165話 ミティの奴隷身分解放とプロポーズ

 ときに魔物を倒したり、ときに雑談したり。

なんだかんだあったが、無事に隣街に着いた。

ボフォイの街だ。


 マイン、マーシー、フィルと一旦別れる。

彼女たちは餅の販売へ向かった。


 俺たちは、ベネフィット商会支部に向かう。

俺、ミティ、アイリス、モニカ、ニム。

それにダディとマティだ。


「ここがベネフィット商会支部だ。処理は俺に任せてくれ」


 ダディがそう言う。


 ダディが商会の職員に話しかける。

彼が中心となり、ミティの奴隷契約の解除の段取りを進めていく。

俺もその横で説明を聞いておく。


 俺がラーグ奴隷商会に金貨200枚の借金を負っていることは、ここの支部にもしっかりと情報共有されているようだ。

この場で金貨200枚をベネフィット商会支部に支払えば、その金がラーグ奴隷商会に支払われるらしい。


 そして、借金を完済さえすれば、奴隷契約を解除するか維持するかは主人の意向次第となるそうだ。

主人、つまり俺だ。

もちろん、ミティやダディたちとも相談してある通り、これを機に奴隷契約は解除する。


 ダディが金貨200枚を商会の店員に渡す。

これで俺の借金は完済されたことになる。


 続けて、ローブを着た老人がやってくる。


「これより、奴隷契約を解除する。首輪に血を垂らすのだ」


 ローブを着た老人がそう言う。

奴隷契約を結ぶときにも、同じように首輪に血を垂らした。

なつかしい。


 あのときは血や痛みに慣れていなかったため、指に針を突くだけでも怖かった。

今は、血や痛みに多少の耐性ができた。

治療魔法もあるしな。

針で指を突くぐらい、何ともない。

……何ともない。


「どうしたの? タカシ。震えてるよ」


 針を手に固まっている俺を見て、アイリスがそう言う。

何ともないと言ったな。

あれは嘘だ。


「いや。自分で自分の指に針を突くのは、どうしても慣れなくてな」


「しょうがないなー。ボクが手伝ってあげるよ」


 アイリスがそう言って、左手で俺の手を取る。


「何を……?」


「えいっ」


 プスっ。

アイリスが右手で針を持ち、俺の指に刺す。


「ぎゃああああ!」


 俺は思わず悲鳴を上げる。


「ちょ、ちょっと! アイリスさん!」


 ミティがアイリスに文句を言う。


「大げさだなー、2人とも。……はいっ。これでオーケーだよ」


 アイリスが俺の手をミティの首輪に近づけ、血を垂らす。

首輪が発光する。

ローブの老人がミティの首輪を外す。


「これにて、奴隷契約は解除された」


 ローブの老人はそう言って、さっさと部屋から出ていった。


「よ、よし。アイリスの不意打ちには驚いたが、手早く済んだし良しとしておこう。ありがとう」


 俺はアイリスにそうお礼を言う。

指に針を刺すぐらいのことで時間をとっていても仕方ないしな。


 残った店員が話しかけてくる。


「タカシ殿。こちらが、借金の完済証明書となっております」


 店員から書類を受け取る。

重厚感のある特殊な紙だ。


 内容を読む。

俺が借金を完済したことが書かれている。

ベネフィット商会支部の印鑑も押してある。


 俺が借金をしているのは、ラーグ奴隷商会に対してだ。

このベネフィット商会支部は、本来は関係がないようにも思える。

だが実際は、ラーグ奴隷商会はベネフィット商会の下部組織のような位置づけらしい。

今回の奴隷解放の手順については、法的にも商慣習的にも何ら問題はないようだ。


「確認しました。では、私たちはこれで失礼します」


 店員に別れを告げ、ベネフィット商会支部を後にする。

少し人通りが少ない場所まで移動した。

ダディとマティが改まった顔でこちらを見ている。


「さて。タカシ君。ミティを解放してくれたこと、誠に感謝する」


「本当に、ありがとうございました」


 ダディとマティがそう言って頭を下げる。


「いえ。これからはミティさんと、対等な仲間として過ごしていきたいので」


 俺はそう返答する。


「その件だが。……ミティ。今までつらい思いをさせてすまなかった。これから、親子3人でやり直さないか?」


 ダディがそう言って、ミティを見つめる。


