67話 上層部による選手評

 ガルハード杯主催者控え室。

この部屋では、今回のガルハード杯の視察として有力者が集まっていた。

ガルハード杯出場者に関する情報交換のためである。

武に優れたものや見込みのあるものを各人の組織にスカウトすることも多い。

また、スカウトまでには至らなかったとしても、実力者たちの顔を知っておいて損はない。


 ゾルフ砦守備隊長兼町長、ゾンゲル。

冒険者ギルドのゾルフ支部マスター、テスタロッサ。

鍛冶師ギルドのゾルフ支部マスター、ドノガン。

その他、ゾルフ砦における錚々たる面々が集まっている。


 また、ゾルフ砦の外からの来賓者も多い。

王都にある王立セルリック学園の副学園長、ルーズベルト。

北の魔法学園都市シャマールの1級行政官、シャンディア。

その他、さまざまな組織からの視察者が集まっている。

最も規模の大きい大会であるゾルフ杯には各組織の”長”クラスが来るが、今回のガルハード杯にはさすがに”長”クラスはあまり来ない。

とはいえ、各組織における確かな有力者たちではある。


 そのような面々が、今回のガルハード杯出場者16人について、情報交換をするためにこの部屋に集まっているのである。


 参加者の1人が書類を皆に配る。

出場者16人の情報が記載されている。

こういった調査は彼の役目であった。

情報をただ売りするかのような行動だが、それに対する見返りもきちんとある。

彼らは各組織の実力者であり、その辺りは暗黙の了解で持ちつ持たれつの関係だ。


 書類に目を通しつつ、合わせて口頭でも情報交換が行われる


「今回の参加者も、なかなかに高いレベルの者が集まりました」


「ふむ。悪くないな」


「中央大陸の武闘神官殿も出場するのか。これは見どころだな。最新の戦闘技法を披露してくれるかもしれん」


「昨年度のゾルフ杯準優勝者のマクセル君と、いい勝負をしてくれるかもしれませんね」


「ギルバート、ジルガ、ミッシェル、マーチン。このあたりは常連だな」


「年々成長していますし、マクセル君に一矢報いる者もいるかもしれませんよ」


 各参加者について、情報交換がなされていく。

そして、予選突破者の話題に移っていく。


「ところで、今回の予選の突破者はどのような者たちなのだ?」


「Dランク冒険者のタカシ氏、Eランク冒険者のミティ氏、Eランク冒険者にして武闘神官見習いのアイリス氏、素性不明のマスクマン氏です」


「ふむ。マスクマンについては、データがないため闘いを見るしかないか」


「アイリス氏は、エドワード司祭の部下です。本職は神官ですし、冒険者ランク以上の実力はあるでしょう」


「なるほどな。タカシとミティとやらはどうなのだ? 冒険者ランクは高くはないようだが」


「武闘会での実績もないようです。両名とも2か月ほど前より冒険者として活動し始めたばかりです」


「冒険者としてもほぼ素人同然か? 2人とも聞いたことのない名前だ」


「詳細は書類に目を通してください。とはいえ、彼らについては短時間のため深くは調べられませんでしたが……」


 各人が配られた書類に改めて目を通す。



-----冒険者タカシに関する調査報告書-----


 武闘総合戦闘力:D

スピード   :D

パワー    :D

スタミナ   :C

メンタル   :D

テクニック  :D

闘気     :C


 冒険者総合能力:C

剣術     :C

攻撃魔法   :B

サポート   :D

冒険者ランク :D


 特記事項:

1001年4月上旬にラーグの街の冒険者ギルドにて冒険者登録を行う。

それ以前の経歴は不明。

4月中旬にホワイトタイガー討伐に貢献し、ランクDに昇格する。

その報酬にて別紙記載のミティを奴隷として購入し、以後はともに冒険者として活動している。

5月初旬に拠点をゾルフ砦に移し、メルビン道場にて武闘と闘気術を学んでいる。

わずか1か月で武闘と闘気術を基礎以上に習得しており、メルビン師範の勧めにより予選に参加した模様。

冒険者としても剣術と攻撃魔法は中堅クラスである上、アイテムボックスや索敵能力に秀でているとの情報もあり、Cランク昇格が近いとの見込み。


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「このタカシという者は……、バランスがいい選手ですねぇ」


