68話 選手入場

 今日はいよいよガルハード杯本戦の開催日。

コロシアム会場の控え室で待機しているところだ。

緊張してきた。

ドキドキ。


 まずは出場選手16人が1人ずつステージに上がり、順番に紹介される。

その後は全選手が控室に戻り、各試合が行われていく。

そういう段取りになっている。


「それでは、各選手順番に入場してください。まずはAブロック1番のタカシ選手から……」


 係員の指示に従い、控室から出て、ステージに向かう。


「Aブロック1番! 予選を危なげなく勝ち抜いた期待の新星! 勢いのまま1回戦突破なるか!? Dランク冒険者のタカシ選手!」


 観客席はほぼ満員だ。

この中で闘うのか……。


「緊張する……」



「Aブロック2番! ファウス道場出身! 抜群の精神力で安定した闘いを行います! 若手実力派のミッシェル選手!」


 俺の初戦の対戦相手だ。

焼肉屋で絡んできた因縁の相手でもある。


「ふっ。ボコボコにしてやる」



「Aブロック3番! 水魔法の本家本元が武闘会へ謎の殴り込み! ラスターレイン伯爵家の次男! リルクヴィスト選手!」


 青髪のイケメンがステージに上がる。

筋肉はそれほど付いていなさそうだが、身のこなしは軽やかだ。

しかし、あまりやる気はなさそうだ。

何のために出場したのだろう?


「指令とはいえ、めんどくせえな」 



「Aブロック4番! 難攻不落の巨体! 顔は怖いが、性格は優しいとの情報あり! Dランク冒険者のウッディ選手!」


 大男だ。

身長は2mを超えているだろう。

その上、筋肉もある。

見るからに強そうだ。

それでもDランクということは、スピードや技術がイマイチだったりするのだろうか。


「ウス。がんばるど」



「Bブロック1番! 予選を圧倒的なパワーで勝ち抜いた期待の新人! 外見からは想像もつかない豪腕! Eランク冒険者のミティ選手!」


 俺の愛しいミティだ。

天使のような外見から、想像以上のパワーを発揮する。

予選会では、その意外性もあり、無双できていたが。

こんな紹介をされてしまった以上、警戒されてしまうだろう。

少し厳しい闘いになるかもしれない。


「タカシ様にいいところを見せたいな」



「Bブロック2番! ファウス道場出身! 抜群の機動力で相手を翻弄します! 若手実力派のマーチン選手!」


 ミティの初戦の相手だ。

ミッシェルと同じく、焼肉屋で絡んできた因縁の相手でもある。

機動力重視のスタイルは、ミティにとって相性が悪いかもしれない。

渾身の一撃が入ればワンチャンあるか?


「うふふ。ショータイムよ」



「Bブロック3番! ルビアナ道場出身! ガルハード杯ベスト4常連! ジルガ選手!」


 彼はポージングをしながらステージに上がった。

サイドチェストだ。


「ガハハ! 我が筋肉を見よ!」



「Bブロック4番! 海を超えてはるばる中央大陸からやってきました! 武闘神官見習いのアイリス選手!!」


 アイリスはほとんど緊張していないようだ。

俺よりもはるかに精神力がある。


「メイビス姉さんに一歩近づくためにがんばる!」



「Cブロック1番! 同じく中央大陸からやってきました! 実力は聖ミリアリア統一教会の認定付き! 武闘神官のエドワード選手!」


 エドワードは堂々とした佇まいだ。

強者の雰囲気がある。


「神の導きを……」



「Cブロック2番! 仮面をつけた謎の男! 匿名希望のマスクマン選手!」


 予選会を勝ち抜いていた人だ。

予選会では実力を隠していた。

実力は未知数だ。


「…………」



「Cブロック3番! 東の島国より武者修行中! 秘伝の技が炸裂するか!? Dランク冒険者のサイゾウ選手!」


 名前が忍者っぽいな。

東の島国とか、秘伝の技とか言ってるし。

国名は、まさかワノ国とかヤマト連邦とかじゃないだろうな?

気になる。

外見もちょっと東洋系かな。


「手加減はせぬ」



「Cブロック4番! 神脚の勇者をリスペクト! 足技で魅せます! ディオン道場所属のストラス選手!」


 神脚の勇者とかいう気になる単語が出てきた。

勇者というからにはBランク~Aランクぐらいはありそうだ。

まあこのストラス氏は勇者を尊敬しているだけだから、彼自身の実力はそれよりも劣るだろうが。

ウサギのような耳が生えている。

モニカと同じ、兎獣人のようだ。


「俺様の足技に酔いな」



「Dブロック1番! メルビン道場出身! ガルハード杯ベスト4常連! Cランク冒険者のギルバート選手!」


 ジルガと同じように、ポージングをしながらステージに上がった。

モストマスキュラーだ。


「ガハハ! 今回こそ優勝だ!」



「Dブロック2番! モロゾフ道場出身! 熟練の技を披露します! カタリーナ選手!」


 30代くらいの女性選手がステージに上がる。

これで女性選手は、ミティ、アイリス、カタリーナ氏の3人だ。


「うふふ。成長を見てあげるわ」



「Dブロック3番! 前回のゾルフ杯準優勝者! 闘気術の達人! 雷竜拳のマクセル選手」


 マクセルはリラックスした気楽な様子だ。

ギルバートがライバル視する実力を、見せてもらおう。


「賞金でしばらく遊べるかな」



「Dブロック4番! 強靭な肉体を持つ竜人! Cランク冒険者のラゴラス選手!」


 竜の片翼の副リーダーだ。

竜人は身体能力が高かったりするのだろうか。


「少しは骨のあるやつがいるんだろうな」



 16人の出場選手の紹介が終わった。

いろいろと気になることが多かったが、緊張しているので整理しきれない。


「以上、16人の強者により、熱戦が繰り広げられます! 期待しましょう!」


 司会の人がそう締めくくる。

俺たち選手は、一旦控室に戻される。


 一息つく。

ミッションを確認してみる。

無事に達成扱いになっていた。



ミッション(達成済み)

