59話 武闘神官見習いアイリスとの出会い
「いくぞ! ミティ!」
「甘いですよ! タカシ様!」
闘気術を取得して数日が経過した。
相変わらず、冒険者稼業を続けつつ、メルビン師範の道場で稽古を積んでいる。
今はミティと試合形式で訓練をしているところだ。
闘気術の使い勝手は良い。
ガルハード杯や今後の冒険者稼業でも役立ちそうと感じたので、俺もミティも闘気術をレベル3まで上げている。
闘気術レベル2は”感知”だった。
自身や人から放出されている闘気を、より正確に感じ取れるようになった。
闘気術レベル3は”集中”だった。
闘気を腕や足などの任意の部位に集中させ、その部位の運動能力や強度を意識的に向上させる技術だ。
先日の小規模大会での決勝戦で、ギルバートとジルガが使っていた技術はこれだろう。
ギルバートは、石でできている闘技場のステージをパンチで砕いていた。
ジルガは、そんなギルバートのパンチを頭部に受けても平気な顔をしていた。
また、両者とも移動速度やジャンプ力などが人間離れしていた。
闘気術の”集中”をうまく使いこなせれば、俺やミティにも彼らのような動きが再現できるかもしれない。
ただし、闘気術にはデメリットもある。
それは、疲れやすい点だ。
闘気術を用いた戦闘は、長期戦には向かない。
今の俺やミティだと、10分くらいが限界だ。
闘気の出力を抑えればもう少し伸ばせられるが。
腕力強化や脚力強化による身体能力の向上は半恒常的だ。
さすがに長期間寝たきりとかだと衰えるかもしれないが。
そういう極端な場合を除けば、これらのスキルはパッシブスキルと言える。
対して、闘気術による身体能力の向上は時間制限があり、このスキルはアクティブスキルと言える。
武闘会など、強敵との一騎打ちのような状況を想定するならば、闘気術が有用だ。
一方で、普段の冒険者稼業など、あまり強くない魔物の相手を想定するならば、腕力強化や脚力強化のような基礎ステータス向上系のスキルが有用だ。
結局は、バランス良くスキルを取得していくのが良さそうか。
器用貧乏になる恐れもあるが。
死にさえしなければ、ステータスリセットもある。
レベリング効率と安全度を優先して、バランス良くスキルを取得していく方針で問題ないだろう。
あと、ミティには遅れをとったが俺も格闘術レベル1を習得した。
ミティにせよ俺にせよ、技術を吸収するスピードが速いと感じる。
天才だと自惚れるつもりはない。
ステータス操作以外にも、なんらかの成長補正チートのような恩恵を受けているのもしれない。
俺やミティにとってはいいことなので問題はないが。
ちなみに俺もミティも、残りのスキルポイント5は保留の状態だ。
様子をみつつ格闘術をレベル2に上げるか、今後スキルポイントを入手したときに合わせて使用していきたい。
俺とミティのステータス画面はこんな感じだ。
レベル13、たかし
種族:ヒューマン
職業:剣士
ランク:D
HP: 99(76+23)
MP:125(50+75)
腕力: 51(39+12)
脚力: 48(37+11)
体力:101(44+13+44)
器用: 55(42+13)
魔力: 90(45+45)
武器:アイアンソード
防具:レザーアーマー(上)、スモールシールド
残りスキルポイント5
スキル:
ステータス操作
スキルリセット
加護付与
異世界言語
剣術レベル3
格闘術レベル1
回避術レベル1
気配察知レベル2
MP強化レベル3
体力強化レベル2
魔力強化レベル2
肉体強化レベル3
闘気術レベル3 「開放、感知、集中」
火魔法レベル5 「ファイアーボール、ファイアーアロー、ファイアートルネード、ボルカニックフレイム、火魔法創造 “三本桜” “バーンアウト”」
水魔法レベル1 「ウォーターボール」
風魔法レベル1 「エアバースト」
治療魔法レベル1 「キュア」
空間魔法レベル2 「アイテムボックス、アイテムルーム」
MP消費量減少レベル2
MP回復速度強化レベル1
称号:
犬狩り
ホワイトタイガー討伐者
レベル11、ミティ
種族:ドワーフ
職業:槌士
ランク:E
HP: 83(64+19)
MP: 47(36+11)
腕力:171(61+18+92)
脚力: 39(30+9)
体力: 78(43+13+22)
器用: 30(13+4+13)
魔力: 46(35+11)
武器:ストーンハンマー
防具:レザーアーマー
その他:アイテムバッグ
残りスキルポイント5
スキル:
槌術レベル3
格闘術レベル1
投擲術レベル3
体力強化レベル1
腕力強化レベル3
器用強化レベル2
闘気術レベル3 「開放、感知、集中」
MP回復速度強化レベル1
称号:
タカシの加護を受けし者
ミティとの試合形式での訓練を終え、一息つく。
武闘の基礎は習得したし、闘気術も習得した。
あとは、練度を向上させつつ、試合慣れをしていく方針となっている。
「タカシとミティ! お前たち2人とも、見事に闘気術の基礎を習得したな! ……というより、飲み込みが早すぎて驚いたぞ! まさか2週間でここまで闘気術をものにするとはな!」
「いえ、師範の教えのおかげです」
とりあえず謙遜しておく。
