127話 雷魔法レベル1、土魔法レベル1

 モニカとニムが冒険者デビューした日。

数匹のファイティングドッグを狩り、レベルが上がった。


 さっそく何らかのスキルを強化すべきだろう。

何らかの攻撃系スキルや身体能力強化系のスキルを取得するだけでも、ファイティングドッグを相手に大きく有利になる。


 狩りを一時中断する。


「さて、いい報告がある。ここまでの狩りで、2人の力を少し強化できるようになった」


「やった!」


「う、うれしいです」


 モニカとニムが喜ぶ。


「モニカは2つか3つ、ニムは1つの力を取得か強化できる。なにか希望はあるか?」


 モニカはスキルポイント20、ニムはスキルポイント10の分を取得したり強化したりできる。

正確に言えば、強化するスキルのレベルによって消費するスキルポイントは上下する。

しかし、あまり細かな話をするのもまだ早い気がする。

ミティやアイリスにもまだ細かな話はしていないしな。

いずれ機を見て話そうと思う。


「うーん。攻撃をもっと強くしたいかなあ。タカシやミティ、アイリスのように、もっと早く倒せるようになりたい」


 モニカがそう言う。


「わ、わたしは犬が怖かったので、守りを強くしたいです。それか、遠くから攻撃できるようにしたいです」


 ニムがそう言う。


「わかった。順番に考えていこう。まず、モニカは攻撃系の力を強化しようか」


「候補はどういうのがあるの?」


「攻撃技術の力として、剣術、槌術、格闘術、槍術、斧術、棒術、投擲術、弓術など」


 他にもまだまだあるが、使いやすそうなのはこのあたりだ。


「ふむふむ」


「身体能力の強化として、腕力、脚力。魔法関係の力として、火魔法、水魔法、風魔法、雷魔法、土魔法など」


 聖魔法や治療魔法もあるが、ファイティングドッグを早く倒すという目的から外れるので除外する。


「うーん。攻撃技術の中なら、格闘術かなあ。もともと少し習っていたし」


 モニカがそう言う。


「長所を伸ばす方針だね。ボクもそれがいいと思う。ところで闘気術は候補にないの?」


 アイリスがそう言う。


「取得項目に表示されていない。俺やミティのときもそうだった。闘気術は、自力で取得する必要があるみたいだ。基礎を取得すれば、強化はできるようになる」


 このあたりのステータス操作の仕様は不明点が多い。

細かな条件の検証をしたいところだが、キリがない。

多少は気にしつつも、厳密な条件の検証は置いておく方向性だ。


「そっか。闘気術は少しずつ教えていくしかないか」


 アイリスがそう言う。


「そうだな。……話を戻そう。モニカ、他の候補はどうだ?」


「身体能力の強化の中では、もちろん脚力の強化かな。魔法はあんまり身近じゃないから、よくわかんない。みんなはどう思う?」


 モニカがそう言う。


「俺が火魔法と水魔法、ミティが風魔法を使えるから、取得するなら他の属性がいいかな。パーティ内でバリエーションを持たせたい」


 逆に特定の属性に集中させて破壊力を増す方向性もなくはないが。

どちらかと言えば、バラけさせて柔軟性を持たせたい。


「なるほど。じゃあ、さっきタカシが言っていた中では雷魔法か土魔法あたりかな?」


「あ、あの! 私は土魔法がいいです」


 傍らで俺たちの話を聞いていたニムが、少し大きな声でそう言う。


「そうだな。ニムは土魔法を取得したいのだったな」


「はい。畑仕事で、土にはたくさん触れてきました。土にはなじみがあります」


「わかった。なら、ニムには土魔法を取得してもらおう」


 ステータス操作のチートなら、スキルポイントの分だけ自由にスキルを取得・強化できる。

とはいえ、できるだけ本人の希望通りのスキルを取得・強化する方針で進めていきたい。


「お、お願いします」


 ニムのスキルポイントの使い道は決まった。


「モニカはどうする?」


「うーん……。残った雷魔法にしようかな」


「モニカが希望するなら、土魔法とか他の魔法でもいいんだぞ」


「いや、特に希望もないし雷魔法にするよ」


「わかった。雷魔法を取得してもらおう。格闘術や脚力強化はどうする? この組み合わせなら、3つとも強化・取得ができるぞ」


「へえ。じゃあ、その3つでお願いしようかな。問題ないよね?」


「問題ない。あまりいろいろと手を出しすぎると、器用貧乏になってしまう恐れもあるけどな。まだそれを心配するような段階じゃない」


「わかった。気をつけるよ」


 モニカのスキルポイントの使い道も決まった。


「では、モニカとニムの力の強化を実行するぞ」


 モニカとニムがうなずく。


 モニカのステータス画面を開き、格闘術レベル1を2に強化し、脚力強化レベル1を2に強化し、雷魔法を取得する。

ニムのステータス画面を開き、土魔法レベル1を取得する。


「どうだ?」


「変な感じだね。何となく、格闘の技術が向上した気がするよ。それに、頭の中に雷魔法のイメージが流れ込んできたみたいだ」


「わ、私も、土魔法のイメージが流れ込んできました」


 モニカとニムが不思議そうな顔でそう言う。


「俺も、そんな感覚だったよ」


「さっそく試してみていい?」


「もちろん。でも、あっちに向けて打ってね」


「いや、遠くに打つという類の魔法じゃないみたいだけど。まあやってみせるよ」


 遠距離系ではないのか。

火魔法レベル1はファイアーボール。

水魔法レベル1はウォーターボール。

風魔法レベル1はエアバースト。

いずれも遠距離攻撃が可能な魔法だ。


 雷魔法レベル1は少し方向性が異なるということか。

気になる。

じっくり観察しておこう。


 モニカが木に手をつき、小声で詠唱を始める。


