アップダウン

N.C

 窓から生温い風が運ばれてくる。最近は、夢のまた夢だと言われてた三十度を優に超えて、今度は四十度の大台に行こうとしているらしい。世間じゃ熱中症対策に冷房をこまめにつけろとうるさく言われているけど、生憎のところ僕の部屋の冷房が壊れて使えなかった。

 しかもこの時期に夏風邪なんて引いたものだから身動きが取れない。

 結論、地獄。


「あづい」


 タオルで汗を拭いて、ベッドに投げ捨てる。こういう人が、熱中症で病院送りになるんじゃなかろうか。起き上がって涼しいところまで行きたいけど、だるくてぜんぜん動けない。動いたら、たぶん階段で落ちて死ぬ。

 それだけでもまずいのに、この部屋はお空の上のアンチクショウが西から元気に差し込んでくる部屋だ。温度計のよくわからない赤い液体は、現在進行形でちょっと洒落にならないレベルまで来ていた。


「三十二度……」


 まずい。このままじゃ死ぬ。暑さと湿気に殺される。

 落ちることを覚悟でリビングまで這っていこうかと真面目に考えたあたりで、玄関の鍵が開く音がした。やたらと手際がいいから、ハイレベルな泥棒さんか兄貴のどっちかだろう。だけど、入り口には決まった人以外が入ると警報が鳴る兄貴特製の装置が置いてあるから、すぐにわかるはずだ。

 ちなみに、撃退装置はないらしい。作れよ。


「晶、今帰ったぞーっていうかあっつぅ!?」


 開けっ放しのドアから、季節感無視の白衣を着た針金みたいな男がプライバシーなんぞお構いなしに踏み込んでくる。白衣と針金ボディは兄貴のトレードマークだから、一発でわかった。

 兄貴が、散らかった床に膝をついてなにかを探している。なんか狩りゲーの素材探しみたいだ。


「エアコンのリモコンでも探してるの?」


「そうだよピッポッパないのか!? 熱いわ!」


「言い方古いよ。あとエアコン自体が壊れてるから使えない」


「動けアホ!」


 デコピンくらった。針金のくせにすごく痛い。


「病人に追い討ちかけないでよ!」


「バーカ! この部屋の方がよっぽど追い討ちだ! リビングに行くから肩貸せ肩!」


 そんなことを言いながら、強引に肩を掴んで僕を引き上げる。そのまま、僕を背負って灼熱の部屋から、少しは涼しい廊下に脱出した。

 デコピンは痛かったけど、拷問部屋から出してくれたことは素直にありがたい。


「ありがとー」


「兄弟なんだからわざわざ礼なんていらん。それより熱下がったか?」


「少し下がったよ」


「そうかそうか」


 振り返った兄貴が安堵したような笑顔を浮かべる。安心感すら覚えるその表情が嬉しくて、兄貴の背中に顔を埋めた。思えば、身長が兄貴と同じくらいになってから背負ってもらったことなかったなぁ。

 不意に身体を揺すられる。顔を上げると、いつのまにかリビングの目の前まで来ていた。

 リビングのドアを開け、僕をソファに寝かす。そのまま兄貴はキッチンに姿を消した。しばらく動かないで待っていると、氷袋とコップを持って戻ってきた。中身は、匂いからしてコーヒーだ。


「ほらよ。料理作るからそのままで待ってろ」


 兄貴の言葉に耳を疑う。食材を劇薬みたいにする兄貴が料理なんて、今日は僕の命日なんじゃなかろうか。

 一人恐れおののいていると、糸目を開いた兄貴が手に持ったコーヒーカップを少し傾けた。位置からして、中身は僕の顔に落下する。


「疑ってるのが顔見てるとわかるんだよ。コーヒーぶっかけてやろうか」


「ごめんなさい」


「よし。じゃあ作ってくるから待ってろ」


 傾けたコップを下ろして、兄貴はまたキッチンに向かう。それを確認してから、だるい身体を起き上がらせ、コーヒーに口をつけた。


「あ、甘い」


 僕の好きな甘いコーヒーだ。牛乳が入っているからかそれほど熱くない。いっつもニヤニヤしてるような人だけど、こういう細かい気遣いが出来るのはすごいと思った。変態だけど。