「お前たちの成長を見込んで、提案がある! 2週間ほど後にある、6月のガルハード杯へ出場してみないか!? 予選からの参加となるが!」
ガルハード杯か。
ミッションの件もあるし、もともと予選に出場したいと考えていた。
「いいですね。腕試しをしてみたいです。ミティも出るよな?」
「もちろん、参加させていただきます!」
「うむ! いい返事が聞けてうれしいぞ!」
メルビン師範が満足気にうなずく。
「今後の方針だが、ミティはこの後もワシが訓練を見る! もしかすると、予選突破だけでなく上位入賞も狙えるかもしれん逸材だ!」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「私は?」
「タカシはミティと比べるとパワーは落ちるが、身のこなしは上だ。鍛えればミティと同じく上位入賞も狙える。だが、お前の本職は冒険者で、剣と聞いている」
「それはその通りですが」
「そこでだ。お前たちに紹介したいやつが3人いる!」
3人の男女が歩いてきて、メルビン師範の横に立った。
1人は、30代くらいの男。
髪は赤い。
剣を持っているので、剣士だろう。
1人は、40代くらいの男。
落ち着いた雰囲気をしている。
身長は高い。
神官のような服を着ている。
筋肉がムキムキなのが、神官服の上からでもわかる。
1人は、10代後半くらいの少女。
ボーイッシュな感じだ。
髪はショートで銀色。
彼女も、神官のような服を着ている。
なかなか引き締まった体つきをしている。
剣士の男が口を開く。
「氷炎魔剣流準師範、炎魔剣のビスカチオだ。ここへは観光にきただけだが……。見どころのあるやつがいると聞いてな」
氷炎魔剣流とやらの使い手だそうだ。
何やら強そうな名前の流派だな。
「冒険者ギルドに登録してからわずか半月でDランク昇格し、犬狩りの二つ名を得る。剣術に加えて、火魔法中級と水魔法初級を扱える。さらに、闘気術の中級までを2週間で習得。凄まじい才能だ」
べた褒めじゃねえか。
照れるね。
実際には、さらに火魔法上級や風魔法初級も使えるけどな。
……まあチートのおかげだが。
「俺から剣の指導を受けてみないか? 指導料は出世払いでいい。その代わり、武闘としての闘気術の訓練は少し減らしてもらうが」
どうなんだろう?
闘気術の訓練が減るのは、結構痛い気がする。
うーん。
「ビスカチオの腕はワシが保証する! タカシの才能も稀有だ! 双方にとってメリットのある師弟関係になるだろう!」
俺が悩んでいるのを見てか、メルビン師範がこう助言してきた。
メルビン師範がこうまで言うからには、このビスカチオという人の実力もかなりのものなのだろう。
指導料は出世払いでいいということだし、剣の指導を受けてみるか。
「そうですね……。では、指導を受けてみたいと思います」
ビスカチオが嬉しそうな顔をする。
「よかろう。では、明日の朝から指導を始める。ここに来るように」
「わかりました」
「うむ! 話がまとまってよかった!」
メルビン師範が満足そうにうなずく。
次に、彼は神官風の男に視線をやる。
神官風の男が口を開く。
「私は聖ミリアリア統一教会の武闘神官である、司祭のエドワードだ。こっちは見習いのアイリス」
「ボクがアイリスだよ。よろしくー」
ボーイッシュな少女……アイリスが気安い感じで挨拶をしてくる。
「タカシです。はじめまして」
「私は聖ミリアリア統一教の布教のため、この新大陸を巡っていてね。武闘会にも、教会の知名度を上げるために出場予定なんだ」
「そうですか」
ふむ。
このエドワードという人は、体格もいいし、強そうな感じがする。
ギルバートやジルガにも引けを取らないかもしれない。
「ボクは見習いとして、見聞を広めるためにエドワード司祭に同行しているんだ」
アイリスは見習いと言っていたし、エドワードよりは実力は劣ると思われる。
「彼女の見習い修行の1つとして、この街で他流派の武闘の経験を積ませておきたい。縁のあるメルビン氏にしばらく預けることにしたのだ」
「そういうわけだ! 年も近いし、タカシ、ミティ、アイリスの3人合同で訓練していくぞ! いい刺激になるだろう! まあタカシは、ビスカチオとの訓練もあるが!」
メルビン師範がそう締めくくる。
なるほど。
そういうことか。
「タカシ君とミティ君は、アイリスとの合同訓練になっても構わないかな?」
エドワードがそう問いかけてくる。
俺とミティの2人だけの訓練では、イマイチ新しい刺激がなくマンネリ気味だった。
アイリスが訓練に加われば、メルビン師範の言う通り、いい刺激になるかもしれない。
まあメルビン師範の教え方はうまいし、決して上達が滞っていたわけでもないが。
「私は構いませんよ。ミティもいいよな?」
「私も問題ありません」
「じゃあ、そういうことで。よろしくー。タカシとミティ」
「こちらこそよろしくお願いします」
「よろしくお願いします、アイリスさん」
アイリスを加えての訓練が始まる。
新しく学べることもあるだろう。
楽しみだ!
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