 まあ親としてはそう考えるよな。

愛しい娘と不本意に離れ離れになったわけだからな。

失われた時間を取り戻したい気持ちは当然あるだろう。


 奴隷じゃなくなった以上、俺が彼女を連れ回す権利などない。

本人の希望が尊重される。


「お父さん。奴隷はやめても、タカシ様のパーティを抜ける気はないよ」


「なぜだ!? ミティはもう自由なんだぞ! 鍛冶もできるようになったんだし、お父さんといっしょに仕事もできるぞ!」


「育ててくれたお父さんとお母さんには感謝しているよ、でも、私はタカシ様と生涯をいっしょにするって決めたの」


 うれしいことを言ってくれる。

ミティは、以前から同じことは言ってくれていた。

しかし、実際に奴隷という立場から解放されてもそう言ってくれると、改めてうれしいと感じる。


「ぐっ。ぐぬぬ……」


「お父さん。ミティ本人がこう言っているのですから。見守りましょう。ミティの人生ですから」


 マティがそう言って、ダディをたしなめる。

彼はなかなか諦めきれないようだ。

それはそうだ。

かわいい一人娘だからな。


 俺が彼の立場なら、断固として認めないかもしれない。

しかし彼は、マティの言葉により何とか諦めてくれたようだ。


「……わかった。ミティがそう言うなら、3人でまた暮らす件は諦めよう。だが」


 ダリウスがこちらを力強く見つめる。


「タカシ君。俺たち家族は君に対して恩がある。だが、それとこれは別の話だ。俺とマティに、何か一言あってもいいのではないか?」


 ダディが俺にそう詰め寄ってくる。

なかなかのプレッシャーだ。


 何か一言、か。

言うことは決まっている。


 しかし、ミティの両親のダディとマティ。

それに、アイリス、モニカ、ニムが見ている前でこれを言うのか。


 ええい。

ままよ。

思い切って言うぞ!


「ダディさん。マティさん」


 俺は姿勢を正し、彼らを見つめる。


「ミティさんを俺にください!」


 俺はそう言って、頭を下げる。


「……君になら、ミティを任せられる。よろしく頼む。幸せにしてやってくれ」


「うふふ。ミティ。幸せになりなさい。辛くなったら、いつでも帰ってきていいからね」


「……え? えっ?」


 ミティは何やら戸惑っているようだ。

俺は頭を上げ、彼女を見つめる。


「ミティ。俺と結婚してくれ!」


 俺はミティにそう言う。


「…………」


 ミティが口を半開きにして黙っている。

瞳がぐるぐると回っている。


「…………」


 さらに沈黙が続く。


 も、もしかしてダメなのか?

両思いだと思っているのは俺の勘違いだったのか。

いや。

さすがにそんなことはないはず。

俺がそう内心で焦り始めたころ。


 ミティの顔が真っ赤に染まっていく。

目からポロポロと涙を流す。


「……は、はい。喜んで!」


 ミティから快諾をもらえた。

彼女は満面の笑みを浮かべてくれている。


 良かった。

これで拒否されたら、大きな精神的ダメージを負うところだった。

この世界に来て最も大きなピンチだったかもしれない。


「いっしょに幸せな人生を送ろうな。ミティ」


「私はもう十分に幸せをいただいています。私のほうこそ、全力でタカシ様を支えさせていただきます!」


 ミティがそう言う。


 いよいよ、俺も結婚することになったか。

ミティのことを幸せにしよう。

この笑顔を守っていこう。

そう固く決意する。



●●●



 一方。

タカシたちから数歩引いたところで、このやり取りを見ている目が6つあった。

アイリス、モニカ、ニムだ。

やや複雑そうな表情をしている。


「ちぇー。先を越されたなー。こうなる気はしていたけど……」


「うーん。私も考えておこうかな。もたもたしている場合じゃないね」


「わ、わたしもがんばります!」


 彼女たちも、今後タカシへのアプローチを本格的に進めていくかもしれない。

タカシのハーレム道はまだまだ始まったばかりだ!




-----完-----




 ではない。

タカシの物語はまだまだ続く。

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