 それにしても、キッチンからは調理の音がしない。レンジの音はするけど、フライパンを取り出す音なんて聞こえもしなかった。

 この時点でだいたいの予想はついたけど、とりあえず待ってみる。親友へのSOSは出さずに済みそうだ。

 やがて、キッチンから皿を持った兄貴が姿を現した。


「ほらよスパゲティ」


「絶対にこれコンビニのだよね」


 僕がそういうと、兄貴がなんでわかったのかと言わんばかりの表情をした。バカにしてるのかこの野郎。


「天才か?」


「料理の音が一切しなかったからね」


 兄貴が全力で顔を背けた。首から変な音がして、両手で押さえている。


「まだ料理できないの? いい加減に僕だけじゃなくて兄貴もできるようになってよ。じゃないと一生独り立ちできないよ?」


「わかってるわかってる。わかってるんだが、不味くてとても食えたもんじゃなくな……」


 兄貴は天井を見上げて遠い目をしていた。何年も頑張って料理した結果、少しも進歩しなかったんだからそうなるのも無理はない。


「まぁ、頑張ればいつか作れるようになるから。スパゲティいただくねー」


「コンビニのだけどなー」


 対面のソファでふて寝する兄貴を脇目に麺をすする。コンビニ安定の美味さと濃い味付け。たまにはこういうのもいいかもしれない。

 ズルズルとすすっていると、対面で仰向けに寝ていた兄貴がこちらに顔を向けた。


「そういえば、同僚から風邪薬もらってきたんだが、飲むか?」


「飲む飲む! 兄貴のならまだしも同僚さんのだったら信用できるし!」


「おいそれどういう意味だよ」


 そのままの意味です。


「変な発明してたら、そりゃ当然信用なんて欠片もないよ。それで何回僕が被害を受けたことか」


「そりゃ必要な犠牲。ほら、死んでないだろ?」


「死ぬ死なないの問題じゃない」


 なんで日常から、そんなシビアな問題に立ち向かわなきゃいけないんだ。


「まぁ、そんなことはどうでもいいだろ。ほれ、早く風邪を治せ」


「んー、まあいっか。ありがとー」


 懐から取り出された一包の粉薬を机越しに受け取る。粉はいつも兄貴が作ってる薬のような毒々しい赤とかではなく白。流石は兄貴の同僚、見た目で不安をあおらせない完璧なお仕事だ。

 粉薬の封を開け、コーヒーと一緒に飲み下す。対面の兄貴は、相変わらずのニヤニヤ笑いで口を開いた。


「治ったら感想を聞かせてくれ」


「待って。これ人体実験じゃないよね?」


 飲んだ後に言うとか、たちが悪すぎる。

 それでも、感想を言おうと口を開いた。


「いや、別に何ともないけ、ど」


「ど?」


「ど……あれ、なんか眠くなってきた」


「同僚が睡眠薬でも混ぜたんじゃねぇの?」


 そんな話聞いてない

 そう言うよりも早く、僕の意識はブラックアウトした。




 叩き出されるように夢から覚めた。場所は相変わらずリビングのソファ。クーラーはガンガンにかかっていて、身体には毛布がかけられていた。外から日が差し込んでくるから、少なくとも夜ではないと思う。


「おのれ兄貴……!」


 毛布を蹴飛ばして立ち上がる。やたらと軽い身体をソファから落とし、ドアまで向かおうとした。


「へぶっ!」


 だけど、二歩三歩歩いたあたりで、バランスを崩してすっ転んでしまう。そこでやっと気づいたけど、やたら視界の位置が低い。それに転んだときに、胸の辺りに小さなクッションみたいなものがあった気がする。ズボンもいつの間にかぶかぶかになってて、トランクスと一緒に脱げていた。

 ここで、一つの仮説を立ててみる。

 僕、性転換したんじゃない?


