91話 潜入作戦への勧誘
俺自身のスキル強化の方針を考えていこう。
明日以降の防衛戦はどのような形態になりそうか。
ゴブリンやファイティングドッグの群れを効率良く掃討するなら、魔法系のスキルを取得・強化するのがいい。
俺は、火魔法はレベル5まで上げている。
こちらの魔法使い勢で属性を統一して一斉掃射する都合上、俺は火魔法でしか一斉掃射に参加できていない。
このままだと少し効率が悪い。
水魔法や風魔法をレベル3か4まで上げれば、火魔法でのファイアートルネードやボルカニックフレイムに相当する強力な魔法が使えるようになるはずだ。
水魔法ならおそらくアイスレインが使えるようになる。
そうなれば、掃討戦の効率が良くなり、すなわちレベリングの効率が良くなる。
とはいえ、安全面から言えば、魔法系のスキルはそれほど重要ではないかもしれない。
今日の戦闘では、ゴブリンやファイティングドッグの群れは危なげなく討伐できていた。
危なかったのは、巨大ゴーレムだ。
巨大ゴーレムに効果的なスキルを取得したほうがいいかもしれない。
遠距離から攻撃できる手段として、今日はボルカニックフレイムを使用していたが、さほど有効ではなかった。
斬魔剣は有効だった。
しかし、斬魔剣はステータス操作で強化できる類の技術ではないようだ。
ステータス欄に表示がない。
このあたりの線引きは微妙なところだよな。
剣術はスキルとして存在する。
闘気術はスキルとして存在する。
闘気術の派生として、聖闘気術もスキルとして存在する。
剣術・魔法・闘気術の派生として、斬魔剣はスキルとして存在してしない。
まあ、剣術・魔法・闘気術に対する”斬魔剣”の位置づけは、格闘術や闘気術に対する”剛拳流”の位置づけのようなものなのかもしれない。
”剛拳流格闘術レベル1”とかいうスキル項目があれば、さすがに違和感がある。
スキルが細分化されすぎていては、きりがない。
いずれにせよ、斬魔剣がステータス操作で強化できない以上は、他のスキルを強化していくしかない。
剣術・魔法・闘気術を上げれば、間接的に斬魔剣の威力や成功率は向上するだろう。
巨大ゴーレム対策としては、剣術・魔法・闘気術を上げるのがよさそうか。
ただ、明日も巨大ゴーレムが出てくるかはわからない。
明日はいよいよ、後ろに控えていたオーガやハーピィとの戦闘になるかもしれない。
奴らは、人と意思疎通ができるレベルの知能があるらしい。
かなりの強敵になるだろう。
巨大ゴーレム戦のように、高威力の魔法や剣技をぶっ放せば済むような戦闘にはならないかもしれない。
そう考えると、最大出力を向上させるスキルよりも、技術や駆け引き面で役に立ちそうなスキルを取得するほうがいいか。
剣術、回避術、魔力強化、高速詠唱、視力強化あたりが候補かな。
判断が難しい。
いざとなればスキルリセットもあるし、考えすぎるのも良くないのだろうが。
「うーん……」
「むむむ……」
「どうしようかなー……」
俺、ミティ、アイリス。
3人が揃って頭を悩ませている。
「へっへっへ。どうした? 眉間にしわをよせて」
「悩みごとがあるなら聞くぜ? ギャハハハ!」
アドルフの兄貴とレオさんがやってきた。
「兄貴、レオさん! お疲れ様です! いえ、悩みごとというほどでもありません。明日以降の戦いはどうなっていくのかと、考えていました」
「へっへっへ。……そのことだがな、ちょっと気になることがある」
アドルフの兄貴が声を潜める。
「と、言いますと?」
「ゾルフ砦から南へ山脈を越えた先には、魔の領域が広がっているのは知っているな?」
「ええ」
「魔の領域っていうのは、一般市民や低級の冒険者たちがうかつに南へ向かわないように名付けられただけの、単なる名称だ。別に極端に恐れるべき場所っていうわけでもねえ」
「そうなのですか?」
「ああ。オーガやハーピィは知能もある。うまく交渉して融和できれば、俺たちヒューマンと共存できる可能性も高い。かつてのドワーフやエルフ、獣人たちと同じようにな」
ドワーフ、エルフ、獣人たちとの間に、そんな歴史があったのか。
「なるほど」
「ゾルフ砦から南へ向けた先にオーガやハーピィの巨大集落があるのは、王国上層部も掴んでいた。今まで水面下でいろいろと動いていた。実を言えば、俺とレオは親善大使としてオーガの里を訪問したこともある」
「そうだったのですか。そうなりますと、彼らの今回の攻勢には違和感がありますね」」
「その通りだ。そこでだ。……単刀直入に言おう。俺たちといっしょに敵地に乗り込まないか?」
え?
「敵地に乗り込んでどうするのでしょうか? 大将の暗殺ですか?」
「いや、この攻勢の理由を知りたい。なにか誤解があるのかもしれないからな」
「言葉は通じるのでしょうか?」
話を聞くために潜入して、言葉が通じませんでしたでは意味がない。
俺のチートがあれば通じるかもしれないが。
「意思疎通の魔道具を王宮から貸してもらっている。戦いを避けたいという意思は通じるはずだ」
そんなものがあるのか。
とはいえ、完璧な意思疎通ができるわけでもないようだ。
俺の異世界言語が役に立つかもしれないな。
「わかりました。お供いたしましょう」
「へっへっへ。付き合ってくれるか。ありがとよ」
「そこの嬢ちゃんたちは連れていくのか? 危険が伴うから置いていくのもありだが、危険だからこそ慣れたパーティーメンバーは連れていくべきともいえるぜ。ギャハハハ!」
「そうですね……。ミティ、アイリス。どうしたい?」
ミティとアイリスに問いかける。
「もちろんお供いたします!」
「ボクも着いていくよ。メイビス姉さんなら、こんなときに迷わずに行くだろうから」
ミティとアイリスも、着いてきてくれるそうだ。
俺1人では不安だし、正直ありがたい。
「へっへっへ。メイビス……? どこかで聞いたことがあるような……?」
「おじさん。メイビス姉さんのことを知っているの? 中央大陸で武闘神官をやっているはずだけど」
「へっへっへ。もしや、統一教会の”閃光”のメイビスか?」
結構強そうな通り名だ。
「そうだよ!」
「へっへっへ。あの女の妹か。そういえば妹がいるとか言っていたか」
「タカシもいい仲間を持てたようだな。そっちのドワーフの嬢ちゃんもかなりの力だそうだしな。ギャハハハ!」
「ありがとうございます。俺も彼女たちに置いていかれないようにがんばります」
彼女たちもステータス操作の恩恵を受けられるようになった以上、うかうかしていると置いていかれてしまうかもしれない。
「へっへっへ。敵地に乗り込むメンバーをもう少し集めたい。見込みのありそうな奴を当たってくる」
「1時間後ぐらいに、中央のテントまで来てくれ。潜入作戦の打ち合わせをする。ゾンゲルやテスタロッサにも話は通してある。ギャハハハ!」
アドルフの兄貴とレオさんは、そう言って去っていった。
ん?
視界の隅で何かが点滅している。
これは……新しいミッションだ。
ミッション
オーガ及びハーピィと和睦しよう。
報酬:スキルポイント20
……!
このタイミングでこのミッションか。
やはり兄貴の睨んだ通り、何か事情があっての攻勢ということだろう。
今回の潜入作戦は、かなり重要なものとなりそうだ。
気を引き締める必要がある。
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