69話 1回戦:タカシvsミッシェル
「ではさっそく、第1試合を始めます! Dランク冒険者のタカシ選手対、ファウス道場のミッシェル選手!」
第1試合でいきなり出番だ。
「タカシ様。勝利をお祈りしています!」
「タカシ、がんばってね!」
ミティとアイリスから激励の言葉をもらう。
彼女たちにいいところを見せないとな。
控室から出て、武闘のステージに上がる。
俺の相手はミッシェルだ。
焼肉屋での因縁がある。
年齢は20代前半くらい。
ギルバート、ジルガ、ドレッドあたりと比べると体格はそれほど大きくない。
ただ、このガルハード杯に出場するくらいだから、実力は確かだ。
「両者構えて、……始め!」
「ふっ。約束通り、ボコボコにしてやろう」
「そう簡単にやられるつもりはない!」
相手は格上なので、待っていても仕方がない。
先手必勝で動きだす。
「はっ! せいっ!」
ガンガン攻撃を繰り出していく。
が、うまく防がれてしまう。
「ほう。悪くない動きだ」
相手のミッシェルがそう言った。
褒められて悪い気分はしない。
ただ、今は試合中だ。
「そりゃどうも!」
さらに攻める。
「だが、付け焼き刃だな。取るに足らん」
彼はそう言って、蹴りを繰り出してきた。
こちらの攻撃時の反動の隙を突いた攻撃だ。
これは回避できない。
「うっ」
モロにくらってしまった。
ステージの端に吹っ飛ばされる。
「さて、ボコボコにしてやるか。降参するなら今のうちだぞ?」
諦めるのはさすがにまだ早い。
とはいえ、技術的にはやはり歯が立ちそうにない。
ここは闘気を惜しみなく使って短期決戦を挑むか。
「はああぁっ!」
闘気を開放する。
「な、何っ!? なんだこの闘気量はっ!? てめえ、素人というのは嘘だったか!」
ステータス操作の恩恵により、俺の闘気術はレベル3に達している。
素人レベルではない。
なめてもらっては困る。
「手加減はしてやれん。残念だがな」
「う……あ……」
ミッシェルはどうようして棒立ちだ。
「見えるか? 本物の闘気が!」
転移者チートをなめるなよ!
とはさすがに口には出さない。
「剛拳流奥義! ビッグ……」
闘気を腕に集中させる。
ミッシェルに近づきつつ、拳を繰り出す。
「バン!!!」
ミッシェルに拳がヒットする。
「ぐっ。ぐああぁっ!」
ミッシェルは何とか棒立ち状態から復帰し、闘気で体を覆って防御の姿勢をとる。
しかし、俺の攻撃を耐えきれない。
彼は弾き飛ばされ、ステージと観客席を隔てる壁に激突する。
「ふん。この技を受けて立った者はいない。勝負ありだ」
俺はバシッと決めゼリフを言う。
まあこの技を試合で使ったのは、今が初めてだけどな。
「ミッシェル選手場外! カウントを取ります! 1……2……3……」
10カウントされれば、場外で俺の勝ちだ。
立つなよ。
絶対に立つなよ。
「ぐ……。はあ、はあ……」
なんと、ミッシェルが立ち上がった。
ステージに戻ってくる。
「ミッシェル選手、試合続行です!」
マジかよ。
「なるほど。かなりの闘気だ。取るに足らんと言ったことは訂正しよう。俺も、2回戦以降に闘気を温存している場合ではなさそうだ」
ミッシェルは闘気を温存していたのか。
まだあれが全力ではなかったと。
「それはどうも。しかし、そのダメージで試合を続けるつもりですか?」
「もちろんだ。勝負は最後までわからない! はっ」
ミッシェルの闘気量が上がった。
「いいでしょう。いきますよ! はあっ」
時間が経てば、少しずつ回復されてしまうだろう。
痛みなどが引かない内に、猛攻をかけて勝負を決めてしまおう。
ラッシュを仕掛ける。
パンチ。
パンチ。
キック。
さらにパンチだ!
「これで終わりだあ!」
止めに闘気を多めに練った一撃。
これで決める!
「……お前は、攻撃がヒットする瞬間にまばたきする癖がある。……ここだ!」
ミッシェルからカウンターが繰り出される。
「がはっ」
モロにくらった。
これは……。
厳しい。
痛い。
立てない。
「そこまで! 勝者ミッシェル選手!」
負けてしまったか。
くそう。
試合が終了したので、自身にキュアをかける。
少し痛みが引いた。
何とか立ち上がれそうだ。
ミッシェルがこちらに来て、手を差し出してくる。
「ふっ。なかなか悪くなかったぞ」
「ああ、ありがとう」
ミッシェルの手を取り、立ち上がる。
「まばたきの癖は、直しておくことだ。冒険者としてもあまりよくない癖だと思うぞ。まあ、一朝一夕で直せるものでもないだろうがな」
「がんばって直すよ」
アドバイスまでもらってしまった。
負けたのは悔しいが、有意義な経験だったのは確かだ。
ミッシェルに対して、技術や精神面で完全に負けていた。
闘気術は通用したが。
闘気術レベル3は強い。
闘気術による身体能力の向上のみで、かなり闘える。
ただ、今回は相手が悪かった。
技術で彼のほうが格段に優れているのに加えて、闘気術もレベル2~3はありそうだ。
ギルバートやジルガあたりも、闘気術のレベルでいえば3ぐらいだと思う。
さらに、一度大きな劣勢になっても諦めない精神力。
俺のラッシュにもひるまず、冷静にスキを見抜く眼力。
ミッシェルは、対人の戦闘力だけでいえば、冒険者ランクCはありそうだ。
俺はすごすごと控え室に戻る。
ミティとアイリスが出迎えてくれた。
いいところを見せられなかったな。
「お疲れ様です。タカシ様」
「いい勝負だったよ。タカシ」
「ありがとう。でも、負けちゃったよ。さすがにかなりレベルが高いね」
俺は決して弱くはないはず。
相手が強すぎただけだ。
しかしそのミッシェルも、ガルハード杯出場者の中では中堅程度。
世界は広い。
「そうですね。私は大丈夫でしょうか……」
「まあ勉強のつもりで気楽にやりなよ。無理してケガしないようにね」
やる気に水を差すかのような投げやりな言葉かもしれないが、本心だ。
ミッション報酬が手に入った時点で目的はほぼ達成してるしな。
「わかりました!」
ミティはそう元気よく返事してくれた。
変に気負いせずに頑張ってくれそうだ。
俺は負けたので、もう試合の出番はない。
控室からも観戦はできる。
敗退した後も、出場選手は控室を利用していいらしい。
そこで残りの試合を観戦することにする。
ミティとアイリスの活躍に期待しよう。
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