「いやまさかねー」


 そんな二次元じゃあるまいし。いや、それはないそれはない。

 心の中で否定しながら、トランクスの中におそるおそる手を入れて確認する。

 うん、ない。


「ほあぁああぁああ!?」


 間抜けな声が口から出てきた。手を引き抜いて立ち上がろうとしたけど、あわてたのとサイズダウンの相乗効果で盛大にすっ転ぶ。見事に顔面強打して転げ回る羽目になった。


「あいたたた……」


 転がってるうちに壁まで来ていたので、壁に手をついて立ち上がる。ズボンとトランクスをはき直すのも忘れない。重心が今までと全然違うし、やたら体重が軽くてまともに歩けない。ただ、よくある性転換みたいにロリ巨乳にならなかったのは不幸中の幸いだ。

 認めたくないけど、僕は女の子になっていた。ジョークじゃないかとか、寝てる間に兄貴がVR技術を開発して僕に使ってるのかと考えもしたけど、どっちも信憑性がなかった。ジョークにしてはリアリティがありすぎるし、兄貴もそこまで天才じゃない。

 つまりはそういうことなんだろうけど、いやそれはない。


「でも兄貴ならやりかねない……」


 兄貴が僕にくれたのは要するに性転換する薬だったのかもしれない。同僚と嘘をついたのも僕が飲まなくなるだろうから、という理由なら納得できる。

 つまり、やっぱり兄貴は兄貴だった。

 壁に手をつきながら洗面所まで足を運ぶ。一階だとあそこくらいしか鏡がないし、二階に行こうにもバランス感覚無くなってるから無理だろう。

 壁に引きずるように歩きながら、なんとか洗面所の前までたどり着く。前まで軽く手をかけていたドアノブが、なんだか妙に近く感じた。ドアを開け、洗面所に足を踏み入れる。目線が低いせいで、なんだか家が大きくなったような錯覚を覚えた。それを無視して鏡まで向かう。


「うぅ……嘘だ」


 認めたくない現実がそこにはあった。なんとなく面影はあったものの、顔つきや体つきが完全に女の子になってる。肩より少し上まで切られていた髪は背中の真ん中くらいまで伸びていて、野暮ったい服装を除けばどこから見ても女の子だ。死にたい。

 気づけば、膝から崩れ落ちていた。身体の前にあるお肉もなんか揺れたような。いや、これ以上考えるのはやめよう。心が折れる。


「よし、考えを変えよう。ポジティブに行こう」


 立ち上がり、決意を新たにしようとして心が折れた。鏡があるところで立つんじゃなかった。

 姿勢を屈め、鏡から離れてもう一度立ち上がる。洗面所から出ると、そのまま玄関に向かった。兄貴の靴はないから出勤してるだろうし、こういうときは親友に頼ろう。

 いつもより力を込めてドアを引く。外の熱気が中に吹き込んできた。予想より日は高く、粘っこい熱気が身体を包んでくる。まだバランスは取れなくて、しかも玄関から道路まで支えになるようなものがない。道路に行くまでの道が長く感じた。

 ふらふらと危なげに歩きながらも、なんとか道路まで出ることができた。そのまま壁伝いに歩いて、そこでふと自分の服装が寝間着のままだということに気づく。Tシャツの生地が汗で身体にはりつき、身体のラインが浮き出ていた。道行く人の視線が集まっている気がして、反射的に胸を隠す。

 その行動に一番驚いたのは僕自身だ。


「いやいやいや。別に女の子じゃないんだし隠す必要ないでしょ」


 確かに今は女の子だけど女の子じゃないし。そう思い、胸を隠す手を取っ払った。視線が増えたような気がしてなんだか居心地が悪かったけど、それでも男の意地で胸を隠すことはしない。

 塀に手をつきながら、足早に隣家を目指す。親友の家は三軒隣だ。それでも、今の歩く速さでは遠く感じる。

 周囲の目線を気にしながら、なんとか親友の家までたどり着いた。表札が『友部』であることを確認し、インターホンを押す。数秒か待つと、インターホンから親友の声が聞こえてきた。


