89話 アイリスへ秘密を打ち明ける

「アイリス。ちょっといいか? ついてきてくれ」


「ん? なーに?」


 アイリス、ミティとともに人ごみから少し離れる。


「アイリス。体の調子に変わったところはないか?」


「変わったところ? んー……。そういえば、やけに力がみなぎっているような感覚はあるけど。昼間はあんなに動き回ったのに」


 加護付与によるステータスの3割向上は、はっきりと自覚できるレベルのようだ。

ミティも同じようなことを言っていた。


「そのことだけど……。俺の不思議な力のおかげって言ったら、どう思う?」


「不思議な力? そんな力あるわけないじゃん。……え、冗談ではなく?」


 アイリスの目を見て黙ってうなずく。

ミティもうなずいている。


「えっと。こっそり治療魔法をかけてくれたとか、そういう話?」


「ちがう」


 アイリスの目を見る。


「うーん。冗談じゃなさそうだね」


「俺には、人の力を増幅させる能力がある」


「!」


 アイリスが驚いた顔をしている。


「それは、物事を教えるのがうまいとか、支援魔法で一時的に強化するとか、そういう話でもなく?」


「ああ。まず、俺と一定以上親密になった人は、身体能力が全体的に強化される。今のアイリスがその状態だ」


 各ステータスが3割強化される。

一見地味だが、冷静に考えるとかなりの強化だ。


「親密……か。確かに、ガルハード杯や今日の戦いで、タカシのことはかなり好きになってきたね。かっこいいと思ったよ」


「ありがとう。俺もアイリスのことは尊敬しているし、かわいいとも思っている」


「あ……、さり気なく告白しちゃったね。照れるなあ」


 あんまり照れてるようには見えないが。

本当に俺のことが好きなのか怪しい気もする。


 いや待て。

よく見ると、顔が少し赤い。

照れてるのを隠しているだけか。

こうして改めて見ると、アイリスも相当かわいい。


 落ち着け。

隣にはミティもいる。

ハーレムは目指すが、こう目の前で露骨に他の女に手を出すのもな。

落ち着くんだ。


「アイリスさんも、タカシ様のすばらしさに気が付きましたか。これからはパーティメンバーとして、いっしょにタカシ様を支えていきましょう」


 ミティがアイリスをパーティに勧誘する。

急すぎないか?