ゾルフ砦のガルハード杯本戦に出場しよう。

報酬:スキルポイント10



 ミッション報酬でスキルポイント10を受け取る。

今、あせって振るのは避けておこう。

試合を目前に控えている今の精神状態では、適切なスキルの選択ができないからな。


 それに、ミッションを達成できた時点で第一の目的はクリアしている。

無理に武闘関係のスキルを取得することもない。

まあ勝つに越したことはないが。


 しばらく控室で待機する。

この間に、優勝者を予想する賭けが行われるようだ。

昨日の組み合わせ発表の時点より賭けの受付は行われており、もう少しでそれが締め切られるのだ。

観光客などは先ほどの選手紹介を聞いて賭ける選手を決めたりするのだろう。

この街に住んでいて武闘会に詳しい人だと、昨日のうちに賭けを済ませている人もいるかもしれない。


 俺もだれかに賭けてみようかと思ったが、出場選手は賭けに参加できないとのことだった。

残念。

まあ八百長とかを誘発してしまうだろうしな。

仕方がない。


 しばらく待つ。

賭けが締め切られ、倍率の集計が終わったようだ。


 優勝者を的中させたときの賭け金の払い戻し倍率はこんな感じだ。


マクセル     2倍

ギルバート    4倍

ジルガ      4倍

ラゴラス     5倍

ウッディ     6倍

ミッシェル    6倍

ストラス     7倍

マーチン     7倍

エドワード    9倍

サイゾウ    10倍

カタリーナ   11倍

リルクヴィスト 12倍

アイリス    15倍

マスクマン   17倍

タカシ     18倍

ミティ     27倍


Aブロック1番、タカシ。18倍

Aブロック2番、ミッシェル。6倍

Aブロック3番、リルクヴィスト。12倍

Aブロック4番、ウッディ。6倍


Bブロック1番、ミティ。27倍

Bブロック2番、マーチン。7倍

Bブロック3番、ジルガ。4倍

Bブロック4番、アイリス。15倍


Cブロック1番、エドワード。9倍

Cブロック2番、マスクマン。17倍

Cブロック3番、サイゾウ。10倍

Cブロック4番、ストラス。7倍


Dブロック1番、ギルバート。4倍

Dブロック2番、カタリーナ。11倍

Dブロック3番、マクセル。2倍

Dブロック4番、ラゴラス。5倍



 倍率が低いほど、優勝者の予想を的中させたときの見返りが小さい。

いわゆる本命というやつだ。


 逆に、倍率が高いほど、優勝者の予想を的中させたときの見返りが大きい。

いわゆる大穴というやつだ。


 仮に賭けた選手が優勝しなくても、1回戦、2回戦と勝ち進んだ回数に応じて、ある程度の当選金がもらえるシステムになっている。

例えばミティに賭けた場合は、ミティが1回戦を突破した時点でけっこう儲けられるだろう。


 16人の中から優勝者を当てるわけだから、ごく単純に考えれば16倍が基準となる。

そこに1回戦、2回戦と勝ち進んだ回数に応じて支払わる当選金や、胴元への運営手数量などを差し引いて考慮すれば、6~10倍くらいが基準となるはずだ。


 そう考えると、マクセル、ギルバート、ジルガ、ラゴラスの4人が強豪として優勝候補となっていると見てとれる。

ウッディ、ミッシェル、ストラス、マーチン、エドワード、サイゾウの6人は、中堅といったところか。

カタリーナとリルクヴィストは中堅下位。

アイリス、マスクマン、俺、ミティは大穴だ。

まあこの4人は実績に乏しい予選組だしな。

低評価も仕方がない。


 Dブロックは強豪がひしめく魔のブロックだ。

倍率2のマクセルに加え、倍率4のギルバートと倍率5のラゴラスがいる。

シード選手を設定しないからこういうことになるんだ。


 俺のAブロックとミティのBブロックは、ごく平均的なブロックかな。

とはいえ、俺やミティから見れば全員が格上の選手。

かなり厳しい闘いになるだろう。


 Cブロックはやや平均レベルが低いか。

エドワードはくじ運がよかったといえる。

Cブロックを勝ち抜いてベスト4に入るのも、現実的にありそうだ。


 それにしても。

ぐぬぬ。

俺とミティが評価最下位か。

まあ実績もないし低評価も理解はできるのだが。

選手の賭けがOKなら、ミティに大きく賭けた上で、スキルポイントを使って格闘術などを取得するという手が使えたのだけどな。


 救いがあるとすれば、この倍率結果はあくまで観客から見て強そうな順番になっているという点だ。

見かけや印象で判断されただけで、本来の実力から齟齬が出た結果になっている可能性もある。


 Dランク冒険者のウッディが、ごつい体格の印象だけで過大評価されていたりとか。

アイリスやカタリーナが女性というだけで過小評価されていたりとか。

俺やミティが初出場というだけで過小評価されていたりとか。


 加えて、すでにトーナメント表が発表されている上でのこの優勝者予想だ。

組み合わせや相性なども考慮して賭けられているだろう。

この結果は、強さの尺度としてはあくまで目安程度にしかならない


 ただし、もしそうだとしても、ミッシェルとマーチンが中堅の実力を持っているのはほぼ確実だ。

このゾルフ砦を拠点に活動している武闘家のようだし。

焼肉屋での因縁もあるし、最大限の警戒を払って試合に臨まねばなるまい。

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