「あの、どなた様でしょうか!?」


 すごいキョドっていた。確かに、知らない女の子がいきなり訪ねてきたらキョドるかもしれない。咳払いをして深呼吸をし、心が折れそうになる女の子ボイスを絞り出す。


「僕だよ僕。新戸にいどあきら


 なんとか出せたその一言に、しばらく言葉は返ってこなかった。あるのはスピーカー越しの不気味な沈黙だけ。何度か声をかけて、やっと言葉が返ってくる。

「いえ、私の知っている新戸晶は男ですので、人違いですね」

 すごく硬かった。しかも怒ってる。見知らぬ女の子が親友の名前を名乗ってるのがそんなに気に入らないのかな。


「いや、僕だってば」


「いえ、違います」


「僕です!」


「違います」


「僕だよー」


「違うっつってんだろうるせぇなぁ!」


 叫ぶと同時に、何かが崩れる音と親友の悲鳴が聞こえた。

 数秒の沈黙。金属質な何かを踏む音がして、その後に雑音が入る。たぶん、インターホンの機器を掴んだ音だ。


「じゃあ晶だっていう証拠見せてみろ!」


 怒り混じりではあるけど、さっきの情けない悲鳴のせいで色々と台無しだ。

 しかし、なるほど。これは公衆の面前でなんでも言っていいということか。


「まず姉がいる」


「ほう」


「父親は出張してて、母親はドイツに旅行。今は姉と二人しかいない」


「ほ、ほぉ……」


 親友が少し引いてる。悪質なストーカーなどと思ったのかもしれない。

 ならもっと突っ込んだことを暴露しよう。


「中学校時代に自作の小説を原稿用紙に書き殴っていた。中身は主人公が囚われたヒロインを助けるっていうありきたりストーリー」


「え、それって俺と晶しか知らないやつ……」


「ストーリーの展開は今でも覚えてるから、言っていこうか?」


「わかった認めるちょっと待ってろ」


 焦ったような早口のあとに、階段を駆け下りる音がした。そして、足を踏み外すような音のあとにすごく痛そうな音が響いた。勝手に門を開いて玄関のドアを開ければ、階段の前で親友がうつ伏せになっている。


「大丈夫?」


 無言でサムズアップが返ってきた。大丈夫らしい。ならいいか。

 僕にとっては勝手知ったる他人の家なので、問答無用で上がらせてもらった。そのまま親友を軽く踏んで二階へ登る。踏んだときにカエルが潰されたときのような声がしたけど気にしない。そこでやっと、バランス感覚がなんとかなったことに気づく。まだふらふらするけど、さっきほどじゃなくなっていた。

 何度か手すりに触れながら階段を登りきり、親友の部屋に踏み入る。足の踏み場はあるもの、床には塗料缶やら下着やら色々と散らばってゴミ部屋予備軍に入りつつあった。部屋の端っこの箱の山はさっきの大惨事の結果か。


「部屋の整理しないのかなぁ」


 ものを踏まないように爪先立ちで床を歩き、比較的散らばっていないベッドに腰掛ける。数分もしないうちに、妙にぐったりした親友が帰ってきた。


「お前、追い討ちかけるなよ」


「階段の下で伸びてた雄矢ゆうやが悪いと思うんだよね」


「言い訳やめぇや」


 呆れたような表情をした親友にチョップを食らう。その直後、脊髄反射でもしたように雄矢の手が僕の頭から離れた。チョップした方の手を逆の手で包むようにして、気まずそうにしている。首を傾げても、顔を逸らすだけで口を開こうとしない。


