11話 西の森への遠征

明朝、西の門で3人と合流する。


「おうタカシ。なかなか早いじゃねェか。この食料と野営道具をアイテムルームに入れてくれ」


ドレッドに言われた通りにアイテムルームに詰め込んだ。

天幕はやや大きいが、全体的にそれほど量はない。

まだまだアイテムルームに空きはある。


「あら、まだ入るの? じゃあこれも入れてちょうだい」


余裕な顔をしていると、ユナに矢の収納を頼まれた。

2日目以降の分で、今日は使わないらしい。


「…………これも頼む」


さらにはジークからも収納を頼まれた。

替えの革製の鎧だそうだ。


荷物を追加されたが、まだ余裕はある。

アイテムルーム発動分で常時消費するMPよりも、自然回復するMPのほうが多い。



しばらくして周囲を見ると、他にもパーティが2組集まっていた。

4人パーティと5人パーティだ。


出発前に自己紹介タイムが始まった。

個人的には苦手なのだが、やらないわけにもいかない。


まずはうちのパーティからだ。


「“赤き大牙”のリーダー、ドレッドだ。俺の武器はこの大剣だ」


「ユナよ。弓を使うわ」


「…………ジークだ。盾で攻撃を引き付ける」


「タカシです。剣で戦いますが、火魔法も少し使えます」


アイテムルームのことはわざわざ言う必要もないだろう。

どうせこのパーティの分しか運べないし。

火魔法のことは隠さずに話しておいた。

どうどうと使ってガンガンレベルを上げていきたい。


他のパーティの自己紹介も始まった。


4人パーティはDランクの“黒色の旋風”。

20代の男達のパーティだ。

3人が剣士で、黒みがかった鎧を着ている。

1人はポーターだ。

大きなバッグを背負い、簡易の荷車も用意している。


5人パーティはCランクの“蒼穹の担い手”。

男3人と女2人だ。

リーダーの男は30代くらい。

Cランクで、槍を使う。

女の1人もCランクで、中位の水魔法を使えるらしい。


全員の自己紹介が終わったところで、それぞれのリーダーが集まって何か相談している。

どうやら隊列を決めているらしい。


最も戦闘能力の高い“蒼穹の担い手”が先頭。

パーティバランスの良い“赤き大牙”が中央。

そして“黒色の旋風”が後方。

こういうことになった。


森への移動を開始する。

パーティ間の間隔は数十メートルといったところか。


道中にも数匹魔物が現れたが、問題なく討伐された。

2時間ほど歩き、ようやく森の端に入る。

森の中に野営に適した場所があり、まずはそこを目指すようだ。


魔物との遭遇が増えてきた。


ほとんどの魔物は先頭の“蒼穹の担い手”によって無事討伐されている。

彼らはアイテムバッグを所有しているようだ。

素材のほとんどを収納していく。

あまり金になりそうな部位は残されていない。

あわよくば残り物を俺が頂いておこうかと思ったのだが、残念だ。


「戦闘が少ないからって油断すんじゃねェぞ。脇からの襲撃もある」


ドレッドにそう注意される。

しばらく歩いていると、横の茂みからゴブリンが2匹跳びだしてきた。


「さっき“蒼穹”が戦っていた残党かしらね。2匹程度大したことはないわ」


「ちょうどいい。1匹はタカシが戦ってみろ。もう1匹は俺が倒しておくから」


ゴブリンとの初戦闘だ。

見た目が人型なので、ファイティングドッグとはまた違った緊張感がある。

手には木の棍棒を持ち、こちらの様子を伺っている。


よし、相手が動かない内に、火魔法を使ってみよう。

MPにもまだまだ余裕がある。


心の中で詠唱を開始する。

右手を前方にかざし魔法を発動させる。


「ファイアーボール!」


手のひらあたりから火の玉が発射される。

速度は、うーん……まあまあかな。

時速60kmってところか。

油断してたら当たるが、注意してたら避けられてしまいそうだ。


幸い、ゴブリンには当たった。

熱で苦しんでいる様子だが、1発では倒し切れないようだ。

ま、ちょっと距離があったしな。


続けて心の中で詠唱を開始する。

右手の人差し指を前方に伸ばし魔法を発動させる。


「ファイアーアロー!」


指先あたりから火の矢が発射される。

速度はファイアーボールよりも格段に速い。

ゴブリンに見事に命中し、動かなくなった。


ちなみに、発声や手の形はただのイメージ補助だ。

しようと思えば、無言でも剣を構えたままでも問題なく発動できるはずだ。

多少安定感は落ちるが。


周囲を見てみると、ドレッドの戦闘も終わっていたようだ。


「ほう。なかなかの火魔法じゃねェか。それに加えて剣とアイテムルームも使えるとはな」


「ふふん。なかなかの才能ね。ちゃんとアイテムボックスの分のMPは温存しておきなさいよ?」


MPが少しだけ減った感覚がある。

ファイアーボールとファイアーアローの燃費はなかなか良さそうだ。

しかし念のため、しばらくは剣で戦うことにしよう。


その後も数回ゴブリンとの戦闘があった。

クレイジーラビットとは遭遇しなかった。


昼をいくらか過ぎたころに、野営地に到着した。

リーダー達が何やら相談している。

少し離れたところで待機していると、ユナからこう説明された。


「ここを拠点に5日間狩りをするのよ。アイテムボックスのMPがきつければここに出しておけばいいわ。日中は、日替わりで1組のパーティが野営地の番をして、他のパーティは自由に狩りね。夜は協力して夜警。たぶん今ごろ詳しく詰めているんじゃないかしら」


