154話 パラライズとストーンレイン

 昼食時に、リトルベアの討伐依頼を受けた。

ダディたちの手伝いは、午後は休みとさせてもらった。


 俺、ミティ、アイリス、モニカ、ニム。

5人でリトルベアの討伐に向かう。


 村の出口に差し掛かったとき、1人の女に話しかけられた。

カトレアだ。


「みなさん。リトルベアの討伐依頼を引き受けてくれたと伺いました」


「はい。そうですが」


「私がこのあたりの案内をしましょう」


 ありがたい申し出ではある。

俺たちはこのあたりの地理にうといからな。


 しかし、カトレアはミティに対して良くない感情を持っているように感じたが。

何か裏がありそうな気がする。


「カトレアさん。道案内ならば私がします」


 ミティがそう反論する。


「いえ。ミティさんはしばらくこの村から離れていらしたでしょう。少し地形が変わっているところもありますので」


 そう言われてしまうと、なかなか断りづらい。

まあ冒険者である俺たち5人を相手に、カトレアがどうこうすることもできまい。

彼女の案内で、リトルベアの出没地域に向かうことになった。


 リトルベアに向かうのはいいが、その前に試しておきたいことがある。

モニカの雷魔法と、ニムの土魔法だ。


 雷魔法レベル2は、パラライズ。

敵を麻痺させる魔法だ。


 土魔法レベル3は、ストーンレイン。

たくさんの石を相手に飛ばす魔法だ。


 昼食時に、どういう魔法かの説明は受けている。

とはいえ、実際に見ておくにこしたことはない。

リトルベアは、ある程度の強敵だ。

それよりも弱い魔物を相手に、試し打ちしておいてもらいたい。


「みんな。リトルベア戦の前に、肩慣らしをしておきたいと思うがどうだ?」


「うん。私のパラライズを見ておいてほしいしね」


「そ、そうですね。わたしのストーンレインも」


「よし。手頃な魔物を探そう。ファイティングドッグやゴブリンがいればちょうどいいのだが」


「魔法使いが2人もいるパーティでしたか。ずいぶんと豪華な構成ですねえ」


 カトレアがそう言う。


 魔法使いはそれなりに希少な存在だ。

Cランクパーティの蒼穹の担い手でも、中級の攻撃魔法を使えるのはリーゼロッテだけだった。

コーバッツも、ある程度の攻撃魔法は使える様子ではあったが。


 俺たちのパーティの場合、モニカとニムだけではなく、俺とミティも攻撃魔法を使える。

アイリスは攻撃魔法は使えないが、聖魔法と治療魔法を使える。

5人全員が魔法使いだ。

かなり強力で豪華な編成と言っていいだろう。


 しばらく歩く。

ゴブリンがいた。

数匹の群れだ。


「じゃあ、私の雷魔法から先にいくね」


「わ、わかりました。わたしの土魔法はその次に放ちます」


 俺の火魔法やミティの投擲を合わせてもいいが、今回はやめておく。

パラライズとストーンレインの効果や威力を確かめておきたいからな。

ゴブリン数匹ぐらいであれば、万が一外したりしても危険性は高くない。

接近戦で倒せばいいだけだ。


 モニカが詠唱を始める。

彼女が手のひらを前方にかざす。


「……パラライズ!」


 モニカの手のひらから電流のようなものがほとばしる。

ゴブリンたちにヒットする。


「ぎ、ぎぃぃ!」


 ゴブリンたちが悲鳴をあげる。


 なるほど。

確かに、動きを阻害しているようだ。

電流が体にはしると、筋肉がうまく動かなくなるのだ。


 一方で、電流が体に流れることによる火傷などのダメージは少なそうか。

地球の物理的には法則に合わない現象だ。

筋肉の動きを阻害するレベルの電流を受けても、火傷などのダメージがないわけだからな。


 このあたりは、この世界ならではの魔法の法則が働いている可能性がある。

俺が火魔法創造でいろいろと試したときも、少し不合理な法則があった。


 非生物を標的とするイメージの魔法は、かなりの威力を出せた。

一方で、生物を標的とするイメージの魔法は、やや威力が劣っていた。


 非生物を標的とするイメージの魔法を、生物を標的として使用した場合、威力が大きく減退した。

一方で、生物を標的とするイメージの魔法を、非生物を標的として使用した場合、威力があまり変わらなかった。


 雷魔法レベル2のパラライズは、生物の動きは阻害するがダメージはあまり与えない、というバランスの魔法なのかもしれない。


 ゴブリンたちが硬直しているうちに、ニムの土魔法の詠唱が終わったようだ。

彼女が手のひらを前方にかざす。


「我が敵を砕け! ストーンレイン!」


 ストーンレインの石つぶてがゴブリンを襲う。

モニカのパラライズにより動きが阻害されているので、防御や回避もうまくできないようだ。

ゴブリンたちに大ダメージを与えた。


「あとはボクに任せてよ」


 アイリスがそう言い、ゴブリンたちに駆け寄っていく。


「はああ! 裂空脚!」


 アイリスの鋭い回し蹴りだ。

ゴブリンたちにとどめを刺していく。

これで討伐完了だ。

モニカ、ニム、アイリスの3人だけで問題なく討伐できている。


「なるほどな。パラライズもストーンレインも、いい魔法だな。アイリスもお疲れ様」


「ありがとう」


「あ、ありがとうございます。使いこなせるように練習しておきます」


「ボクはとどめを刺しただけだよー。これで、いよいよ2人も戦力として計算できるレベルになってきたねえ」


 モニカ、ニム、アイリスがそう言う。


「そうだな。順調だ」


 モニカとニムは、遠距離攻撃では十分な戦力になりそうだ。

俺の火魔法、ミティの投擲、モニカの雷魔法、ニムの土魔法。

この4つを先制攻撃として放てば、魔物の群れに大ダメージを与えることができるだろう。

大幅に有利になる。


 2人の残る課題は接近戦だな。

接近戦のほうが危険性も高い。

より慎重に考える必要がある。


 モニカは、冒険者として活動を始めて以来、アイリスに格闘術や闘気術を教わっている。

格闘術はもともとレベル1を所持しており、それをステータス操作によりレベル3まで強化している。

加えて、脚力強化も取得済みだ。

実戦経験はともかく、力量としては中級者だ。

ガルハード杯でも、予選なら突破できる可能性が高いレベルだろう。

 

 ただし、闘気術は未習得だ。

闘気術レベル1の取得は、鍛錬により自力で行う必要がある。

ステータス操作では取得できない。

レベル1さえ取得できれば、レベル2以降はステータス操作でも伸ばしていくことができる。


 ニムは、接近戦での有効な攻撃手段を持たない。

土魔法レベル2のロックアーマーにより、耐久力には秀でる。

敵の攻撃を引きつけるタンク役として期待できる。

しかし、MPがまだ心もとないので、長期戦は無理だ。

ストーンレインを放った場合は特にMPが不足しがちになるだろう。

MP関係のスキルは今後優先的に取得していく必要がある。


「やはり、2人も魔法使いがいればゴブリンなど敵ではないというところですか。すばらしいパーティですわね」


 カトレアが俺たちをそう褒める。


「ありがとうございます、カトレアさん。肩慣らしは終わりました。リトルベアの出没地域までの案内をよろしくお願いします」


 俺はそう言う。


「わかりましたわ。では、向かいましょう」


 カトレアの案内に従い、森の中を進んでいく。

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