「どうしたの?」


 返答なし。チョップした方の右手を見つめてなんか考え込んでるっぽい。

 何回か声をかけてみても反応がない。試しに、雄矢の手と顔の間に頭を割り込ませてみた。


「雄矢ー?」


「はえあっ!?」


 奇声を上げて、足を滑らせたように後ろに倒れる。

 プラスチックが砕ける音と共に、その顔が変な表情で固まった。


「いっでぇえぇえ!! っていうかプラモがぁああぁあ!?」


「あー! ごめん!」


 背中と床の間から、砕けたプラスチックが覗いていた。完全にご臨終なさっている。雄矢は膝をつきながら、涙目でプラモの残骸を掻き集め始めた。近くにあったプラモの箱には値札の紙が貼られていて、金額は五桁に届こうかという高額だ。これは僕でも確実に泣く。

 怒られるの覚悟で雄矢を見ると、気まずそうに視線を逸らし、ばらばらになったプラモをすくうように持って立ち上がった。怒る気配はない。


「怒らないの?」


「あー。別にびっくりしてひっくり返った俺のせいでもあるしなぁ。これもまた買えばいいだろ」


 いつもとは考えられない態度だった。いつもだったらここで襲いかかってきてボコボコに殴られてる。

 よく見れば、ガラクタになったプラモをゴミ箱に入れた親友の動作が、いつになくギクシャクしていた。


「身体のどこか痛めた? そうだったらごめんね?」


「どこも痛めてねぇから気にすんな。しっかし……」


 微妙に視線を外しながら、雄矢は不思議そうに目を細めた。


「お前、本当に晶か? 疑う気はねぇけど、女になったなんぞそう簡単に信じられねぇぞ?」


「そりゃそうだよねー。ちなみにこれ、兄貴の仕業だから」


「お前の兄さんか。そりゃ納得だ」


 流石は兄貴。名前だけでこんな意味不明な事態が説明つくなんて。元凶だから感謝する気もないけど。

 僕が兄貴に対してため息をついていると、雄矢が何か考えるように首を傾げてから頭を掻いた。見るからに居心地が悪そうだ。


「どうしたの?」


「いや、雰囲気とかは晶なのに、目の前にいるのは俺より身長が低い女の子っていうのが違和感あってな」


「身長が低いを強調するのやめてくれる?」


 確かに女の子になって身長縮んだけどさ。そのドヤ顔がすごい腹立つ。僕が男のときは身長で負けてたくせに。


「にしても、お前これからどうするんだよ」


 これからどうするか。そんなの最初から決まってる。


「もう諦めた!」


「おい」


 僕の爽やか笑顔とは対照的に、親友の顔は真剣そのものだ。

 いや、でも考えてみれば悩んだってしょうがないことでしょ。


「兄貴が考えて作ったんだよ? 今まで散々頭のおかしい実験に付き合わされてきたけど、僕たちが危害を加えられたことはないし、その実験で騒ぎが起きても必ず兄貴自身が解決してきたんだから。大丈夫大丈夫」


「お前はホントにブラコンだよなぁ」


「ブラコンじゃないよ!」


 そうしたら全世界がブラコンになる。


「とにかく、今一番重要なことはこれからどうするかだろ。たかしさんに寄りかかるんじゃなくて、俺たちだけで考えられることを考えようぜ」


 珍しく雄矢が親身だ。


「槍でも降るのかな……?」


「おい聞こえてんぞ」


 ドスの利いた声が聞こえてきたので、口を閉じて考えられることを考える。

 まず、最初に学校だ。今日は夏休みの終盤のはず。だからその短い間にこの問題を解決しないといけない。

 そういえば、あまりに衝撃的なことがありすぎて今日の日付を確認するの忘れてた。


「雄矢。今日って何日?」


「八月三十日だけど」


 ……聞き間違えかな?


「何日?」


「八月三十日」


「学校が始まるまであと何日?」


「二日だな」


 確か兄貴と会ったのが二十七日だから、ざっと二日三日寝てたことになる。ただ、今はそんなことを問題にしている暇もない。

 あと一日だ。あと一日で男に戻らないといけない。

 あれ? 詰んでない?

 雄矢も同じ結論に至ったらしく、真っ青な顔でこっちを見つめてくる。

「どうしよっか……?」

 ただ、二人で頭を抱えた。

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