「確かに、そうしたいところだね。武闘神官見習いとして、まだまだ経験を積まないといけないのもあるし」


 お、手応えありか。


「じゃあその方向で考えていこう。歓迎するよ」


「とりあえず、この戦いが一段落してから、エドワード司祭に相談するよ」


「よろしく頼む」


 アイリスにはぜひともパーティに加わってほしいところだ。


「話を戻そう。俺には、人を強化する力があるという話だ」


「信じられない話だけど、タカシとミティがそういうのなら、そうなのかな? 実際、体の調子はいいし」


「体の調子がいいだけなら、アイリスの言う通り、治療魔法をこっそりかけておいたとかいう可能性もなくもないだろう?」


「そうだね」


「俺の力はそれだけじゃない。俺には、人が成長する方向性を示して促す力がある」


「!」


 アイリスが驚いた顔をする。


「それこそ、信じがたいなあ」


 まあ信じられないのも当然だ。


「実例はある。俺とミティだ。俺たちが冒険者として戦闘経験を積み始めてから、まだ2か月くらいしか経っていない」


「そうなの?」


「ああ。それに、武闘の訓練を始めたのはつい1か月前だ。ちょうど、アイリスといっしょに稽古をするようになったときぐらいだ」


「あの時か。あの頃は、タカシもミティも素人同然の技術だったけど」


 その通り。

あの時点では、武闘においてアイリスははるか格上の存在だった。


「それが、わずか1か月で、ガルハード杯に出場できるレベルになった。ミティはベスト4まで残った」


「タカシは私に勝ったしね。あれは悔しかった」


「俺とミティの上達速度は、俺の”人が成長する方向性を示して促す力”によるところが大きい。インチキみたいな力で勝って、アイリスには申し訳ないが」


「そんな力があるなら、確かにずるい気はする。でも、それも含めてタカシ自身の力とも言えるでしょ?」


「そういう考え方もあるかもしれない。そう言ってくれると助かる」


「世界に誇るべき、すばらしい力ですよ!」


 ミティが興奮気味に語る。


 確かに、世界滅亡の危機に立ち向かうためには、いずれ世界規模で活用すべき力となるだろう。

だが、まだ早い。

この段階で広く公表すれば、権力者たちにうまく利用されてしまう気がする。

利用されてしまうだけならまだいい。

最悪、暗殺とかされてしまうリスクもある。

考えすぎかもしれないが。


「まあ、世界云々は置いといて。今はアイリスが成長していく方向性を聞きたいと思う」


「ボクが成長する方向性?」


「ああ、何か希望はないか? 回数制限みたいなものはあるが、現時点では複数の項目を強化できるぞ」


「まあ、言うだけなら損はないか。例えば体力とか闘気量とかを強化したいかな?」


 確かに、アイリスの弱点は体力と闘気量だ。

ガルハード杯や防衛戦でも、闘気切れにより戦闘不能になった。


「体力と闘気か」


「それって、すぐに強くなれるの?」


「ああ。方向性を確定させれば、すぐに強化できる。ただし、やり直しはできないから慎重にな。まずは、試しに何か1つ強化してみるか?」


「体力や闘気量は、実戦じゃないと実感がわかないかも。脚の力とか強化できる?」


「ああ、できるぞ。確定でいいか?」


「お願い」


 アイリスのステータス画面を開く。

脚力強化レベル1を取得する。


「……よし、強化した。どうだ?」


 アイリスがその場で跳びはねる。

回し蹴りをしたり、少し走ったりしている。


「……確かに、脚の力が強くなっているね。これは気のせいとかいうレベルじゃない」


「信じてくれるか?」


「信じるしかないね。となると、他の能力も強化させたいな」


 さすがはアイリス。

順応が早い。


「そうだな。例えば、現在アイリスが持っている力はこういうのがある」


 アイリスのスキルを書き出し、見せる。

格闘術レベル2

気配察知レベル1

脚力強化レベル1

闘気術レベル3「開放、感知、集中」

聖闘気術レベル2

聖魔法レベル1「ウィッシュ」

治療魔法レベル1「キュア」


「他にも、いろいろな力がある」


 アイリスが未習得のスキルを書き出し、見せる。

各種武器の取り扱い術や、各属性の魔法、サポート系スキルなどだ。


「現時点では、5つぐらいの力を取得したり、強化したりできると思ってくれ」


 アイリスのスキルポイントは、先ほど脚力強化に使用した分を引いて、65だ。


 ここで、スキル取得に必要なポイントを整理しておこう。

新たなスキルを取得するには、10ポイント。

スキルレベル1を2にするには、5ポイント。

スキルレベル2を3にするには、10ポイント。

スキルレベル3を4にするには、15ポイント。

スキルレベル4を5にするには、30ポイント。


 厳密に言えば、取得したり強化したりするスキルの項目次第で、スキルのポイントの消費量は異なる。

だが、現時点でそこまで踏み込んで説明するのも微妙だと思う。

防衛戦の最中で時間もあまりないしな。

とりあえず、ざっくりと5個ぐらいのスキルを選んでもらうことにしよう。


「5つも強化できるの!? 悩むなあ」


「今後も俺たちと行動をともにしてくれるなら、今後も定期的に強化できるようになる。だから、あんまり深く考え過ぎないようにな。適当に決めるのももったいないが」


「わかった。ちょっと時間をもらえる?」


「ああ。俺とミティの強化も少し考えないといけないしな。明日も戦いがあるし、今日中には方針を決めたほうがいいと思うよ」


「そうだね、わかったよ」


 アイリスはじっくりと考えはじめた。

次はミティのスキルを考えるぞ。



レベル15、アイリス

種族:ヒューマン

職業:武闘家

ランク:E

HP:112(86+26)

MP: 59(45+14)

腕力: 68(52+16)

脚力:103(57+17+29)

体力: 59(45+14)

器用: 78(60+18)

魔力: 56(43+13)


武器:ガントレット

防具:レザーアーマー


残りスキルポイント65

スキル:

格闘術レベル2

気配察知レベル1

脚力強化レベル1

闘気術レベル3

聖闘気術レベル2

聖魔法レベル1 「ウィッシュ」

治療魔法レベル1 「キュア」


称号:

タカシの加護を受けし者

ジャイアントゴーレム討伐者

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