105話 湖水浴:水着回 前編

「いい景色だねえ。ミティ、アイリス」


「そうですね。水もきれいそうです」


「ボク、湖水浴は久しぶりだよ。楽しみだな」


 スプール湖に遊びにきている。

海水浴ならぬ、湖水浴だ。

俗に言う水着回である。


 いろんな人が参加している。

俺、ミティ、アイリス。

バルダイン、ナスタシア、マリア。

六武衆に六天衆。

潜入組のアドルフの兄貴、レオさん、マクセル、ストラス、ギルバート、ジルガ、ウッディ。

その他にもオーガやハーピィが数人。

サザリアナ王国からの使者もしれっといる。

総勢で30人を超える大所帯だ。


『タカシお兄ちゃん! 早くいこうよ!』


 マリアが俺の手を引っ張り、急かしてくる。

彼女は子どもらしいワンピース型の水着を着ている。

可愛い。

……変な意味ではない。


「マリア、ちょっと待って。準備運動しないと」


『わかった!』


 みんなで準備運動を始める。

動的ストレッチだ。


 準備運動を終える。

さあ、湖に入ろう。


「えっと。ちょっと恥ずかしいですね……」


 ミティが顔を赤らめながら、上に羽織っていた服を脱ぐ。

服の下はもちろん水着。

露出がやや少ないタンクトップ型の水着だ。


 彼女は背が小さいのでぱっと見は子どもっぽいが、実は出るところは出ている。

身長比で言えば、ナイスバディだ。


「あ、あんまり見ないでください……」


 ミティがそう言う。


 やべ。

ちょっとジロジロ見すぎたか。


「あ、ああ。ごめんごめん。ミティがあまりにも可愛かったからさ」


「そ、そうですか? ありがとうございます」


 天使のミティだ。

お世辞ではなく、可愛い。


「ちょっとー。ボクは?」


 アイリスがそう言って、水着を披露してくる。

ちょっとヤキモチを焼いてくれているのかな。


 彼女はスパッツ型の水着を着ている。

露出は控えめだが、普段着よりはもちろん肌が出ている。

神官が肌を出していいのか?

その辺は緩い教義なのかもしれない。


 露出は少ないものの、肌にぴっちりと張り付くタイプの水着だ。

ボディラインがくっきりと映る。

アイリスの鍛え抜かれた美しい肉体が見て取れる。

……ふむ。

これはこれで。


「アイリスも可愛いよ。いい体してるね!」


 ん?

なんかセクハラっぽいセリフになってしまった。


「なんかオヤジ臭い褒め言葉だね。ま、ありがと」


 アイリスにも突っ込まれてしまった。

ちょっと嬉しそうな顔をしているので、よしとしよう。



『ディーク。わ、わたくしの水着はどうですか』


 六武衆の牽制のフェイがそう言う。

ハーピィの女性だ。


『かわいいと思うよ』


 六武衆の鑑定のディークがそう言う。

ハーピィの男性だ。


『そ、そうですか。よかった』


 フェイがそう言って喜ぶ。


『いや、ちょっと待てよ……』


 ディークがフェイの体を改めてジロジロと見る。


『フェイ。ちょっと太ったんじゃないか? 僕の目はごまかせないぞ。腹の回りの肉が……』


『……っ。ば、ばかーっ!』


 パンッ。

フェイがディークを平手打ちし、彼女は走り去っていった。


 ……ディーク君。

今のはないだろう。


『もう、うちのバカ息子ったら。フェイちゃんに愛想尽かされるわよ』


 今の出来事の一部始終を見ていた、六天衆のディアナがそう言う。

ハーピィの女性だ。


『だいじょうぶよ。うちのフェイは、ディーク君にべた惚れだから』


 六天衆のフィンがそう言う。

同じくハーピィの女性だ。


 ディークとフェイの仲は、親公認か。

早く結婚しちまえ。

末永く爆発しろ。



 気を取り直して、俺たちは俺たちで楽しもう。


『おーい! タカシお兄ちゃん! みんな! はやくー!』


 マリアが待ちきれずに、先に湖に入っている。


「俺たちもいくぞ!」


「はい!」


「うん!」


 みんなで湖に向かう。

それぞれ思い思いに遊び始める。


 アイリスは泳いでいる。

彼女は泳ぎがうまい。

クロール、平泳ぎ、背泳ぎ、バタフライ。

何でもござれだ。


 ……!

ひらめいた。


 アイリスが平泳ぎしている後ろから、潜水で近づいていく。

グフフ。

いい眺めだ。

視力強化がさっそく役に立った。

いい体してるのお。


 思わず夢中になり、近づきすぎてしまった。


 ドカッ!


「ぐっ! ごぼごぼっ!」


 顔に衝撃が走る。

アイリスの蹴りを受けてしまった。

思わず水を飲んでしまい、むせる。


「タカシ!? だいじょうぶ!? ごめんね。後ろにいることに気が付かなかったよ」


「だ、だいじょうぶだ」


 俺の変態行為はバレていないようだ。

あんまり調子に乗っていると、天罰がくだるということか。

注意しよう。



 再び気を取り直して、大人しく浅瀬で遊ぶ。

ミティ、マリアといっしょだ。


『タカシお兄ちゃん! それっ!』


 マリアが水をかけてくる。


『やったな! お返しだっ!』


 マリアに水をかけ返す。

もちろん、手加減はしている。


『きゃーっ! つぎはミティお姉ちゃんに! それっ!』


 マリアがミティに水をかける。

マリアのミティに対する苦手意識は、少し薄れてきている。

いずれ時間が解決してくれそうだ。


「お返しですっ!」


 ミティがマリアに水をかけ返す。

もちろん、彼女も手加減している。

ミティの腕力で全力を出せば、ちょっとした大波ができそうだ。

彼女は全力を出すわけにはいかない。


「ガハハ! 何やら楽しそうなことをやっておるな! 我も混ぜろ!」


 ギルバートがやってきた。

混ざるのはいいが、全力は出すなよ。

空気を読むのだ。


「いくぞ! ビッグ……」


 ギルバートが拳に闘気を込め、力を溜める。


「ちょ、ちょっと待……」


 俺の制止は間に合わない。


「バン!」


 ギルバートの拳が突き出される。

突き出された拳に伴い、水が勢いよく噴出される。


 俺、ミティ、マリアはその水をもろにかぶってしまった。

髪から水がしたたり落ちる。


「……やってくれましたね」


 ミティが静かに怒っている。


「お返しです。ビッグ……」


 ミティは地味に沸点が低い。

ゾルフ砦の焼肉屋ではミッシェルやマーチンに食って掛かっていたし、ガルハード杯本戦ではマーチンの挑発にもろに乗っていた。

まあそれが彼女の可愛いところでもあるんだが。


「バン!」


 ミティの拳が突き出される。

突き出された拳に伴い、水が勢いよく噴出される。


 俺、マリア、ギルバートはその水をもろにかぶってしまった。


「ガハハ! やりおる! 次だ!」


 ギルバートはまだやる気だ。


『あはは! おもしろーい! もっともっと!』


 マリアは楽しんでいる。

まあ、彼女が楽しめているのならばいいか。

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