「……スパーク!」


 バチっという音がする。

木から煙が上がる。


 モニカの手元付近の木をよく見てみる。

木の一部が焦げている。

どうやら、手のひらから電気を流す魔法のようだ。


「不思議なものだね。木は焦げているのに、手のひらは熱くないなんて」


「攻撃魔法は、術者自身を守る術式が組み込まれているからね」


 アイリスがそう言う。

そうだったのか。

火魔法を放って自分が火傷していては仕方ないもんな。


「もう一度試してみるね」


 モニカが靴を脱ぐ。

きれいな素足だ。

彼女が木に足をかけ、小声で詠唱を始める。


「……スパーク!」


 バチっという音がする。

木から煙が上がる。

木の一部が焦げている。


 電気を放つのは、手のひらからとは限定されないようだ。

今回は脚から放ったわけか。


「うん。魔法を使ったのは今回が初めてだけど、かなり強そうな魔法だね。でも、接近していないと使えないみたいだ」


 モニカがそう言う。


「それなら、武闘術と組み合わせてみるのはどうかな? パンチやキックと合わせて魔法を発動させれば、強力な攻撃手段になると思う。武闘はボクが教えるよ?」


 アイリスがそう提案する。


「ありがとう。私は料理もしたいし、手はあんまり使いたくないんだけど」


 モニカがそう言う。

料理人にとって、手は大切だ。

戦闘でパンチなどはできるだけしたくないということか。


「じゃあ足技メインで練習しよう。ボクもどちらかといえば足技のほうが得意だし」


「ありがとう。よろしく、アイリス」


 モニカがアイリスにそう言う。


 アイリスもモニカも、腕力よりも脚力が優れている。

脚力を活かした武闘家として能力を伸ばしていく方針になりそうだ。


 2人の戦闘スタイルがかぶるのは少し気になるところだ。

差別化するなら、どちらかにパンチ主体の武闘家になってもらうか?

とはいえ、既に自身の戦闘スタイルを確立しているアイリスに無理に戦闘スタイルを変更してもらうのもな。

料理人のモニカに無理にパンチ主体の戦闘スタイルにしてもらうのも、気が進まない。


 ある程度戦闘スタイルがかぶるのは許容するしかないか。

魔法など他のところでも差別化できるし、大きな問題はない。

モニカは雷魔法を強化していこう。


「闘気術も気長に練習していこうね。……それにしても、雷魔法か。以前、東方の技を教わったことがあるんだ。雷魔法と武闘の融合技だ。ボクには使いこなせなかったけど、モニカならいずれ……」


 アイリスはモニカに教えたい技があるようだ。

モニカはまだ駆け出しなので、ゆくゆくの話になるだろうが。



「さて。次はニムの土魔法を試してみよう」


「わ、わかりました。土魔法は、遠距離攻撃の魔法みたいです。あの木に向かって放ちますね」


 ニムが小声で詠唱を開始する。


「……ストーンショット!」


 地面から土が集められ、固まって石のようになり、前方へ打ち出された。

石は木に当たり、枝を折った。


「ど、どうでしょうか?」


「威力は強めの投擲と同じくらいか? 犬狩りには十分に使えそうだな」


「そうですね。悪くないと思います」


 ミティがそう言う。


 俺は木に向かって歩いていき、放たれた石を拾う。


「ふむ。土を集めているように見えたが、これは普通の石ぐらいの固さはあるな」


 土から石を作り出せるわけか。

なかなか興味深い魔法だ。

単純な威力や使い勝手でいえば、もともと拾っておいた石をミティが投げたほうが優れているが。

土魔法には土魔法で、何かしら役に立つ局面もあるだろう。


「タカシの火魔法やミティの風魔法とは、また違った方向性で使えそうだね。良いんじゃない?」


 アイリスがそう言う。


「そうだな。ニムは、土魔法を重点的に強化していくので問題なさそうだな。ニムもそれでいいか?」


「だ、だいじょうぶです」


 ニムがそう返事をする。

遠距離攻撃の手段を得たことで、彼女のレベリングがより安全に行えるようになるだろう。

いい感じだ。


「よし。少し早いが、今日の活動はここまでにしよう」


「もう? まだいけるよ」


「わ、私ももう少しいけますよ」


 モニカとニムがそう返事をする。


「まあ初日から無理することもない。明日またがんばろう」


「わかった。ちょっと楽しくなってきたかも」


「そ、そうですね。わくわくしてきました」


 うん。

自分の能力がどんどん強化されるのは、楽しいよな。

気持ちはわかる。

明日以降も楽しい日々が続きそうだ。




レベル5、モニカ

種族:兎獣人

職業:ー

ランク:E

HP:47(36+11)

MP:22(17+5)

腕力:20(15+5)

脚力:64(28+8+28)

体力:26(20+6)

器用:22(17+5)

魔力:31(24+7)


武器:ショートソード

防具:レザーアーマー



残りスキルポイント0

スキル:

格闘術レベル2

脚力強化レベル2

雷魔法レベル1「スパーク」

料理術レベル3


称号:

タカシの加護を受けし者



レベル3、ニム

種族:犬獣人

職業:ー

ランク:E

HP:39(30+9)

MP:14(11+3)

腕力:20(15+5)

脚力:18(14+4)

体力:40(22+7+11)

器用:13(10+3)

魔力:18(14+4)


武器:ショートソード

防具:レザーアーマー


残りスキルポイント0

スキル:

体力強化レベル1

土魔法レベル1「ストーンショット」

栽培術レベル1



称号:

タカシの加護を受けし者

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