しばらくしてドレッドがこちらに来た。


「夜警について話してきた。各パーティを3組に分けて、分担して警戒にあたる」


詳しい説明を受ける。

整理すると、こんな感じだ。


最初は、蒼穹2人・大牙1人・旋風1人。

次に、蒼穹2人・大牙1人・旋風1人。

最後に、蒼穹1人・大牙2人・旋風1人。


旋風のポーターの人は免除らしい。

どうせ戦えないしな。


軽く腹ごなしをしてから、俺達4人は狩りに出かける。

蒼穹の担い手は、野営地に残るようだ。


しばらく散策し、クレイジーラビットと遭遇した。

可愛らしい生き物だ。

あんまりクレイジーという感じはしない。


「可愛いからって油断したらダメよ。毎年死傷者も出てるんだから」


ユナがそう忠告してくる。


「…………我に任せよ」


ジークが1匹に攻撃を加えた。

するとたちまち、クレイジーラビット達は凶暴で狂ったような顔つきになった。

一斉にジークのもとに向かい、攻撃を加えている。

なるほど、確かにこれはクレイジーだ。

俺が襲われたらと思うと、恐ろしい。


「おう。ボサっとすんじゃねェ。ジークが攻撃を引き付けている今のうちだ」


ジークの周りに殺到しているクレイジーラビットをどんどん討伐していく。

こちらが攻撃を加えてもほとんど見向きもしない。

ひたすらジークを攻撃している。


無事に全て討伐を終えた。

途中でレベルが7に上がった。


ジークを見ると、金属鎧のあちこちに新たな傷ができている。

体に大きな傷はなさそうだが、息があがって疲れている様子だ。


「おう。ジークよくやったな。体は大丈夫か?」


「…………問題ない」


「ふふん。私が数をずいぶん減らしたからね。タカシ、クレイジーラビットの死体をアイテムルームに収納しておいてちょうだい」


クレイジーラビットを収納していく。

恐ろしい形相で死んでいる。

今にも動きだしそうな気配すら感じる。

怖いのでさくさく入れていく。


「今日の狩りはそろそろ終わりにするか。薄暗くなってきやがった。夜の森は段違いに危ねェ。早めに切り上げよう」


「そうね。ジークも疲れているだろうし。初日から無理する必要はないわ」


野営地に戻ってきた。

黒色の旋風もほぼ同時だ。

蒼穹の担い手が出迎えてくれた。


夕飯を食べて横になる。

俺の夜警の担当は最後だ。

それまではゆっくりと寝ておこう。


おっと、その前にスキル振りだ。

今のスキルポイントは20。


「MP強化レベル3」「MP消費量減少レベル1」「MP回復速度強化レベル1」「火魔法レベル3」。

候補はこのあたりだ。

消費するスキルポイントはすべて10。


少し考え、「MP消費量減少レベル1」と「火魔法レベル3」を取得した。


MP消費量減少レベル1は、3分の1の減少量のようだ。

つまり、本来MPを9ほど消費する魔法を発動する場合、このスキルを持っていると6で済むというわけだ。


火魔法レベル3は、「ファイアートルネード」。

指定した点に、5m×5m×10mくらいの火の竜巻を発生させる。

指定する点は、あまり自身から遠くにはできない。


高さのある攻撃だ。

ヘタをしたら森林火災になりそうだな。

使いどころは考えないと。

威力は高いが、消費MPが大きい。

範囲と威力は、多少は自分で制御できるようだ。


MP消費量減少のスキルにより、MPに余裕ができた。

明日はファイアートルネードでどんどんゴブリンを討伐していくのが理想だ。



レベル7、たかし

種族:ヒューマン

職業:剣士

ランク:E

HP:57(44+13)

MP:60(30+30)

腕力:26(20+6)

脚力:25(19+6)

体力:62(27+8+27)

器用:31(24+7)

魔力:27


武器:ショートソード

防具:レザーアーマー、スモールシールド


残りスキルポイント0

スキル:

ステータス操作

スキルリセット

加護付与

異世界言語

剣術レベル3

回避術レベル1

MP強化レベル2

体力強化レベル2

肉体強化レベル3

火魔法レベル3 「ファイアーボール、ファイアーアロー、ファイアートルネード」

水魔法レベル1 「ウォーターボール」

空間魔法レベル2 「アイテムボックス、アイテムルーム」

MP消費量減少レベル1


称号:犬狩り

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