「悪くねえな。だが本職は冒険者だろう? 今後もこの街にいてくれれば言うことはねえんだがな」


「今後が楽しみなルーキーじゃの」


 彼らはタカシについてそうした評価を下した。

続いて、ミティの書類に目を通す。



-----冒険者ミティに関する調査報告書-----


 武闘総合戦闘力:D

スピード   :E

パワー    :B

スタミナ   :D

メンタル   :E

テクニック  :E

闘気     :C


 冒険者総合能力:D

槌術     :C

投擲術    :C

攻撃魔法   :E

サポート   :E

冒険者ランク :E


 特記事項:

ドワーフの集落であるガロル村出身。

バーヘイル家の長女。

村で何らかの諍いがあり、奴隷落ちした模様。

1001年4月初旬にラーグの街へ移送される。

4月中旬に別紙記載のタカシに購入され、以後はともに冒険者として活動している。

5月初旬に拠点をゾルフ砦に移し、メルビン道場にて武闘と闘気術を学んでいる。

わずか1か月で武闘と闘気術を基礎以上に習得しており、メルビン師範の勧めにより予選に参加した模様。

冒険者としても槌術と投擲術は中堅クラスであり、Dランク昇格が近いとの見込み。


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「こっちの娘は、偏った能力ですねえ」


「普段の冒険者としては、パワーを活かして、ハンマーや石の投擲で魔物を狩っているわけか」


「武闘家としても、力が強いことは驚異的ですよ。闘気術も基礎以上に扱えるようですし」


「まあ身体能力は、さっきのタカシよりも武闘家向きかもな」


「しかしタカシ氏の奴隷ということは、やはりこの街に長くは滞在してもらえなさそうですね」


「ガルハード杯の結果次第では、主人のタカシ氏に大金を渡して彼女を譲ってもらうのも悪くないかもしれません」


「あるいは、主人のタカシごとスカウトするか、だな」


「そうですね。その辺は試合を見ながら考えましょうかね。このメンバーの中にも、スカウト競合者がいるかもしれませんし」


「まずは彼らの1回戦の相手ですが……。おや、これは……」


 彼は書類に目を落とす。

タカシとミティの初戦の対戦相手を知った彼は、肩をすくめた。


「初戦から、酷な相手と当たりましたね」


 彼らは、タカシの初戦の相手であるミッシェルと、ミティの初戦の相手であるマーチンの調査報告書に目を落とす。

そこには、こう書かれてあった。



-----武闘家ミッシェルに関する調査報告書-----


 武闘総合戦闘力:C

スピード   :D

パワー    :B

スタミナ   :C

メンタル   :B

テクニック  :C

闘気     :C


 備考。

ファウス道場門下の若手実力派。

小規模大会の上位常連で、近年は主戦場をガルハード杯に移している。

ガルハード杯上位入賞が当面の目標か。

若手ながらも強靭な肉体能力と抜群の精神力を持つ。

穴があるとすればスピードだが、他の全ての高い能力がそれをカバーしている。


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-----武闘家マーチンに関する調査報告書-----


 武闘総合戦闘力:C

スピード   :B

パワー    :C

スタミナ   :C

メンタル   :D

テクニック  :C

闘気     :C


 備考。

ファウス道場門下の若手実力派。

小規模大会の上位常連で、近年は主戦場をガルハード杯に移している。

ガルハード杯上位入賞が当面の目標か。

他国に留学した経験があり、散桜拳というスピードを活かす流派を習得している。

格下の相手をいたぶる悪癖を持つ。


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