36話 火魔法の詠唱文言の検証とタカシのレベルアップ

 北の草原での狩りを再開する。

ミティもいっしょだ。

西の森が閉鎖されているから仕方ないとはいえ、ファイティングドッグの狩りはあまり効率が良くないのが気にかかる。


 第一に、戦闘経験という点。

もはやファイティングドッグとの通常の戦闘では、学べるところがほとんどないように感じる。


 第二に、レベリングという点。

ファイティングドッグから入る経験値では、極めて効率が悪いように感じる。

さきほどミティのレベルが上がったところだが、次にレベルが上がるまでかなりの日数を要するだろう。


 第三に、報奨金という点。

ファイティングドッグは討伐報酬も買取報酬も低めだ。

数をこなせるからある程度の収入にはなるが、西の森での収入とは比べるべくもない。


 ファイティングドッグ狩りに何か変化をつけられないだろうか?

……魔法を使ってみるか。

今までは、犬狩りに魔法を使っていなかった。

たかが犬を狩るのに、魔法を使うのはもったいない気がしていたのだ。


 しかし、練習として考えるならば、魔法を使うのも有りだろう。

いくつか試してみたいことがある。



 俺は日本にいたとき、ファンタジー小説をよく読んでいた。

ファンタジー小説では、魔法が登場することが多い。

現実では存在しないような超常の現象を引き起こすものだ。


 しかし、作品ごとに少しずつ細かな設定が異なることも多い。


 代表的なものとして、呪文詠唱の扱いが挙げられるだろう。

魔法の発動に詠唱が必須なパターンと、そうではないパターン。


 詠唱が必須であるパターンのうちでも、詠唱内容が定まっている場合と、各自が自分でオリジナルの詠唱を考える場合がある。

また、口に出して唱える場合もあれば、この世界の俺のように心の中で唱えるだけの場合もある。


 数人で魔法陣を囲んで、合同で詠唱するようなパターンもある。


 今まで俺は、心の中で詠唱し、最後に魔法名を叫んで軽くアクションを起こすことで魔法を行使してきた。

ガチの長い詠唱を声に出して魔法を使ってみようか。

何か変わるかもしれない。


「炎よ燃えよ。我が求めに応じ、火玉を打ち出せ! ファイアーボール!」


 普通のファイアーボールが飛んで行った。

特に威力が向上したりはしないようだ。


 なんとなくミティが冷たい視線で俺を見ている気がする。


 やべ。

確かに、いきなりこんなことを始めたら、ただの変人だ。


 説明しておこう。


「いや、呪文の詠唱をしたら何かが変わるかと思って、試しているんだ」


「なるほど。そうでしたか」


 ミティの視線が心なしか和らいだ気がする。


「ミティは何か呪文詠唱について知ってる?」


「私もあまり詳しくはありませんが……。詠唱に決まった文言はないと聞いたことがあります」


「そうなんだ」


「各人が自身に適した、イメージのしやすい言葉を探すのだとか。また、魔法の流派によっては特定の文言が推奨されているそうです」


「なるほど」


 しかし、俺が先ほど詠唱した文言は、火魔法の習得時に頭に浮かんできたものだ。

てっきりこれしかないと思っていた。

あとは、実際に口に出すか、心の中で詠唱するか。

その違いだけだと思っていたが。


 詠唱の文言が自由に定められるとなると、最も自分に適したものを探すだけでも一苦労だ。

まあ、今の文言でも、ある程度の威力はあるから、大きな問題はないが。

できれば、より自分に合った文言を探しておきたいところではある。


 文言のイメージは、実際の魔法の威力や範囲にも影響を及ぼすだろう。

ファイアートルネードを使用する際、文言はそのままにイメージを変えるだけで、ある程度は威力や範囲を操作することができた。

文言を変えることで、よりイメージがし易くなり、より細かで確実な魔法の調整ができるようになる可能性が高い。


 ものは試しだ。

実際にやってみよう。


「ゴホン! ミティ。魔法の詠唱をいろいろと試す。冷たい目で見ないように」


「? わかりました」


 いくぞ。


「よく見ておけ。これがタカシ様のファイアーボールだ!」


「くらいやがれ! ファイアーアロー!」


「万象一切灰塵となせ。ファイアートルネード!」


「契約に従い我に従え炎の精霊。全てを燃やす灼熱の渦よ。罪ありし者を死の塵に。ファイアートルネード!」


「火よ来たれ。渦巻く螺旋。ファイアートルネード!」


「光の域に加速して。滅殺、ボルカニックフレイム」


「強靭! 無敵! 最強! 滅びのボルカニックフレイム!」


 …………。

漫画やアニメのイメージを拝借し、アレンジして試してみたが、結果はイマイチだった。

なぜだろうか?


