと……」


 受付嬢が慌てる。


「いえ、ですから討伐済みです。ギルドカードの確認をお願いします」


 俺たちのギルドカードを受付嬢に渡す。


「は、拝見します」


 受付嬢が落ち着きを何とか取り戻す。

まずは俺のギルドカードを魔道具にはめ込み、討伐履歴を確認する。


「ゴブリン、リトルベア、リトルベア、ゴブリン、リトルベア、ミドルベア、ヘルザム、ゴブリン……」


 受付嬢が討伐履歴を読み上げていく。

続いて、ミティたちのギルドカードも確認していく。


 ヘルザムの討伐履歴が付いているのはなぜだろう?

聖魔法で撃退しただけで、討伐には至らなかったはずだが。

逃げた先でそのまま弱って死んだのだろうか。


「た、確かにミドルベアを討伐されていますね。他のパーティの方は?」


「ボクたち5人で倒したよ」


 受付嬢の問いに、アイリスがそう答える。


「ほ、本当ですか? 虚偽の申告は罰則があります。本当に5人で討伐されたということで間違いありませんね?」


 受付嬢が念を押してくる。

やや失礼な物言いのような気もするが、仕方ないか。

Dランクパーティがミドルベアを倒すのはかなりめずらしいのだろう。

Dランクパーティは、普通であればリトルベアですら倒せるか微妙なところだからな。


「はい。間違いありません」


 俺はそう断言する。

あ。

そういえば、通りすがりの人からの援護もあったか。

手裏剣状の飛び道具による援護だ。


 ……まあ、あれは少し援護されただけだし、ノーカウントでいいか。

5人で討伐したと言っても過言ではないだろう。


「わかりました。では、そう処理しておきます。あとは……ヘルザム? 聞いたことがない魔物ですね」


 受付嬢が首をかしげる。


「えーと。なんだっけ。霧蛇竜ヘルザムだよな。どこかからやってきたとかいう……」


「外界からだね。5大災厄の1つだったはずだけど」


 俺の言葉に、アイリスが補足する。


「しょ、少々お待ちください!」


 アイリスの言葉を聞いて、受付嬢が驚いた顔をする。

彼女が奥に引っ込む。

しばらくして、大柄の男を連れて戻ってきた。


「ふむ。お前さんたちか。ミドルベアとヘルザムを討伐したという冒険者は」


「はい。俺たちはミリオンズというパーティで活動しています。俺はリーダーのタカシです」


「俺はここの冒険者ギルドのギルドマスターをやっている。ベイグという者だ」


 ギルドマスターのお出ましか。


 ベイグが俺たちのギルドカードを改めて魔道具にはめ込む。

討伐履歴に目を通す。


「ふむ。討伐履歴は確かにそうなっているな。それに、タカシ、ミティ、アイリス。この3人の名は聞き覚えがある。ゾルフ砦方面で活躍したやつらだな。テスタのやつからそう報告があった」


 やはり、ギルドマスターともなれば、他の街の情報も入ってくるようだ。

テスタというのは、おそらくゾルフ砦の冒険者ギルドのマスターである、テスタロッサのことだろう。

手紙か何かで、情報のやり取りがされているようだ。


「成長著しいこの3人を含む5人パーティであれば、ミドルベアの討伐もあながち虚偽というわけでもあるまい。……しかし、ヘルザムはどうやって討伐したんだ?」


「俺とこちらのアイリスの合同で聖魔法を発動しました」


「なるほど。アイリスは武闘神官見習いか。聖魔法の使い手が2人いれば、弱めの個体であればヘルザムも倒せるか」


「しかし、俺たちの聖魔法では討伐には至らず、逃げられてしまったはずなのですが」


「ふむ? ギルドカードの履歴では討伐の記録があるが……。おそらく、ヘルザムが逃げた先でそのまま衰弱して死んだのだろう。もしくは、他の魔物に襲われてとどめを刺されたか」


 ベイグがそう言う。


「そういった場合でも、討伐履歴は残るのでしょうか?」


「ああ。それまでに一定以上のダメージを与えていたらな。まあ、詳しい理屈は俺もよく知らないが」


 ギルドマスターでもギルドカードの仕組みを把握していないのか。

まあ、現代日本でも、パソコンやスマホなどの仕組みを理解して使っている人などほとんどいないだろう。

それと同じようなイメージか。

ギルドカードは非常に便利な機能があるが、その仕組を理解しているのはほんの一握りの技術者だけというわけだ。


「……よし。ミドルベアとヘルザムの討伐の件、このベイグの名で承認してやろう」


 ベイグが少し考え込んだ末に、そう言う。


「ありがとうございます。よろしくお願いします」


「ただし、1つ条件がある。俺と剣で手合わせをしてもらおう。結果次第では、さらなる便宜を図ってやる」


 ベイグがそう提案する。


 さらなる便宜か。

ミドルベアとヘルザムの討伐が無事に認められた時点で、とりあえずは良しとしていいだろう。

報酬やランクアップ査定に期待できる。

ただ、可能であればさらなる便宜とやらも欲しいところだ。


「わかりました。ぜひお手合わせ願います」


 俺はそう返答する。



 ベイグに案内され、ギルドの修練場に向かう。

そういえば、剣での対人戦は初めてだな。


 ベイグから木剣を渡される。

1対1でにらみ合い、間合いをはかる。


「いくぞ。……うらぁ!」


 ベイグが木剣で攻撃してくる。

俺はそれを木剣で受け、いなす。


「お返しです。……せぃっ!」


 俺は木剣を振り下ろす。

俺は、剣術レベル4、腕力強化レベル1、肉体強化レベル3などを取得している。

チートの恩恵を多大に受けている。

さらに、短期間とはいえ、氷炎魔剣流の準師範であるビスカチオの指導も受けている。

そんじょそこらの奴に負けるつもりはない。


「ほう。なかなかやるな。Cランクというのは伊達ではないか」


「まだまだ! 鳴神-ナルカミ-」


 俺は鳴神を使う。

ガルハード杯で兎獣人のストラスが使っていた高速の移動技だ。

鳴神で翻弄しつつ、木剣で攻撃を加えていく。


「ぐっ。かなりのスピードだな」


 ベイグがたじろいでいる。

俺は少しずつベイグに有効打を与えていく。


 次でとどめだ。

少し距離をとり、集中する。


「斬魔一刀流……火炎斬!」


 剣に炎をまとわせて斬りつける技だ。


「……あ」


 しまった。

今使っている剣は、いつもの紅剣クリムではない。


 木剣が消炭になる。

俺の得物がなくなってしまった。


「隙あり!」


 防ぐ術のない俺は、ベイグにあっさりと倒されてしまった。

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