9話 金貨400枚の道も1歩から

奴隷商館に行った次の日から、俺はひたすら犬狩りをした。


初日は、銀貨9枚の報酬だった。

剣術レベルが3になった恩恵は大きい。

攻撃自体が強化されるのではなく、剣さばきが上手くなった感じだ。

多少くずされた体勢からでも反撃できる。

戦闘に柔軟性が生まれた。


ただし、その分体力の消耗も激しくなった。

体力強化を取っておいて正解だ。


肉体強化は相変わらず影が薄い。

回避術のおかげで敵の攻撃はほとんど当たらないが、油断は禁物だ。


新しいスキルが体にしっかりと馴染めば、もっといける。

その確信と共にギルドへ戻る。


俺がアイテムルームを使えることに、受付嬢は驚いた様子だった。

俺が適当にはぐらかすと、あまり深くは追及してこない。

冒険者個人の情報を詮索し過ぎるのも良くないとの判断か。



2日目は、金貨1枚と銀貨3枚の報酬だった。


スキルが体に馴染んできた実感がある。

特に影響が大きいのが剣術スキルだ。

実戦を重ねて、剣術スキルとはどういうものなのか、少しずつ分かってきた。


日本の格闘ゲームで例えよう。

剣術スキルがあると、「各技のコマンド入力」が簡単になるようなイメージだ。

「左・左下・下・A・B」という順の入力で発動する技があったとする。

剣術スキルを持たない普通のキャラだと「左・左下・下・A・B」と全てをタイミング良く入力する必要がある。

剣術レベル3のキャラの場合、「左・下・A」だけで技が発動する。

タイミングの判定も緩くなっている。


また、肉体強化や体力強化は、キャラの攻撃力やスピードを単純に強化するスキルだ。

状況判断がダメだと、せっかくの高いステータスや剣さばきを活かし切れない。

結局、剣術スキルを活かすためには、俺自身の実戦経験も欠かせないということだ。

相手が至近距離に来た時に目をつぶるのは論外だ。



3日目は、金貨1枚と銀貨5枚の報酬だった。


途中でレベルが5に上がった。

アイテムボックスとアイテムルームの容量が増えた感覚がある。


自身のレベル・魔力・MPあたりと相関関係があるのかもしれない。

おそらく魔力だな。

いつか余裕ができたときに、「魔力強化」のスキルを取ればはっきりすることだ。

今は検証する重要性が低い。


アイテムボックスとアイテムルームは、入れている物の質量や体積に応じて、常時MPを消費するようだ。

貨幣程度ではほとんど分からないぐらいの消費量だが、ファイティングドッグをたくさん詰め込んだときの消費量は無視できない。

今日のMP消費量は結構ギリギリだった。


そこで、今回のレベルアップで得たスキルポイント20を消費し、MPに関連するスキルと取ろうと思う。

候補は、「MP強化」「MP消費量減」「MP回復速度強化」の3つである。


考えた末に、MP強化を取ることにした。

レベル2まで一気に上げる。

残りのスキルポイント5は保留にしておく。


今回は直接戦闘系スキルを強化しなかった。

しかし、基礎ステータスは上昇している。

狩りの効率は確実によくなっていくはずだ。



4日目は、金貨1枚と銀貨8枚の報酬だった。


予想通り、狩りの効率が良くなった。

この調子で明日も頑張ろう。



5日目は、金貨2枚の報酬だった。


もう少しいけるかと思ったが、ファイティングドッグと上手く遭遇できなかった。

気配察知を取るのも検討せねば。

この辺りの草原は見晴らしが良いので中途半端に取っても意味はない。

レベル3ぐらいまで上げれば、視認できる範囲以上の効果があるかもしれない。



6日目は、金貨2枚の報酬だった。


完全に頭打ちの感がある。

ファイティングドッグの数自体が明らかに減っている。

俺がたくさん狩った影響か?


受付嬢に相談すると、パーティを組んで他の狩場に行ってみることを勧められた。

それも良いかもしれないな。



●●●



ここはどこだ……?


俺は宿で寝ていたはずだが。

いつのまにかふわふわとした不思議な空間にいた。


ふと気づくと、ミティが俺の前に立っていた。

横には肥え太った豚のような男。

派手な装飾品をいくつも身に付けている。


男がミティの手を取って連れて行こうとする。

ミティが助けを求めるような目で俺を見てくる。


俺は駆け寄りミティから男を引き離そうとする。

しかしそこに奴隷商店の店員が現れた。

いかつい門番もいっしょだ。


俺は地面に押さえつけられる。

ミティが連れ去られていく。

俺を悲しそうな目で見ている。


くそっ、俺にもっと金があれば…………。

もっと力があれば…………。



●●●



今日は嫌な夢を見た。

慌てて朝一で奴隷商館へ行ってみたが、ちゃんとミティはいた。


あの嫌な夢が正夢とならないように、7日目の狩りに精を出した。

無事狩りを終えて、ラーグの街の冒険者ギルドへ向かっているところである。


狩りの途中でレベルが6に上がった。

早速スキルに振りたいところだったが、改めて今後のプランを考えておく必要がある。


ここ数日は、一日当たり金貨2枚を稼いでいる。

このペースでいけば、今の所持金も合わせて、およそ30日で金貨80枚が貯まる。

レベルが上がる度に効率が良くなることを考えると、実際はもう少し早く貯まるだろう。


現実的な日数ではあるが、それまで彼女が売れずに残っている保証はどこにもない。

狩場を移すことを決断する。

上手くパーティが見つかれば良いんだが。


ギルドに到着する。

受付嬢にギルドカードを渡す。

討伐の報告をし、素材の買い取りもお願いする。


今日も金貨2枚だった。

ここ数日は金貨2枚ほどで停滞している。


やはり狩場を移そう。

パーティについて受付嬢に相談しようと思ったとき、後ろから3人組に声をかけられた。


「ふふん。あなたが“犬狩りのタカシ”ね。噂は聞いているわよ!」


「とんでもない量のファイティングドッグを狩っているらしいじゃねェか。その戦闘能力、犬狩りなんぞに使うのはもったいねェ」


「…………然り」



レベル6、たかし

種族:ヒューマン

職業:剣士

ランク:E

HP:52(40+12)

MP:52(26+26)

腕力:23(18+5)

脚力:22(17+5)

体力:55(24+7+24)

器用:27(21+6)

魔力:23


武器:ショートソード

防具:レザーアーマー、スモールシールド


残りスキルポイント25

スキル:

ステータス操作

スキルリセット

加護付与

異世界言語

剣術レベル3

回避術レベル1

MP強化レベル2

体力強化レベル2

肉体強化レベル3

空間魔法レベル2 「アイテムボックス、アイテムルーム」


称号:犬狩り

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