 漫画やアニメの方のイメージが強すぎて、上手く再現できないのだろうか?

俺の魔力のステータス値が足りないとか?

もしくは、自分で考えた文言じゃないと、本当の意味でイメージしやすいとは言えないのかもしれない。


 少しは自分で考えてみようか。


「炎の玉よ。敵を撃て。ファイアーボール!」


「火よ灯れ。ファイアーボール」


「敵を撃て。ファイアーボール!」


「炎の聖霊よ。我が求めに応じ敵を撃ちぬけ。ファイアーアロー!」


「揺蕩う炎の聖霊よ。我が求めに応じ、燃える竜巻を顕現させたまえ。ファイアートルネード!」


 俺のボキャブラリーではあまり良い呪文を思いつくことができなかった。

しかしそれでも一応いろいろ試してみた。

その結果、それなりの収穫があった。


 詠唱の文言によって、魔法の威力や様態を変化させることができることを確認した。

厳密に言えば、文言はそのままでも、詠唱時のイメージを変化させるだけでも、ある程度は威力や様態を変えることはできる。

しかし、文言自体を変えることにより、よりはっきりと違いがでる。

おそらく、実際に言葉にすることによって、よりイメージがしやすくなっているのだと思われる。


 まあ結局は、俺のイメージ力の問題なわけだが。

俺のイメージ力がもっとあれば、文言を使い分けることなく、いろいろな魔法を行使できたはずだ。

あるいは、魔力のステータスの高低も関係あるかもしれない。

レベルアップの度に、火魔法の応用力や空間魔法の容量などが向上しているように感じる。

今後スキルポイントに余裕ができたら、検証を兼ねて魔力強化のスキルを取得するのも良さそうだ。


 その後もいろいろと試しつつ、たくさんのファイティングドッグを狩った。

そろそろ狩りを終えようかというときに、俺のレベルが上がった。

これでレベル12だ。


 長かった。

日数にして、ちょうど1週間かかった。

レベルが10から11に上がったのは、“荒ぶる爪”との狩り勝負の2日目だ。


 あれから、いろいろと経験してきた。

狩り勝負3日目のスメリーモンキー討伐。

食事会の前日と当日に、西の森での狩り。

ミティとの模擬試合。

そして今日の魔法練習。


 魔物自体の討伐数は、決して多くはない。

スメリーモンキーも、戦闘力という点では苦戦するような敵ではなかった。


 それなのにレベルが上がったということは、模擬試合や魔法練習あたりで経験値を稼げたということだろうか。

確かに、実際の感覚としても、格下の魔物を適当に戦っているよりも、成長できているという感じはする。


 ただやみくもに討伐しまくるのではなく、自分が試したことのない戦闘方法を試していくことも大切ということだろう。

今後も機会があれば、新しいことに挑戦していきたいところだ。


 さて、レベルアップ自体の考察はこの辺でいいだろう。

待ちに待ったレベルアップだ。

これで火魔法をレベル5にできる。

そしてミッション報酬を手にすることができる。


 今日はもう夕方だ。

宿に帰り、落ち着いた状態でスキルを上げることにしよう。


「ミティ。今日はここまでにしようか」


「わかりました」


「夕食はモニカのラビット亭に行こう」


「いいですね。肉料理を食べましょう!」


 明日は夕方に護衛依頼の顔合わせがある。

午前中に、火魔法レベル5や新しい道具などの試運転を済ませておくことにしよう。



レベル12、たかし

種族:ヒューマン

職業:剣士

ランク:D

HP:92(71+21)

MP:115(46+69)

腕力:44(34+10)

脚力:43(33+10)

体力:94(41+12+41)

器用:51(39+12)

魔力:84(42+42)


武器:ショートソード

防具:レザーアーマー、スモールシールド


残りスキルポイント30

スキル:

ステータス操作

スキルリセット

加護付与

異世界言語

剣術レベル3

回避術レベル1

気配察知レベル2

MP強化レベル3

体力強化レベル2

魔力強化レベル2

肉体強化レベル3

火魔法レベル4 「ファイアーボール、ファイアーアロー、ファイアートルネード、ボルカニックフレイム」

水魔法レベル1 「ウォーターボール」

空間魔法レベル2 「アイテムボックス、アイテムルーム」

MP消費量減少レベル2

MP回復速度強化レベル1


称号:

犬狩り

ホワイトタイガー討伐者



未達成のミッション:


ミッション(期間限定)

ゾルフ砦の防衛に加勢しよう。

報酬:スキルポイント20


ミッション

竜種を1頭討伐しよう。

報酬:スキルポイント20


ミッション

どれか1つのスキルをレベル5にしよう。

報酬:中級者用の装備等一式、スキルポイント20

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