49話 道中で立ち寄った村でのリトルベア討伐依頼

 ゾルフ砦に向けて出発してから、数日が経った。


 今は、補給と商品の売買のため、村に寄っているところだ。

少し小さめの村だ。

規模は100人いるかいないか。


 こんな小さな村で、補給や商売が成り立つのだろうか。

と思っていたが、成り立つようだ。


 この隊商は、ゾルフ砦に向かう度に、この村に寄っているのだそうだ。

そのため、隊商に売る用に、村で収穫した食料を保存している。

食料を売ったお金で、村では作れないような農工具や狩猟用の武器などを購入する。

なるほど、うまくできている。


 この村の滞在予定時間は、今までのように1~2時間程度だ。

さほどすることもない。

どのように時間を潰したものか。


「ふう。ずっとじっとしているのも、退屈で疲れるものだな。ミティはだいじょうぶか?」


「はい、問題ありません。ですが、おっしゃる通り少し退屈ですね。何か魔物でも狩りたい気分です」


 結構好戦的だな。

まあこの数日、ひたすら馬車に揺られているだけだしなあ。

ミティはたまに腕立て伏せとかをしていたが。


「そうだな。少しだけ時間もあるし、その辺をぶらついてみようか?」


「そうしましょう」


 村の外に向けて歩きだす。

あまり遠出して迷ったらやばい。

最悪、隊商に置いていかれる可能性もある。


 あくまで散歩みたいなものだ。

遠くまでは行かない。


 村の出口まで来たら、同行してきたパーティの一部が集まっていた。

ギルバートをはじめとする“漢の拳”。

エレナをはじめとする“三日月の舞”。

そしてハルトマンの姿もある。


「みなさん、どうされたのですか?」


 とりあえずハルトマンに声をかける。


「ああ、タカシ。村長に魔物討伐を依頼されたんだ」


「へえ。今から出発するところですか? 私たちも同行しても?」


 ちょうどいい。

俺とミティも同行したい。


「ああ、それはたぶん構わないと思うけど、それよりも今は隊商の許可待ちだね」


「許可待ち?」


「今も一応、護衛任務の最中だからね。護衛者が一時的にでも無断で村を離れて、その隙に村に停泊中の隊商が魔物や盗賊に襲われるかもしれない。もしくは、勝手に受けた依頼でケガをして、その後の護衛任務に支障が出たりする可能性もある」


「なるほど。護衛任務を受けている間は、自分の判断ではうかつな真似をしてはいけないわけですか」


「そういうことだ。今、村長やベルモンドさんらが相談と交渉をしているはずだよ」


 そういうことなら待つしかないか。

できれば許可が下りて欲しい。


 久しぶりに体を動かしたいのもあるが、何よりも人の戦闘を観察したい。


 “漢の拳”は、おそらく肉弾戦闘だろう。

素手で攻撃するという珍しい光景が見られるかもしれない。

さすがに素手ではなかったとしても、例えばメリケンサック的な武器があるかも。

あるいは、巨大な剣やハンマーといったところか。

いずれにせよ、ミティの戦闘方法の参考になりそうだ。


 “三日月の舞”は、パーティメンバーの5人のうち3人が魔法使いだと言っていた。

範囲魔法が得意らしいので、少なくとも中位の魔法使いではあるだろう。

俺の火魔法でいうところの”ファイアートルネード”あたりが使われるかもしれない。

ぜひ見てみたい。


 そんなことを考えながらしばらく待つ。

ベルモンドとグズマンがやって来た。

近くに村長らしき人もいる。


 ベルモンドが口を開く。


「こちらの村長から、近くに巣くう魔物を間引きして欲しいとの依頼があった。この依頼を受けるかどうかは、冒険者諸君の判断に任せたいと思う」


 許可が下りた。

まあ僻地にある村とは言え、それなりに人口のある村だ。

少々村から冒険者がいなくなったところで、すぐにどうこうというわけでもあるまい。

そもそも、そんなに魔物や盗賊から狙われやすい村ならば、とっくの昔に襲われているはずだしな。


 ベルモンドに続き、グズマンが口を開く。


「念のため、最低限の護衛として、俺たち“竜の片翼”はこの村で待機しようと思う。君たちは、今後の護衛任務に支障の出ないように注意して、魔物を討伐にあたってくれ」


 次に、村長らしき人物が口を開く。


「さて、肝心の討伐して欲しい魔物じゃが、リトルベアじゃ。今までは見かけたら刺激しないように立ち去ることで何とかなってきていたんじゃがの。最近、数が増えておるのじゃ」


 リトルベアか。

西の森で見かけたことはあるが。

狩ったことはないな。

ドレッドたちはリトルベアとの戦闘を避けていたし、強敵なのは間違いない。


「幸い今のところ人的被害は出ておらんが、それも時間の問題じゃ。放っておくと、ミドルベアが生まれてしまう可能性もある。数匹でも構わんので、リトルベアの数を減らして欲しい」


 それを受けて、エレナが口を開く。


「なるほどね。それで、報奨金はいくらなの? 他の魔物も討伐しても?」


「報奨金は1匹討伐につき金貨30枚を出そう。他の魔物は、クレイジーラビット、クイックマリモ、インテリゴリラがいる。こいつらは村にとってそれほど害はないので、報奨金はなしとさせてもらう。リトルベアの討伐を優先して欲しい」


「そう。わかったわ」


 この依頼の報奨金とは別に、貰えるものがある。

ギルドの討伐報酬と、素材を売り払ったときの報酬だ。


 だが、ギルドの討伐報酬は、無条件で貰えるものでもなかったはず。

細かい規則は覚えていないが、このような僻地で狩った魔物の討伐報酬は、ラーグの街やゾルフ砦で受け取ることはできない……ということになっていたと思う。


 素材の売却も、ここでリトルベア素材の需要がどれほどあるか……。

ベルモンドさんか他の商人に売ってしまうか、自分で次の街まで持っていって売るか。

アイテムルームが使える俺なら、後者を選択できる。

使えない人でも、アイテムバッグを持っていれば後者を選択できるだろう。

Cランクパーティである彼らがアイテムバッグを所有しているかどうかも、観察しておきたいところだ。


 基本的には、ギルドの討伐報酬も素材の売却報酬も、それほど期待できない。

村から出る討伐報酬の金貨30枚に期待だ。

さらに言えば、借金もあるし金貨30枚はもちろん欲しいが、それよりもレベル上げが肝要だ。

リトルベアは、ゴブリンやクレイジーラビットよりもワンランク上の魔物だし、経験値にも期待できるだろう。


 俺とミティの2人では心もとないので、他のパーティと合同で討伐したい。

特にDランクパーティは、俺と同じような不安を抱えているはず。

ハルトマンあたりに声をかけてみるか。

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